4 第三王子の呪い
顔合わせ後の夜、カイトと伯爵は、伯爵の執務室で話していた。執務室の本棚は整頓されていて、伯爵の性格がよく分かる。
二人共に執務室のソファに向かい合って座っている。
「あの子、どうなの?」
机に腕を置き、手を組んで顔を乗せているカイトが呟く。
「まあ、何事も試してみないとわかりませんが、なかなかいい子だと思いますよ?」
伯爵は飄々しているが、かなりの切れ者だ。確実な線でレイチェルを探してきたのだろう。
レイチェルを一見しただけでは分からないが伯爵の言葉は正しいかもしれない。
僕の呪いを解くためには、彼女が必要だ。
「何とも変な呪いをかけられたものだよね」
呪いを解くためには純真無垢な女性と触れ合わないといけない。
本当はこんなに若い姿じゃないのに、
呪いのために伯爵家にいる。
10歳くらい若返っているかもしれない。
「僕のお城での影武者は大丈夫なの?」
「はい。心配ありませんよ」
本来なら第三王子として、城にいる身なのに。
こんなに若い姿をしてないのに。
呪いのせいか、思考まで若くなってしまったみたいだ。
大層考え方が子供じみている。
僕はこの国の第三王子として生まれた。第一王子第二王子の次に王位継承権を持つものだ。
僕としては、第一王子か第二王子のサポートをしつつ、この国を守っていきたいと思っている。
しかし、事情がこのごろ少し変わってきていた。
第一王子と第二王子が王位をめぐって争いが始まるかもしれない。
僕は中立という立場を取るのが難しい。
いずれはどちらかにつくことになるだろう。
僕がどちらかに付くことで、たぶん争いの勝敗は決まる。
この僕の呪い騒ぎもどちらかの兄上が誰かに指示したものと思われる。
ある時、身体が変化し、年が若返ってしまった。
若返りの呪いだ。
腹心であるサーカイル伯爵に助けを求めた。
国には魔法があふれているが、若返りの魔法は一部の地域にしか残っていない。
サーカイル伯爵の調べによると辺境の地域に存在するらしい。
解除方法を探す間、僕は姿を隠して、影武者を置いた。今、城にいるのは影武者である。
「何ヶ月くらいレイチェルと触れ合わないといけないのだろうか?」
「それは分かりませんが、ブラッシングというのは良い思いつきだと思いますよ?」
「まあ、そうだね。しかし、毎日毎日ブラッシングしないといけないなんて」
この時の僕はまだ何も考えてなかった。
まさか将来レイチェルが僕の唯一の女性になるとはね。