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第34話 高田直次

「おおおおおお待たせしましたーーっ!!」


 黒猫黒子は今日も荷物を運ぶ。

 ダンジョンでお困りの冒険者に、アイテムを届けるのだ。


「お、きたきた」


 本日の依頼人は高田直次(21歳)。

 深谷市にある廃城型ダンジョンで、暗視ゴーグルを依頼した青年である。


 この廃城ダンジョンは昼間だろうが夜のように暗く、窓の外も闇が広がっている。

 モンスターが出現するほか、建物内の構造が変化したり、いつの間にか外にでてしまったりと、迷路のように冒険者を惑わすのだ。


「ライトをつけてるとー、3階に登る隠しルートが見つからないらしいんですよね〜」


「そうですね。ここはライトを感知して冒険者を追い出す、生きたダンジョンですから」


 高田の頭上には撮影用のドローンが飛んでいた。

 こんな暗いところで配信しても、視聴者は何も見えないだろうに。


「ゴールにある『老王女のティアラ』、今日こそゲットしたいんすよ」


「何度も挑んでいるんですか?」


「もう何ヶ月経つかなあ〜、結構来てますよ。でも俺、幽霊とか信じちゃうタイプで、何度もリタイアしてんすよ」


「あ〜」


 このダンジョンには噂がある。

 本物の幽霊が出るという噂が。


「この前なんか、モンスターもいないのに絵画が落ちたりして」


「ポルターガイストってやつですね」


「だからもう、1人じゃしんどくて〜」


「……」


「お願いします!! 黒猫黒子さんは依頼人と一緒にダンジョン攻略してくれるんすよね??」


「いや、あの、私は……」


 デリバリー専門なので、協力は基本しないのだ。

 とはいえこのダンジョン、黒子も興味があった。

 正確には、隠された宝石『ゴーストパール』に。


 光を当てると消えてしまう摩訶不思議な魔力石。きっとなにかの素材に利用できるに違いない。

 以前攻略した時はゲットこそしたものの、うっかり無くしてしまったので、リトライの意味を込めて挑戦するのも悪くない。


「はぁ、わかりました」


「お、さんきゅーでーす」


 この高田という男、どこなく鎌瀬に似ていて、黒子は若干の苦手意識を抱いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 黒子も暗視ゴーグルを装着して先に進む。

 出現するモンスターは小型の雑魚ばかりであるが、こうも暗いと、さすがの黒子ですら恐怖心を抱いてしまう。


「ひやあ、不気味っすねえ」


「冷静に対処していけば、大丈夫です」


 踊り場を超えて3階へ上がる。

 最上階まで、あと半分。


 別の階段を目指して、廊下を進んでいく。

 窓は閉め切っているのに、冷たい風が黒子の腕を撫でる。


「わ!! でかい蛾!!」


「落ち着いてください。こちらに危害を加えたりしませんから」


 黙っていると、2人の足音しか耳に届かない。

 それがまた心臓を締め付け、嫌な汗をかかせる。


 コツコツ、コツコツと、少し小さな歩幅で歩き続ける。


「黒猫さん」


「はい?」


「もし、ガチで幽霊出たら、どうしますか?」


「や、やめてくださいよ、そういうの」


「だ、だって」


 高田の声が上擦っている。

 身を縮めて、明らかにおかしい。


「さっきから足音、多くないですか?」


「え」


 立ち止まって確認する。

 コツ、コツ、コツ。

 確かに、足音がこちらに近づいている。


「き、きっと別の冒険者さんですよ」


「ひぃん!! 今日はここまでにしましょうよ〜!!」


 音がどんどん大きくなる。

 そして、


「あ」


 スカートを履いた、下半身だけの存在が、黒子たちの背後から現れたのだ。


 こんなモンスター、すべてのダンジョンをクリアした黒子の記憶には刻まれていない。

 つまり……。


「は、走りましょう!!」


「どこへ!?」


「とにかく最上階です!! クリアすれば、入り口までテレポートできますっ!!」


 ビビる高田の手を引いて、黒子は全速力で走った。

 思考なんか回っていない。真っ白になった脳みそで、直感を頼りに突き進んでいく。


「やばいやばいやばい」


「自慢のアイテム生産スキルでどうにかしてくださいよーっ!!」


「無理ですーーッ!!!!」


 幽霊を撃退できるアイテムなど、作れるわけがない。


 そうこうしていると、


「はぁ、はぁ、さ、最上階です」


「あの化け物は……」


「足音しませんね。撒いたのでしょうか」


 とにかく、ここまで来たならゴールしてしまおう。

 一番奥にある寝室に入り、宝箱を開ける。


「お、ゴーストパールありました」


「老王女のティアラは、どこにあるんすか?」


「えーっと、たしか」


 壁にかけられた老女の絵に、ゴーストパールを見せる。

 すると、天井に穴が空き、宝箱が落ちてきた。


 中身は、銀色を基調とし、様々な宝石が散りばめられたティアラ。

 老王女のティアラである。


「つ、ついにゲットだーーっ!!」


「おめでとうございます」


 下半身だけの幽霊はもう追ってきていないようだ。

 黒子がクローゼットを開けると、青白く光る魔法陣が描かれていた。


「ここから出口までテレポートできますよ。……あれ?」


 振り返ると、どこにも高田の姿がなかった。

 ティアラだけが、床に落ちている。


「え、高田さん? 高田さーん」


 あんなに欲しがっていたティアラを置いて、どこに消えてしまったのだろう。

 部屋から出たなら、扉を開ける音くらいするはず。


「ま、まさか……」




 後日、ネットに詳しい幼馴染の千彩都から、今回のダンジョンで過去に発生した事故について聞かされる。


 数ヶ月前、配信中に階段から落ちて亡くなった青年がいた。

 名前は、高田直次。


 さらに黒子が廃城に挑戦した日、どの動画投稿サイトにも、廃城での配信は開始されていなかった。

 つまりあのとき高田は、配信をしていなかったのだ。


 何故なら、彼は……。


「じゃ、じゃあ、どうやって私に依頼したの? それに、あの下半身のお化けは?」


 それから数日後、他の冒険者が配信中に下半身お化けを退治した。

 ただの新しいモンスターでしかなかった。


 そう、本当の幽霊は、ずっと黒子の側にいたのだ。


 それからしばらく、黒子はあの廃城に荷物を届けることはなかった。

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