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第1話 ガールミーツガール

 一人の少女が絶叫しながら吹き飛ばされた。

 薄暗く、じめっとしたダンジョンの地下10階層に、少女の悲鳴がこだまする。


 その様子を、両手に刀を握った美少女が眺めていた。

 長い紺色の髪。

 凛とした顔つき。


 誰が見ても、二度は振り返るほどの美貌であった。


「ちっ」


 吹き飛ばされた衝撃で気絶したのだろうか。ピクリとも動かない。


 斜め左に浮かぶバーチャルディスプレイが、次々と文字列を映しはじめた。


・やばい


・仲間がやられた!!


・これ詰んだな


・さすがのアポ魔女でもキツいか


・相性悪すぎ



 アポ魔女、正式には『アポカリプスの魔女』と呼ばれる紺色の髪の美少女が、敵に向けて刃を構える。


 巨大な青色のスライム。見た目に反してその討伐難易度はAAAクラス。

 このダンジョンのラスボスである。


・逃げよう


・逃げて


・装備整えよう


・だれかー


・これが埼玉の洗礼か


「静かに。逃げるなんて無様な真似はしないわ」


 数年前、埼玉中に出現した数多のダンジョン。

 なぜ埼玉県オンリーなのか定かではないが、それによって世界は大きく変化し、ダンジョン攻略をネット配信する行為が大ブームを引き起こしていた。


 アポカリプスの魔女や、気を失った少女の頭上にある球体型のドローンが、一部始終を撮影し、それが全世界へ配信されるのだ。


 ダンジョンに踏み込めば、どんな人間でも『スキル』を発動できる。

 当然、強力なスキルを持った凄腕冒険者の人気は、凄まじい。


 アポカリプスの魔女もその人気配信者の一人であった。


「剣で切っても再生する……そもそも近寄れば、体を鞭状にして攻撃してくる。コアも無いし、厄介ね……」


 これまで数多くのモンスターを撃退してきた自慢の剣術スキルも、液状モンスターには無意味。


 だから魔法スキルを持った仲間を連れてきたのに、早々にやられてしまった。


 絶体絶命。万事休す。


 少女の頬に汗が伝った、そのとき、


「おおおおおまたせしましたーーーーっ!!」


 突如、電動キックボードに乗った黒髪の女の子が乱入してきた。

 大きなリュックを背負い、短い髪を汗で濡らし、乗り物に乗っているはずなのに息まで切らしていた。


「いやー、はは、遅れてすみません!!」


・だれ?


・友達?


・かわいい


・おやおや


「あなたが、月野英子さんですか?」


「え、いや、それはそっち」


「へ? あちゃー、間に合わなかったか〜。注文通りポーション持ってきたのに」


「な、なんなのあなた」


 屈託のない愛らしい笑顔で、少女が答えた。


「私は、黒猫黒子のデリバリーサービスですっ!!」


「デ、デリバリー?」


 そういえば回復薬のポーションを切らしたから注文するとか言っていたな、とアポ魔女は思い出した。


 黒子に気を取られていると、スライムがズズズと近づいてきた。


「ちっ、なんでもいいけど、あなた魔法スキルはあるの?」


「ありませんよ。戦闘は大の苦手ですので」


「なら下がってなさい!!」


「でも、見たところあなた剣士ですよね? スライムと相性悪いのでは?」


「やるしかないわ」


「うーん」


 黒子は少し考え込むと、


「遅れしまった代わりに、私がどうにかしましょう」


「どうにかって、あなた戦えないんでしょう? 仮に魔法が使えても、こいつはダメージを食らいながら同時に回復できる。生半可な魔法は意味がないわ」


 スライムの耐久力と回復力は凄まじい。

 実際、先ほど気絶した少女も弱点である雷系魔法を繰り出していたが、スライムの急速回復には歯が立たなかった。


 故に高難易度モンスターなのだ。


「えーっと、少し時間を稼いでいてください」


「はあ?」


 黒子がリュックをあさりだす。


 意味不明だが、とにかく戦うしかない。と、アポ魔女は鞭のようにしなびかせたスライムの攻撃をかわしながら、斬撃を食らわせていく。


「お、あったあった。魔力石」


 魔力の補充や魔法の威力を上げるためのアイテムである。


「それと、このライター」


 市販のライター(1個110円)である。


「これを」


 互いに近づけると、眩い光を放ち始めた。

 あまりに異質な光景に、アポ魔女も、スライムも、視聴者も、黒子の行為に集中しだす。

 そして光が止むと、


「あっち、あちち、できました!!」


 真っ赤に熱を帯びた魔力石ができあがっていた。


・なになに?


・なんのスキル?


・なにしてるの?


・生産系のスキルっぽい


「あ、あなたそれはいったい……」


「たしかに、スライムの回復能力は驚異です。単純な見た目の割に、複雑な肉体構造をしているんですよね。だから以外と打たれ強い。なので」


 黒子は魔力石をぐぐっと力を込めて握ると、


「内側から破壊しちゃいましょう」


 赤く光りだした魔力石を、スライムめがけて投げつけた!!


 石はスライムを貫き、体内に侵入する。


「なっ!? スライムに炎系の魔法は効かないわ!!」


 が、しかし、スライムに異変が生じはじめる。

 体内に無数の気泡が発生し、みるみる膨らんで、


「え」


 大爆発を起こしたのだ!!


「きゃあああ!!!!」


「下がっていたほうがいいですよ」


「言うのが遅いのよ!!」


 先ほどまでスライムがいた場所には、真っ白な蒸気が上っていた。

 いや、上がってるのみなのだ。

 散々苦戦したスライムが、跡形もなく消滅している。


 アポ魔女は驚愕に目を見開き、ポカンと蒸気を見つめた。


「い、いったいなにが……」


「水蒸気爆発ってやつです」


「え……」


「あ!! 依頼者さん目を覚ました!!」


 黒子はアポ魔女の仲間に駆け寄ると、遅れてしまったことを深々と謝罪し、割引価格でポーションを差し出した。


「では!! この先も罠があるのでがんばってください!!」


 黒子が電動キックボードに乗り込むと、アポ魔女はハッと我に返って、


「ま、待ちなさい!!」


 大慌てで呼び止めた。


「さっきの光はなに?」


「あぁ私、アイテム生産スキルが使えるんですよ」


「で、でもそのスキルは、複雑な魔法陣と長い呪文の詠唱が必要のはず……」


「はは、スキルレベルAAAなので」


「あ、あなたいったい……」


「だから、ダンジョン攻略冒険者にアイテムを届ける、黒猫黒子のデリバリーサービスです!!」


 黒子がキックボードの電源を入れて、去っていく。

 小さくなっていく背中を見つめながら、アポ魔女は驚きの連続を冷静に整理しはじめた。


 一方、コメント欄は、


・すっげえええええ!!!!


・やっばwwww


・アイテム生産スキルAAAって、どんだけ使い込んだんだよ


・ホームページあったぞ


・推すわ


 黒子の話題で持ち切りになっていたのだった。

よろしくおねがいします。

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