1 変わった求人募集
田舎の貧乏貴族レイチェルは出稼ぎのために王都に出てきた。そこで変わった求人募集を見つける。ペットのブラッシング係と思ったら、獣人カイルのブラッシングをすることになる。
片田舎の貧乏貴族であるレイチェルは、出稼ぎのため王都に来ていた。栗色でややふんわりした癖のある髪で、瞳は薄い青色という容姿は平凡なもの。
レイチェルは故郷の父の言葉を思い出す。
「すまないな、レイチェル」
「お父様」
「お前に出稼ぎのようなことをやらせてしまって」
「ううん、大丈夫よ」
「何か困ったことがあったら手紙を送ってくれ」
「もちろんよ。こまめに手紙を書くわね」
近所のマーサさんの所にもお別れの挨拶に行った。
「レイチェルちゃん、本当に王都に出稼ぎに行くんだね」
「はい。マーサさんに教えて貰った職業紹介所にまず行こうと思います」
「そうかい、そうかい。それはいいことだよ。そこならきっとレイチェルちゃんに合う仕事がきっと見つかるよ」
王都には職業紹介所がいくつもあり、レイチェルはそこで仕事を見つけ、田舎の家族のためにお金を稼ぎたかった。
西部の田舎を領地とするレイチェルの家は貧乏で土地も肥沃ではなく、大した特産品もない。
「もっと農作物が採れたら良かったのに」
いつもレイチェルが考えていることだ。
もし、豊かな土地になれば、農作物も増えて領民の暮らしも楽になる。
「欲を言えば、何か特産品もあればなあ」
数ヶ月前に近所に越してきた気のいいマーサおばさんが
「王都には仕事が沢山あって、数多くある職業紹介所の中でも特にそこの紹介所は貴族街が近いから、その関係の仕事が多くて安心して働けるよ」と教えてくれた。
目の前にある貴族街にある職業紹介所をレイチェルは見上げていた。
「ここがマーサさんの言っていた紹介所ね。いい求人が見つかるといいんだけど」
レイチェルの訪れた3階建ての職業紹介所はこじんまりとしていた。建物は真四角で左右対称であり、各階に窓が配置されている。建物に入ると左手に受付のカウンターがあり、職員が並んで座っている。右手には掲示板がいくつか並んでいる。職を求める人々が何人か中にいる。
掲示板に貼ってある多くの求人募集を皆真剣に見ていた。求人募集の紙は掲示板に所狭しと貼ってあり、レイチェルは安堵した。
(王都にはやはり仕事が多くあるのね)
レイチェルの田舎には賃金を貰える仕事はあまりないし、貧乏貴族とはいえ、あまり質の悪い仕事にはつけない。
家庭教師でもいい、どこかの貴族の住み込み召使いでもいいと思っていたレイチェルも人々に混ざって求人募集を見始めた。
「沢山の求人があって迷ってしまうわね」
気に入った求人が見つかったら、受付に申し込みをしないといけない。数多くの求人募集で少しでも好条件で安全かつ住み込みのものがあれば最高だ。
職員が新たな求人募集の紙を掲示板に何枚も貼り出した。
レイチェルは近くにいたので、すぐに新たな求人募集を見ることが出来た。
(わ、わ、わ、急いで見ないと!)
「何、この求人は!」
職業紹介所のその貼り紙の中に、変わったものを発見した。
『当方、動物好きな方、希望。
大型の獣のブラッシング係を求む』
「ふにっ、私でもいいかしら?」
多くの求人募集の中から、レイチェルが選んだのは何とも変わった求人だった。
この世界には人間と獣人が共存している。はるか昔には争いもあったが、今は平和に暮らしている。人間と獣人の関係は良好で差別などはない。この国は獣人の王が支配しており、人間にも獣人にも貴族が存在する。獣人の貴族も人間の貴族もペットを飼う。
貴族の家なら、高待遇で、レイチェルの探していた理想の求人と言える。瞬時に判断して、すぐに求人の紙を掲示板から取った。こういうものは早い者勝ち。
(この求人はペットのブラッシング係よね。お世話も含まれるわよね)
モフモフ好きなレイチェルは、モフモフに癒やされたくて、この求人に決めたのだが・・・
「よろしくね、レイチェル。僕はカイトだよ」
(うあっ、なんでこうなるのかな?)
求人先では、ペットではなく、麗しの獣人様が待っていた。
レイチェルが驚いている頃、レイチェルの故郷の田舎に住むマーサはパン生地をこねていた。
「レイチェルちゃんは無事に王都に着いたのかね。仕事も見つかったかね。」
その時、白い鳩がマーサの元に帰ってきた。
「無事にあの方に手紙を届けてきたんだね。お疲れ様」