第30話 蔵前ララナ その1
その女、蔵前ルルナは死にかけていた。
自室のパソコンの前で顔面蒼白になり、吐き気すら覚えていた。
なんなら脈すら止まりかけていた。
「黒猫ちゃんが……消えた!!」
黒子がシンヤとの戦闘の末に数日入院していたことなど、ルルナは知る由もない。
黒猫黒子スレに張り付いても、目撃証言がまったく書き込まれないのだ。
スレ内の住人も、
・引退かな
・こんなスレ作るから
・黒猫黒子見ないと夜しか眠れない
・このスレの連中キモすぎww 現実の女に相手されない哀れな弱男wwww
・いまどき『w』は年齢バレますよおじいちゃん
・ガキは寝てろ
とまあ、酷く混沌としていたのだった。
「一体どうして!? なんで!? 私の日頃の行いが悪かったの!?」
おそらくそうかも。
「そういえば、松平さんも最近、学校休んでる……はっ!! まさか2人になにかあった?」
あった。
「例えば、ダンジョンで危険な目に遭っていたとか」
遭っていた。
「わ、悪いやつと死闘を繰り広げてたとか」
繰り広げていた。
「それで入院してたとか!?」
勘が良すぎる。
「んなわけないか、はぁ」
んなわけあったのだが。
「ファンタジーじゃあるまいし」
ダンジョンのある世界の住人のくせして、妙にリアリストである。
そんなこんなでがっくりうなだれていると、部屋に母親が入ってきた。
ルルナをそのまま大人にしたようにそっくりな、美人ママ。
蔵前ララナである。
「ルルナちゃ〜ん。だーいすきな青椒肉絲、できたわよ〜」
「……あとで食べる」
「えぇ〜。せっかく作ったのに〜。ママ悲しい〜。およよ」
「あとで食べるって。いまそれどころじゃないの」
「あ、そうだ!! 実はママ、最近ダンジョン配信を視聴しているのだ〜!! ルルナちゃんと共通の話題が、できちゃったのだ〜!!」
「もう!! ほっといて!! 私は反抗期なの!!」
「がび〜ん!!」
反抗期ならしょうがない。
ルルナだってお年頃なのだ。
親に縛られず、自由に推し活したいのだ。
「はぁ、黒猫黒子ちゃん。どこに消えちゃったの……」
「黒猫、黒子?」
「会いたいよぉ。黒猫黒子ちゃん」
「黒猫……」
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翌日。
「おおおおおおおおおおおおおお待たせしましたーーっ!!」
久しぶりのデリバリー業で、黒子は気合を入れまくっていた。
やはり、自分には戦闘なんかよりお荷物運びの方が性に合っていると、ご機嫌笑顔で荷物を取り出す。
「ご依頼のダウジングコンパスです」
「あら〜、ありがとう。デリバリーさん」
「サインをお願いします」
「はいはい。蔵前、ララナっと」
そう。依頼人はまさかのララナであった。
しかも配信までしている。
無名配信者なので視聴者は一桁しかいないが、それでも、
・黒子!?
・生きとったんかワレ!!
・相変わらず可愛い
・うおおおお!!!!
・その笑顔に癒やされる
と、黒子の登場に沸く者もチラホラいた。
さすがネットの有名人(不本意)。
黒子はララナのバーチャルディスプレイに映ったコメントに苦笑して、伝票をしまった。
知らない人たちに注目されるのは、やはり得意ではない。
「ご依頼、ありがとうございました」
「んー? あなた、どこかで見たことあるような……」
「どこかでお会いしましたか?」
「どこだったかしら……」
娘の部屋である。
娘の部屋の壁や天井に顔写真が貼られまくっているからである。
「それよりも、どうしてこのダウジングコンパスを依頼されたんですか? 新商品なので、ちょっと使い道を聞いてみたくて」
「これさえアレば、配信者さんを捜せるんでしょう?」
探索スキルがない黒子が生産した捜索アイテム。それがダウジングコンパスである。
配信をする際の電波を感知し、その方向へ案内してくれるのだ。
もちろん、特定の人物に絞ることが可能である。
「てっきり私ぐらいしか使わないと思っていたんですけど、会いたい配信者がいるんですか?」
「そうなの〜。娘が会いたがっている人がいるの〜。だいたいこのダンジョンにいるってネットに書いてあったからあ、サインを貰ったら、娘が喜んでくれるかなって〜」
ルルナに感謝されて仲良し親子に戻ろう大作戦である。
「へえ。なんて人なんですか?」
「確か、黒……」
「黒?」
「黒……くろこ……」
「黒、くろこ?」
「あ、そうそう!! 黒鉄黒小次郎よ!!」




