9 辺境伯の溜息
辺境伯であるタッカー・オリベイラは呟いた。
「第一王子にも困ったものだ」
(第三王子とその腹心、サーカイル伯爵を恐れるあまり、まさか、呪いの依頼とはな)
私が辺境伯だから、もし呪いをかけたことがバレたとしても大差ないということだろう。
辺境伯という位置なので、もちろんどうということもない。
ここにいること自体が、王都の貴族にとっては幽閉みたいなものだ。
(第三王子派は優秀だ)
特にサーカイル伯爵は切れ者だった。
サーカイル伯爵の部下達の情報網は統制が取れているらしく、数時間もしないうちに、国内の情報が集められるらしい。
第一王子が第三王子を脅威に感じるのもわかる。
要は第三王子を軽く脅すなりして、怒らせない程度に呪いをかけて牽制。
その後に取引して、第三王子を懐柔する。
第一王子派として、臣籍に降らせたいのだろう。
もし、カイト様が第二王子派につくと厄介になる。
第一王子と第二王子とで、後継者争いが勃発するのだ。
それは国内の貴族の望むところではない。
皆分かっているのだ。
もちろん第三王子派も知っている。
これは言わば、作られたシナリオであり、第一王子がすんなり王になるためのものなのだ。
緩い呪いをかけさせたのもそのためだろう。
呪いはこの辺境の領地に伝わるもので秘匿とされている。
呪いによってことが収まるなら、協力するまで。
そうして、それが第一、第二、第三王子、それぞれの派閥が納得する形なのだ。
第三王子が第一王子につけば、第二王子も従うしかない。第二王子も王位争いをして、無駄な血を流したくはなかろう。
長い時のなかには血を流して王権を得た残虐な王もあったと聞く。
しかし、それは得策ではないと判断して、呪いの発動を依頼する第一王子。英断する第一王子は穏やかな治世を築くだろう。
(まあ、裏では色々と根回しするだろうが)
そういう第一王子の手腕を賢い臣下たちは見抜いている。常に第一王子の力量を測っているとも言える。
辺境伯は執務室の窓から外を眺めた。
「ああ、本当に辺境はのんびりしていていい・・・」
王都みたいな権謀術数が渦巻く場所にいるものではない。
「王都は私の性には合わんな・・・」
辺境伯は長閑な領地を屋敷の窓から眺めながら、しみじみとした。