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平行線の煙草1

 まあ闇って言っても今とあんま変わらねえし、上層(うえ)の裏帳簿に載ってるか表帳簿に載ってるか程度の差だけどよ。

 

 最初の頃はトランプ片手に酒場巡りして自由気ままにやってたのよ。

 あの災厄のおかげで娯楽が法律ごと無くなっちまったもんだから、他に遊ぶモンが無かったってぇのもあるが。

 まあ、そんで。あるとき6人分の全財産を独占っつーロシアンルーレットに勝ってな。

 

 カジノを始めたんだ。こっそりとな。

 シティーガードは抱き込んで、ご同業には金握らせてさ。


 もちろんイカサマ放題だぜ。

 客にバレてボコボコにされたのも今じゃ懐かしい思い出だ。


 んで――ジャンク屋の瓦礫からスロットマシーンやルーレットを見つけて、家族(ファミリー)に修理してもらってカジノに導入したんだよ。


 そうしたらまあー導入当日から大盛況よ。

 イカサマだらけのトランプより信用できるっつってみんなこぞって回すんだ。

 修理ついでに仕掛けを入れたのくらいわかると思うんだけどな。


 んで、取引額が大きくなってきたんで現金じゃ困る事態になってきたんだ。

 あんときゃ都市通貨が電子化されてなかったし、ガードは見て見ぬ振りをしていたとはいえ完全に違法だったしな。

 収入源バレたらヤバいんで銀行にゃカネ預けられんし、死蔵してもナンだから金貸しを始めたんだ。

 

 

 10日1割(トイチ)複利(・・)だ。良心的だろ?

 暴利?いやいや、これでも借りようとする客はいたんだからwin-winの関係ってやつだ。

 利息すら返せねえ奴やトラブル起こすアホは専門業者(みうち)に流せばいいし、企業の役員クラスなら利権で支払って貰ったり、色々な意味で美味かったな。

 

 そんななか、地上の農場を担保にしていた奴が飛んだんだ。

 地上なんでなにかできる思って引き受けたんだが、そこは土壌汚染区域だったんでなーんもできない場所だった。

 多少は何とかしようとした跡が見られたが、そんくらいだ。

 都市からもだいぶ離れていたしな。

 

 しょーがねえから何とか利益に繋げようと、頭こねくり回していたときだったな。

 カジノに変な客がいるって通報があったんだよ。

 


 そいつはディーラーの居ないポーカーテーブルでチップを山のように積んでいた。

 何で勝ったのかを従業員に聞いても、目をそらしてよくわからないとのたまう。

 

 仕方ねえんでバックヤードの監視カメラから様子を伺うと、なんと商売してやがった。

 何を売ってるのか知らんが、店の中で堂々と商売してんのは風聞に悪い。

 なんで、さっきの目ぇそらした従業員を説得()して白状させたら店長以下全員グルで見て見ぬ振りをしてやがったんだ。

 

 こうなるとオーナーたる俺は、然るべき処置というものを取らにゃならんわけでな。

 支配人共々、そいつをオハナシ部屋に放り込んだわけだ。

 んで2,3発殴って地べたに這いつくばらせた。


「誰に断って商売してんのか、わからねえほど馬鹿じゃねえよな?」

「ホリゾンタルっていう人の許可は貰ってるって、店長(てんちょ)言ってなかった?」

「……ほーぅ」


 支配人を睨みつけると「これはその……」としどろもどろになっている。

 野郎、雇われの分際で俺の名前を騙った挙げ句、上納もなけりゃ報告すらしないとは舐めてやがる。

 

 


 さて。元支配人を死なねえ程度にボコってやってから、改めて話を聞くことにした。

 こんどは椅子に座らせてな。

 

「さてお客人よ。俺がホリゾンタルだ。何を売ってたんだか知らねえが、俺のシマで勝手な商売を許すことはできねえ。わかってんな?」

「そうだね。だから許可を店長(てんちょ)に求めたんだけど違ったみたい。」

「おう。で、どうするつもりだ?温厚な俺でもメンツってもんがあるんだ。それを潰しておいてたたで帰れるとは思ってないだろ?」

「うーん。このまま商売するのもダメ?」

「当たり前だ、と言いたいところだが……俺も鬼じゃねえ。販路ごと俺に渡すなら街からの追放で勘弁してやる。」

「販路は無理かな。生産者兼ねてるから。」

「あ?」


 あ?

 ってなるよな。どうみても手ぶらだし、金も持ってなさそうだし、ハッタリにしてももうちょいうまくやると思うぜ。


「売ってたのはこれね。アングラなカジノにはこーゆーのつきものでしょ。」


 伏せた手をテーブルに置き、手品のように出した箱状のもの。

 手に取るとそれはビニールで巻かれていたので引きちぎり、蓋を開ける。

 円柱状の紙が20個入っていたので一本取り出すと、それは紙巻きタバコだった。

 

 あの頃の煙草といえば電子タバコか近似種を使った代用タバコだった。

 災厄で全世界の農場が焼け落ち、本種がなくなったせいで酒より希少品となっていたからな。


 取り出した一本を口に加え、部下に火をつけさせた。

 するとどういうことだ。代用タバコじゃ味わえねえ煙が肺に入ってくる。変なフレーバーもねえ。


「こりゃ……たまげたな。」


 煙を吐いて気を落ち着ける。


「お前、これが一体どれだけの価値か知ってるか?」

「なんとなく。酒場の煙にニコチン臭があんましなかったからね。酒は飲んでるのに偽煙草でポーズとってるの変じゃん。」

「フン。見栄ってもんを理解した方がいいな。……それじゃあ在庫あるだけ出しな、それで今回は手打ちにしてやる。」

「うわ。店長(てんちょ)と同じこと言ってる。おっちゃんも移動換金所扱いすんの?」

「なんだそりゃ。」


 聞けば、元支配人はこいつの手持ちが少量ってこともあって、継続的に金が儲けられるような仕組みを考えた。

 こいつを店と別の換金所として扱うことで店の売り上げから横領していやがったらしい。

 いわゆる三店方式ってやつだな。上層(うえ)にも言い訳として通用する阿漕(あこぎ)なやり口だ。


「それにずっと此処に居るつもりもないからね。長期的に儲けようってなら葉っぱ育てりゃいいじゃん。」

「バーカ。その葉っぱがこの世にねえんだよ。」

「え?あるけど?」


 ほら。と小さな袋を取り出し、俺に投げて寄越してきた。

 他言語で文字は読めないが、袋にある写真にはデカい葉が写っている。


「……(ここ)にはいつまで居るんだ?」

「飽きるまでかな。カジノはもういい気分。店長(てんちょ)のせいであんま面白くなかったし。」

「この袋に書いてある文章は分かるな?それを訳したら解放してやる。」


 「甘い」「怪しい」「嘘かもしれない」と部下から反対意見があったが一喝して黙らせた。

 こいつがタバコそのものを持っていたことを考えれば、これは本物の確率の方が高い。

 それにあのどうしようもねえ土地を有効活用してやれると思ったんだ。

 

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