5 至福の時間
「今日からお仕事、頑張らなくちゃ!」
朝早く目覚めたレイチェルは身支度し、朝食をとる。ブラッシング係なのに、伯爵とカイトと一緒だ。
(あわわ、わ、私が一緒に食事してもいいのかしら?)
一応雇われの身なのでここは別々の食卓につくと思っていたレイチェルは緊張しながらも何とか食事を終えた。
午前中は自由な時間なので、家族に手紙を書くことにした。
無事に職が決まったこと、思った以上の高待遇の仕事で嬉しいことなどを書き記す。
「よ、よろしくお願いします、カイト様」
「こちらこそ、よろしくね。レイチェル」
麗らかな天気の良い昼下がり、レイチェルは可愛い獣の姿をしたカイトの前にいた。
レイチェルはブラシを両手で握りしめ震えていた。
(可愛いー!何これ?この獣。カイト様の髪の色が全身!)
目の前に獣に変身したカイトの姿を見て、レイチェルは悶えた。
(青銀の毛を持つ、狼かしら?)
庭の芝生に獣姿のカイトは寝そべっている。
「し、失礼しますぅ」
ブラシをモフモフの毛にあてて、丁寧に梳いていく。
(うわー、うわー、こんな至福の仕事でいいの?幸せ!)
レイチェルの思考はモフモフの柔らかさに占領されている。
昨日は少年だったカイトは、今は狼なのだ。
少し緊張も和らぐ。
カイトの美麗な姿だったら、レイチェルの心臓はどうなっていただろうか。
ブラッシングしながら、色々と考える。
(狼の姿で良かったわぁ。はぁ、可愛い。)
脇の下もブラッシングしてみる。
(ここは気持ちいいかしら?)
レイチェルはブラッシングする力加減が難しいと思いながら、カイトの全身をブラッシングする。
(丁寧に長時間ブラッシングするなら、優しい方がいいわよね?)
早くブラッシングするのではなく、なるべくゆっくりブラッシングする。
(私も疲れないようにゆっくり、ゆっくり)
狼の姿をしたカイトはレイチェルのブラッシングが気持ちよさそうで、尻尾をフリフリしている。
「カイト様、加減はいかがですか?」
「うん、とても気持ちいいよ」
「うふふ、良かったです!」
(カイト様の毛、ふわふわしてて、気持ちいい!)
カイトも癒され、レイチェルの方も癒やされている。
麗かな陽射しの中で、うつ伏せに寝転ぶ獣、ブラシでゆっくりとなでるレイチェル。
サーカイル伯爵が少し遠くから二人の様子を見守っていた。