虚無
人生を振り返れば何も無かった。
だからこそ何かをしたかったのかもしれない。
今だからこそできることを。
残り数本しかないタバコの箱から1本を口にくわえ、使い捨ての百均ライターで火をつける。
なんにでも苛立つ性格は自分に関わる全てを引き剥がしていった。
孤独を紛らわせるために独り言が身についた。
独り言は常に自分を鼓舞して自尊心を膨らませていった。
この社会が、世界がおかしいのならば。そこにある全ては平等に狂っていると言える。
だからこそ変えたかったのかもしれない。この残酷な現実から目を背けるために、理想を夢に見ていた。
社会にとって受け入れなければならない年齢になればそれ相応に現実は見えてきた。
だから目が眩んだ。視界がないまま周囲を手探りで探索できるほどに俺は勇敢では無い。
ちっぽけな勇気を独り言で鼓舞して歩き続けた。その結果こそが現状である「無」だ。
人生を振り返れるほど俺は強くないみたいだ。
今日はもう1本吸いたい気分だ。さっきのようにタバコを加えながら百均ライターで火を起こす。
何度も火を起こそうとするが、どうやらつかなくなったようだ。
終わったのか。
「クソ。死ね。」
荒みきった心からは絞りカスのように言葉が出てきた。いつしかその言葉は自分に向けた鼓舞から周りを貶めるものに変わっていた。
どこから間違えたのか。それも今になっては何ひとつとしてわかることは無いだろう。
周りのせいなのか、自分のせいなのか。俯瞰もできないほどに視界が狭まっている。
自分以外がいなくなればいいのだ。
そうすればきっと幸せな世界ができる。
「じゃあお前が死ねよ。」
ぐるぐると回った頭から不意に言葉が出た。
そうだ。その方法よりも確実なものがあった。
そう自分がいなくなればいいと。
消えればいいと。
どうやって死んだのかは分からない。しかしこれだけは言える。
残酷にも時間は止まらない、戻らない。
俺が消えても世界は変わらない。すぐに俺のいた痕跡は完全に消失する。そもそも存在してなかったのかもしれない。
故に虚無。そこにはなにひとつとして最初からなかったのだ。
毎日小説3日目