2 雇い主との面談
レイチェルは求人募集の紙を受付に出した。受付嬢はレイチェルより年が少し上で、頼りになるお姉さんみたいな感じだった。
「レイチェル・オースティンさんね?」
受付のお姉さんはレイチェルに確認する。
「はい」
「この求人は、先程、貼り出されたばかりなのよ。あなた、ついてるわよ。貴族のお屋敷で、好条件だと思うわ。」
「そうですよね」
「でも、ちょっと仕事内容が変わっているわよね。ブラッシング係?」
「そうなんですよ。聞いた事ない仕事で」
「そうよね。頑張ってね」
「ありがとうございます!」
人のいい受付のお姉さんから紹介状を貰い、指定された屋敷に赴いて行く。
そこは貴族の邸宅が建ち並ぶ貴族街だった。貴族街は王城の周りを取り囲んでいた。周りのお屋敷は皆大きい。
中でも一際大きいお屋敷がどうやら目的地だった。
「お、大きい」
レイチェルの屋敷とは比べ物にならないほど、立派なお屋敷。基調は白で窓が沢山ある。
(わあ、大きなお屋敷。いくつお部屋があるのかしら。ああ、きっと住み込み可よね。お願い!住み込みで!)
門番に職業紹介所からの手紙を見せると、門扉の中に入れてくれる。
「こちらにどうぞ」
召使いが案内してくれた。
(わあ!なんて豪華な装飾)
レイチェルは屋敷の応接間に通される。そこには依頼主である伯爵がいた。
「初めまして。レイチェル・オースティンです。よろしくお願いします」
「私はグラント・サーカイル伯爵だ。よろしく頼むね」
と挨拶され、仕事内容を説明してくれる。
「大型の獣のブラッシングだけど、大丈夫かな?」
「は、ハイ!田舎では牛のブラッシングをしたこともあるので、ある程度の大きさには慣れています!」
「田舎から来たんだね」
「はい!」
すぐに採用は決まった。
しかもどうやらかなりのんびりとした仕事。
昼下がり、庭にいる獣のブラッシングをするだけでいいみたい。
「屋敷内に君の部屋を用意しよう」
「えっ、住み込みなら、とても有り難いです!」
(やったわ。嬉しい!)
田舎から出てきたレイチェルにとって、迷うことはなかった。
「そ、そのブラッシングだけで本当にいいんですか?」
「そうだよ」
(うそみたい!私は幸運だわ!)
「最初は慣れないかもしれないけど、君なら大丈夫だと思うよ?」
伯爵はさらっと不穏なことをぼそっと呟いていた。
仕事も住むところも順調に決まったレイチェルは浮き浮きしていて、この言葉は耳に届いていなかった。