第38話 黒子ハーレム
この日、千彩都はルンルン気分だった。
帰ってきたテストの点数が上出来で、友達とテーマパークに行くことも決まって、なによりこれから、黒子の家に行くからだ。
数日ぶりの生黒子。一緒にお菓子でも食べながら駄弁りたい。
と思っていたのだが、
「は?」
黒子の家に知らない女がいた。
小柄な体、桃色のサイドテール。
警戒気味に、千彩都を睨んでいる。
なによりも目を疑うのは、彼女が黒子の腕に抱きついていること。
まるで甘えん坊の子供のように。
「え」
「あ、千彩都。この子が前に話したヨルヨちゃん」
「日輪、ヨルヨ……ちゃん? あれ? え、敵なんじゃ……」
黒子に代わって、ヨルヨが答える。
「友達になったの。くふふ」
「友達」
「一緒に暮らしてるの。くふふふふ」
「……」
慌てて黒子が補足した。
ヨルヨの家には誰もいない。だから共に暮らすことにしたのだと。
ち・な・み・に、寝室は別である。
たまたま部屋が余っていたのである。
「あ、うん」
別に、黒子に新しい友達ができたことに文句はない。
ない。ないが。なぜかモヤッとする。
唖然としていると、キッチンでお茶を淹れていた鎌瀬太郎が出てきた。
「いやはや、仲良きことは素晴らしきかなってやつっすね〜」
「そ、そうだね」
「俺知ってるっすよ、これ、百合ってやつなんすよね?」
「違うよ」
「違うんすか?」
「百合じゃないよ。ただの友情だよ」
「えぇ、でも……」
ヨルヨが嬉しそうに黒子の腕を抱きしめている。
「えへへ、黒子〜」
黒子も恥ずかしがってはいるものの、
「ちょ、ちょっとヨルヨちゃん」
満更でもなさそうだった。
「はじめまして、私は逆叉千彩都。黒子の幼馴染」
「幼馴染?」
「そう。小さい頃からの付き合いでさ、もう何回も一緒に寝たり、お風呂入ったりしてる」
「寝たり、入ったり?」
共に暮らすようになっても、未だにそんな経験はない。
恥ずかしいし、ベッドや風呂が狭くなるからと、黒子が断っているのだ。
なのに、千彩都とは、幼馴染とは。
「くふふ、ご冗談がお上手ですこと」
「はは、本当ですけれども」
「……」
「……」
この日、駿河はルンルン気分だった。
なんせ久しぶりに黒子に会えるのだ。
しかも家にお呼ばれしている。
今後についての話し合いという名目だが、その実はお菓子でも食べながらお喋りするのが目的。
この機に、一気に黒子との距離を縮めたい。
あくまでも、友達として。
「は?」
駿河の目に、意味不明な光景が広がっていた。
「あ、駿河さん。どうぞどうぞ」
鎌瀬太郎がいるのはまだ許す。
千彩都がいるのは……よろしくはないが、最初から分かっていたことなので飲み込める。
しかし、しかし!!
「なんで、なんで、なんでいるの?」
あの日輪ヨルヨが、黒子の腕に抱きついている事実だけは、度し難い!!
ヨルヨも駿河を睨みつけて、両者の間にバチバチに火花が散っていた。
「実はカクカクシカジカで……」
「な、なによそれ……」
ヨルヨが嘲笑うかのように鼻で笑った。
「くふふ、あんたより私の方が黒子と一緒にいる時間、長いから」
このクソガキッッ!!
ちょっと前まで塩らしくなってたのに、この変わりよう。
まるで初対面の頃に戻っているではないか。
メスガキ→病み病みダウナー少女→メスガキになっているじゃないか。
ていうか何があってこんなに黒子に懐いているのか。
まるで恋人のような面しやがって!!
新参者のくせによお!!
駿河と千彩都が顔を合わせる。
黒子の『一番』を取り合うのは、駿河と千彩都だけではない。
新たにクソガキが参戦したのだ!!
「くふふふ。く〜ろこ♡」
「ヨ、ヨルヨちゃん、ちょっと離れよ? な、なんか恥ずかしいよっ!!」
「え〜、いいじゃーん」
駿河の目が、闇に染まった。
「そういえば私あのとき、なにかの役に立つと思って、こっそり隠し撮りしてたのよね」
「はあ? なにを?」
「あんたが、豚になったときの映像」
「え……」
「黒子に見せちゃおうかしら」
「くっ!!」
千彩都も続いた。
「ねえアポ魔女さん。私にそのデータちょうだいよ」
「えぇいいわよ。もしものときは拡散したら?」
くぎぎ、とヨルヨは思いっきり歯を食いしばった。
「この人でなし!!」
「あなたに言われたくないのよ!!」
三者三様、三つ巴開戦。
幼馴染の千彩都。
相棒ポジションの駿河。
同棲を開始したヨルヨ。
誰が黒子をゲットするのか、神も予測不可能な今世紀最大の戦争が、はじまった。
なにやら重たい空気を察した黒子が、苦笑する。
「あ、あはは。とりあえずお菓子食べようよ。ね、千彩都」
「黒子、私今日泊まってくね」
「え!? う、うん。いいけど」
千彩都の先制攻撃。
「私も泊まるわ、黒子」
「駿河さんも!?」
負けじと駿河も喰らいつく。
「黒子〜、わたし〜、黒子と一緒にお風呂入りたーい」
「ヨルヨちゃん、そ、それはさすがに……」
ちなみに、どうしてこんなに空気が悪いのか、理解していないのは黒子だけである。
「あ、あはは。な、なんか賑わっちゃいましたね!! みんなでお泊まり、楽しみですー」
めでたしめでたし。
「師匠に友達いっぱいで俺も嬉しいっす!! 仲良きことは素晴らしきかな、すね!!」




