第25話 ドットマジェスティ その3 前後と上下
「俺は日輪シンヤ。俺の兵となれ、黒猫黒子」
余裕綽々の自己紹介。
どうやら、身分が明らかになることに、一切の恐れがないようだ。
「いやです。私も駿河さんも、あなた達みたいな悪い人の仲間になんてなりません」
「たとえ、利害関係が一致しても、か?」
「目的のためには他人がどうなろうと知ったこっちゃない。そういう態度、ムカつきます」
「しかし松平駿河の心は揺らいでいる。あの女は俺たち側の人間だ。『何がなんでも姉を見つけ出したい』とな。……あいつがこちらに付けば、お前もついてくるだろう。大事な友達だ。放ってはおけまい」
「駿河さんはーー」
「なるさ。あとひと押しだ。だから、お前を先に兵士にする。『友達もいるし、仕方なく仲間になるんだ』と責任から逃れさせてやれば、あとはすんなりさ」
「人を思い通りにできると思ったら、大間違いです」
「できるさ。してきたからな」
「なんでそんなに兵士なんか欲しいんですか。その、倒したい凶悪犯とやらは、何者なんですか」
「この世で最もおぞましい悪魔さ」
黒子からしてみれば、いま目の前にいるこの男の方が悪魔に見える。
シンヤはポケットから小石を取り出し、
「まずは、この目で見てみるか。お前の力」
宙に投げる。
瞬間、小石は高速で黒子に迫った。
「!?」
なんとか回避して、リュックからフレイムガンを出し、発射する。
だが、炎弾はシンヤに当たる直前で、こちらに跳ね返ってきたのだ。
「え!!」
これも慌ててかわし、
「蜘蛛さんたちよ!!」
リュックから小さな機械の蜘蛛を5体、シンヤに向かって撒き散らした。
麻痺性の毒を持つ黒子お手製の蜘蛛だ。
カサカサとシンヤに接近するが、
「無駄だ」
体に登る前に、すべて吹き飛ばされ、
「あっ!!」
バラバラになってしまった。
「防御系のスキル……ですか?」
「ふふ、どうだろうな」
シンヤが手をかざす。
途端、黒子の体が、
「え?」
シンヤに向かって引き寄せられた。
首を彼に掴まれ、気管を塞がれる。
「な、なんで……」
防御系のスキルなんかではない!!
「これはお前にもメリットがある話だぞ黒猫黒子。とうぜん、金は支払う。言い値を出そう。それに、ダンジョンでなにをしても自由だ。俺が保証する。……どうだ? 他に要求があるなら言え。お前は特別だからな、用意してやる」
「い、いやだ……」
「お前はただ、情報提供と戦闘だけしてもらえばいい。悪いことがしたくないなら、それでもいいんだぞ? なにを悩む必要がある。メリットしかないだろう。もちろん、離反するなら全力で潰すが」
「絶対に……いやです!!」
平然と人を傷つけるような集団の一人になんて、死んでもなりたくないのだ。
「……強情だな。素直に言うことを聞かないのであれば、薬漬けにして従順にする他ないぞ。調べたが、お前一人暮らしだろう? 親も刑務所。消えたって誰も悲しまないし、探さない。徹底的に調教して、犬になってもらう」
「そのときは、舌を噛んで死んでやります!!」
黒子の強気な反発が、シンヤから期待の熱を奪った。
今回の接触、目的は黒子の勧誘であるが、不可能となれば排除も辞さないつもりでいた。
組織の脅威を駆除できるからだ。
黒子の強かさ、是非とも手に入れたかったが、無理ならしょうがない。
道具にすらならない邪魔者なら、消すまでだ。
「じゃあ、この手で殺してやる」
シンヤがさらに力を込める。
このままでは気絶、最悪死んでしまう。
そのとき、
「師匠から離れろ!!」
目を覚ました太郎が、手のひらから強力な水流弾を発射した!!
「なっ!?」
水流弾に直撃したシンヤの手が緩む。
その隙に、黒子はババっと距離を取った。
「鎌瀬くん!!」
「す、すみません師匠、やっぱり……足手まといでした……」
スキルを使用して体力を使い果たしたのだろう。
太郎はまた気を失い、地に伏した。
「鎌瀬くん……」
「ちっ、無駄なことを」
「そうでもないですよ」
「は?」
「なんとなく、あなたのスキルの全貌が見えてきました」
弾く。
引き寄せる。
その両方が可能なスキル。
「操っているのは、引力と斥力」
「……」
「しかも完全じゃない。効果範囲が決まっている。違うなら、今すぐにでも私をまた引き寄せたり、弾いて壁に叩きつければいい。……おそらく範囲は、5m」
「ふっ」
「それに、鎌瀬くんの奇襲を防げなかった。意識の外からの攻撃だったから。……視界に入っていないと、引き寄せることも弾くこともできない」
「さすがだな。だが、わかったところでどうなんだ? 今後は背後にも気をつければいい、それだけだ。見たところ、お前の運動能力は普通の女の子。走って逃げても、俺に追いつかれる」
「逃げやしませんよ。……倒します。ダンジョンで悪さする人は、許しません!!」
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駿河が双剣を構える。
不敵に微笑むヨルヨの他に、敵は6人。
どんなスキルを持っているのか不明だが、やるしかない。
まず狙うは、一番弱そうなヨルヨ。
「一撃で終わらせる」
踏み込んで一気に接近。
間合いに入り日本刀を振り上げたそのとき、
「うっ!!」
急激な体の重みに膝をついてしまった。
何十キロもある石を背負わされているかのような感覚。
押しつぶされそうになる。
「くふふふ、どうしちゃったの? いきなり太った?」
「こいつ……」
重量を操っているのか。
なんでもいい、体が重いのなら、気合でどうにかするだけだ。
足に渾身の力を込めて立ち上がる。
刀を握り直し、ヨルヨを薙ぎ払おうとすると、
「え?」
今度は体が軽くなり、空中に浮かんでしまった。
まるで風船のようにふわふわ上昇して、自由に動くことが困難となる。
「ま、まさか」
「くふふふふ、ようやく気づいたの? そうよ、私のスキルは……」
上昇が止まり、地面に落下する。
「重力を操る」




