ボッタクリ傭兵1
ありゃ30年は前のことだ。
ある仕事で貧乏くじ引いて撤退戦の殿を勤めあげたんだが、だいぶ無理をしたせいで武器や糧食が尽きてな。
あとは野垂れ死ぬのを待つだけって状態だったんだ。
それがよ、なんの前触れもなくひょっこりとアイツが現れたんだ。
興味深そうにこっちを見た後なんて言ったと思う?
「変わった遊びだね。それ何ごっこ?」
だとよ。一言目からエキセントリックな奴だった。
食い物があったら分けてくれと頼んだんだが、金寄こせと返ってきた。
苛ついた俺はどうせ野垂れ死ぬんだから持ってけと財布を投げつけてやったんだ。
そうしたらどうやったのか、ビニール袋に入ったパンを出してきやがった。
そう、この細い練乳パンだよ。
あんときゃ涙が出たね。
あまりにがっついたもんだから喉詰まり起こしたんだが、それを見越していたのか青い缶に入ったコーヒーを渡してきた。
染みるってのはこういう事だったんだとあの時理解したもんだ。
アイツは「安上がりなやっちゃ」とか言いくさりながら同じパンを食べていた。
「どこにそんなもん持ってたんだ?」
「ニャハハハ、内緒!」
まったく。ぶん殴ってやろうかと何度思ったか。
飯食って一息ついた俺は任務完了の報告ついでに預けている荷物を取りに戻ろうとしたんだが、アイツもついて来やがった。
「なんでついてくるんだ?」
「面白そうだから。」
体調が万全な時ならぶちのめしてたな。
んで、夜になってよ。
野営用具なんて無ぇわけで。
しかたねえと拓けたところで野宿をすることにしたんだ。
一人ならば木の上にでも登るんだが、余計なのが付いてきてるんでな。
火を起こそうとしてファイヤースターターを取り出すと変わったピストル型の道具を出された。
「なんだこれは?」
「"着火漢"。火つける道具。薪の補充要るなら炭があるよ。」
勧められるまま薪に着火し、炭をくべる。
炭を使うと少量の火でもここまで暖かいとは思わなかった。
後始末に問題があるから次の任務に持って行こうとは思わなかったがな。
夜も更けてきたんで、寝るために見張りを立てようという話をしたんだ。
「えー。めんどくさい。」
とまあ文句タラタラ言ってきてな。
しまいにゃ「これじゃ駄目?」とか言いつつ電気柵出してきやがった。
「こんなもんまで持ってるのに、何故先に言わない。」
「聞かれなかったから。」
さすがに脳天にゲンコツ落としたが仕方ねえよな。
電気柵に電流を流すための発電機がバタバタうるさい。
さすがにあの野郎もそう思ったのか、バッテリー式に交換していた。
「……それを先に出しとけば良かったんじゃないのか?」
「ニャハハ。さすがにあの爆音は想定外。」
「ったく。それじゃあ寝るぞ。」
「そか、じゃあオヤスミ。」
「……この野郎。」
その寝袋、どこから出した。
再びゲンコツを落として寝袋を奪い、深く眠らないよう注意しながら就寝する。
ちなみにアイツは別の寝袋をだしてグースカといびきをかいてやがった。
翌朝、といっても日の出前くらいの時間に電気柵の反応があったんで見回りに行ったら蛇が煙を吐いていた。
毒腺は無く、小動物を締め付けて殺すタイプの蛇だ。
俺はこの蛇を朝飯にするため電気柵の電源を切って回収した。
「それにしても気絶させるどころか煙吐かすとか、どんだけ高出力にしたんだ?」
アイツ?電気柵の音にもめげずにグースカやってたよ。
寝坊助が起きてきたのは昼に近かった。
俺は蛇の解体作業をしてたんで、もっと早く起きていたのかもしれないが知ったこっちゃねえ。
蛇はそのまま串刺しにするにはデカかったため、何本かの開きにして焼いた。
焼いてる途中、アイツが塩胡椒を渡してきたんで焼き終わりに振りかけて渡してやった。
蛇ってのは全身が筋肉なんでクソ硬いんだが、解体するときナイフで刺しまくったおかげか、ある程度ほぐれていて食えるレベルにまでなっていた。
刺し跡に塩胡椒がしみこんでいて味は良かったよ。
腹も満ちたんで後始末をする段になったんだが、炭っていうのは痕跡を残さないようにするという方面じゃ最悪と言って良い。
こいつは土に還らずそのまま残るから厄介なんだ。
完全に燃えた灰ならば良いんだが、基本的に燃え残る。
しかもバカが途中で足りないとホイホイ追加したせいで大量に残っちまった。
「どうしてくれるんだ。回収する手段なんてないぞ。」
「うーん。しょうがない。」
そう言って左手をLの字にし、右手で何か変な動きをさせると残っていた炭がアイツの手元に吸収されていく。
唖然とした俺に対してあの野郎、「内緒☆」とウインクしてきやがった。
あん時はもうツッコむ気力もなかったな。
いや、ゲンコツは落としたか。