第37話 日輪ヨルヨ その2
「ヨルヨちゃんって、いま生活どうしてるんですか?」
暑いダンジョン内を2人で歩む。
壁や天井、地面からも熱気が発されており、立っているだけで汗が噴き出る酷暑地帯であった。
「いまは、ひとり。家政婦さんもいなくなったから」
しかし、そこは我らが黒猫黒子。
自らが生産した『ハイパー冷却インナー』を下に着込み、体温の上昇を抑えていた。
とうぜん、ヨルヨも着ている。
とうぜん!! ヨルヨは一度ゴスロリを脱いでからインナーを着ているッッ!!
「そうなんですか……。じゃあ本当に、家に誰もいないんですね」
「あ、モンスター」
「ファイアースライムですね」
赤いスライムが2人の前に飛び出す。
ファイアースライムは攻撃的で、火を吹くので通常のスライムより危険度が高い。
「よーし、ここは私のブリザードガンで」
「平気」
突如、ファイアースライムが宙に浮かび、物凄い勢いで地面に叩きつけられた。
衝撃凄まじく、スライムは気を失ってピクリともしない。
「ほ、ほわ〜、これが噂の重力操作スキルですか……。駿河さんから聞いてましたけど、凄いですねぇ」
「……くふ」
あまり表情には出ていないが、褒められて嬉しそうである。
ヨルヨの『重力操作スキル』のレベルはAAで、5メートル圏内の、視界に入っている対象一つに発動する。
よっぽど強いモンスターでもない限り、一対一ならまず負けないだろう。
「ヨルヨちゃん、久しぶりに笑いましたね!!」
「……」
「あはは、そういえばヨルヨちゃんの冒険者ランクは?」
「AAA」
「じゃあ中盤までいけますね。そこに降る『熱い氷』でかき氷作りましょう!!」
「熱い氷?」
「はい!!」
経験豊富な黒子と強力なスキルを持つヨルヨ。
2人が揃えば向かうところ敵なしといった具合で、すぐに中盤のゴールにたどり着いた。
広いフロア。行き止まりになっているが、Sランクになれば隠し扉を見つけて先に進める。
それよりも特筆すべきは、
「うわあ」
高い天井から降り注ぐ、白い雪である。
地面に高く積もって、さながら冬景色のよう。
「不思議。こんなに暑いのに」
「ですよねぇ。あ、食べても大丈夫ですよ」
ヨルヨの頬に滑り落ちた雪は、確かに熱い。
「すごい……」
黒子がリュックから2人分の器と、赤いシロップを取り出した。
大きめのスプーンで氷をよそい、シロップをかけてかき氷の完成である。
「なんで溶けないんだろう」
目をまんまるにして、ヨルヨはじーっとかき氷を見つめた。
復讐や、家族の喪失を忘れた、純粋な瞳。
年相応の女の子が、そこにいた。
「ささ、どうぞ」
「ん……。おいしい」
「氷のようなシャキシャキ食感で、美味しいですよね!! 体も温まって……って、ここじゃ、温まる必要はないんですけど」
「くふ、くふふ。美味しい」
一心不乱に食べる姿は、まさに美味しいスイーツに巡り合った女子そのものである。
「あ、ヨルヨちゃん。コメント来てますよ」
「へ?」
いつの間にか視聴者がいたようだ。
たった1人だが、ずっと観てくれていたらしい。
しかも、
・初々しくて癒されます。【10000円】
スパチャ付きのコメントである。
「凄いですねヨルヨちゃん!! スパチャです!!」
「お、お金……」
はじめて、真っ当な努力を経て報酬をもらった。
そもそも、こうやって赤の他人に評価されたのだって、はじめてである。
嬉しい。
かつての自分では、決してこんな喜びは得られなかった。
脳みそがキラキラで満ちるような感覚。
けれど、同時に、
「私……酷いこと、してた」
どうしようもない罪悪感に襲われていた。
真っ当にダンジョンを攻略して得た楽しさ。
そうやってダンジョンを楽しむ冒険者たちを、ヨルヨたちドットマジェスティは苦しめていたのだ。
もっとちゃんと、部下を躾けておくべきだった。
兄に意見して、無関係の人間を巻き込まないよう説得すべきだった。
ドットマジェスティのやり方が間違っていると、気づくべきだった。
なのに、当時の自分は、『弱いやつが悪い』のだと、『兄が絶対的に正しい』と思い込んでいた。
兄に指示されたら、平気で他人を傷つけていた。
ヨルヨは初めて、己の罪深さに気がついたのである。
「確かに、ヨルヨちゃん自身は積極的に悪さをしたわけじゃなくても、部下を止めず、シンヤさんの指示があれば襲ったりしてました」
その罪は裁かれることなく、自由を手にしている。
「わたし、わたし……」
「だから、これから変わっていきましょう。せっかくお父さんが最後まで守ってくれたんです。いろんな人を手助けして、悪い人をやっつけて、少しでも、罪滅ぼしをしていきましょう」
「それで、いいのかな」
「いいんです」
どのみち、確たる証拠が存在しない以上、警察に自首したところで正当な罰は受けられない。
「ヨルヨちゃん、独りで暮らしているなら、私の家に来ませんか?」
「家に?」
「独りぼっちなんて悲しいじゃないですか。ヨルヨちゃんは独りじゃありません。私がいますから」
ヨルヨの瞳が涙でぼやける。
こんなに優しくされたのは、産まれてはじめてだ。
「……ありがとう」
「なりましょう。良い子のヨルヨちゃんに」
「うん!!」
こうして、日輪ヨルヨは、黒子の家で新たな人生を送ることになったのだった。




