第36話 日輪ヨルヨ その1
ドットマジェスティとの戦いも終わり、黒子は平和な日々を満喫していた。
それでもときどき脳裏を過ぎる。
件の凶悪犯と、日輪ヨルヨのこと。
「シンヤさんを殺した人、いったいどんな人なんでしょう」
なんとなく、父親の顔を思い浮かべた。
詐欺と殺人で死刑囚となった忌むべき存在。
常に睨みを利かせているような、恐ろしい男であった。
「はぁ……。よーし、今日もお仕事がんばるぞ!!」
本日の依頼は……冷たいジュース。
ただの冷たいジュース(マンゴー味)である。
ダンジョンアイテムですらないが、それが逆に新鮮で、依頼を受けたのだ。
「さてさて、ここか」
指定されたダンジョンは熊谷市にある山型のダンジョン。
たしかに、ここは暑い。
炎系モンスターも大量にいる灼熱ダンジョンだ。
「おおおおおお待たせしましたーーっ!!」
毎度ながら電動キックボードで颯爽と登場すると、
「え!?」
「あ……」
桃色のサイドテールにゴスロリ衣装の女の子、日輪ヨルヨがいたのだった。
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ヨルヨはマンゴージュースを一気に飲み干すと、満足そうに微かに頬を上げた。
多少なりとも、喜怒哀楽が戻りつつあるらしい。
彼女の頭上には撮影用のドローンが飛んでいるが、コメント確認用のバーチャルディスプレイがないので、おそらく配信はしていない。
「助かった」
「え、えっと、なにしてるんですか??」
元の暗い無表情に戻って、ヨルヨが答える。
「ダンジョン攻略」
「う、うーん。なるほろ。え、本当にただのダンジョン攻略?」
「ダンジョンにいればお母様とお兄様の仇に会えるかもしれないし、お金も欲しい。スパチャ、ていうやつ」
「お金って……」
ヨルヨの父が逮捕されたことを思い出す。
稼ぎ頭を失って、貯金もすべて使い果たしてしまったのだろうか。
「独りで生きていくための、一歩」
「ヨルヨちゃん……」
「お父様とお兄様の代わりに、私ひとりで探し出して、仇を取るの」
危険だし、仮に発見できても十中八九殺される。
いくら手負いとはいえ、あの日輪シンヤですら敗北したのだ。
だがおそらく、ここで注意しても聞く耳持たないだろう。
「独りなんて言わないでください。いつでも力になるって言ったじゃないですか」
「……敵、だったもん」
「そんな……」
ヨルヨまでそんな過去のことを気にしているのか。
黒子の目頭が熱くなる。
あまりにも、寂しい。
「関係ないですよ。どどんと私に頼ってください。ほら、なにか困ったことありませんか?」
「……じゃあ」
「はい?」
「配信の仕方、知ってる?」
「あ〜、なんとなくわかりますけど」
「ドローン飛ばしてみたけど、わかんない」
「わかりました!! スマホ貸してください」
「ん」
「あ、チャンネルすら持ってないんですね」
「なにそれ」
どうやら黒子以上にネットに無頓着らしい。
最近の子供は動画配信サイトが大好きなはずなのに、珍しい小娘である。
黒子はその場でチャンネルを作ってあげることにした。
「ヨルヨちゃん、少しずつお喋りできるようになってきましたね!! 私に心を開いたのかな? なんちゃって!! あはは」
「……」
「ご、ごめんなさい」
当初のクソ生意気なメスガキに戻ってほしいわけではないが、あれくらい感情豊かなヨルヨになってほしい、という思いはあった。
スマホを操作しながら、さらに問う。
「そういえば、ヨルヨちゃんはこれまで、どんな悪いことしてきたんですか?」
「悪いこと?」
「はい。隠さなくてもいいですよ。録音しているわけでもないですし、ちょっとした好奇心です」
あとから『実は人殺しです』なんて告白される前に聞いておきたいのだ。
ヨルヨの過去。
過ち。
それらを認めた上で、共に償いたいから。
「ダンジョンに落ちてた財布をくすねた」
「はい」
「スプレーで落書きした」
「はいはい」
「襲ってきたロリコンを、ボコボコにしてやった」
「お〜」
「後は、お兄様の指示で、松平駿河と戦った」
「……い、以上ですか? こう、なんかドットマジェスティらしいことは?」
「お金には困ってなかったし、私の目的は、復讐だから」
「な、なるほろ……」
もしかすると、シンヤと組織の雑魚メンバーが極悪なだけで、彼女自身はただのイキった子供なのかもしれない。
「そんなもんですか?」
「む……。私はダンジョンで一番悪い女」
たぶん、もっと上がいる。
しょっぼい犯罪自慢だが、それでもまあ悪人といえば悪人である。
実際、駿河は彼女に苦しめられたのだから。
「ひとつ、私と約束してくれませんか?」
「?」
「これからは悪いことをしないこと」
「……」
「私、ヨルヨちゃんと友達になりたいんです」
ヨルヨは何も応えない。
無理もない。ヨルヨの人生は友情とは無縁だった。
亡き兄、シンヤの後ろを歩くばかりで、友達など作ったこともない。
友達とはどう言う生き物なのか、まったく想像できないのだ。
それから無事にチャンネルを作成し、さっそく配信を開始する。
当然、視聴者は0だ。
「よし、じゃあとりあえず、このダンジョンクリアしちゃいましょうか」
「別に、一緒じゃなくても……」
「いいじゃないですかあ、何かの縁です」
有無を言わさず、ヨルヨの手を握る。
「さあ、行きましょう!!」




