その陰キャ、陽キャギャルたちのコスプレを見る
「よし、こんなもんでいいか隼太?」
ポップや釣り銭入れ等の小道具のディスプレイを終えた僕は、隼太を見る。
「うむ! これならば円滑に会計事務が進められるでござる! あとは……!!」
隼太のキラリと光る視線が、僕たちが到着するよりも前にこの設営場所にあった段ボール数箱へ向けられた。
「コレをぉ!! こうして、こうてござるぅ!!」
おもむろにカッターを取り出し、段ボール開ける隼太。
次いで彼は流麗な手捌きで、その中にあったモノをつくあの上に陳列した。
並べられたのはもちろん今回牧野さんが描き上げ、印刷所によって製本された本。
今回、隼太は『直接搬入』という方法を使い、できあがったものを直接設営場所に運ぶように手配したらしい。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」
神絵師による、できたてほやほやの新刊が山となり積まれている光景。
それは『壮観』いう他なかった。
「……隼太ぁ!!」
「迅殿ぉ……!!」
ガシィッ!!
僕と隼太は熱い抱擁を交わす。
「遂に、遂にここまで来たぞ僕たちは!!」
「神絵師、ずんだ餅様の初コミケにして新刊が並ぶ今日この瞬間に立ち会うことができるなど夢のようでござるぅぅぅ!!」
漢の涙を流し、僕たちはそう吠えた。
「ふ、二人共……そ、そんな……お、大げさ……だよ……」
対し、僕たちを見てそう謙遜する牧野さんだが……。
「……あ」
直後、なにかを思い出したような声を上げた。
「……えと、違う……そう、じゃない。そう、じゃ、なくて……あの、そ、その……」
「ど、どうされました牧野さん!?」
「ま、まさか拙者たちなにか貴方様に不都合を与えてしまいましたか……!?」
「ふぇ!? ち、ちがっ……えぇとぉ……その」
視線を左右交互に移しながら、言い出しづらそうに指をもじもじさせる牧野さん。
だがやがて決心したように、彼女はチラリと僕たちと目を合わせて、言った。
「ふ、二人が……て、手伝ってくれたおかげで……ここまで、これ、ました。だ、だから……あ、ありが……とう」
『……』
「……あ、あれ? ふ、二人……ども?」
『うぅ……!!』
「へ!? ど、どうした、の……?」
突如として大粒の涙を流し始めた僕たちを見て、牧野さんは慌てる。
「だ、大丈夫です……!! ま、まさかくくるちゃんの絵師から感謝の言葉をもらえるなんて……感激で……!!」
「右に同じく……!! 感無量でござるぅ……!!」
「そ、そんなに……。あ、ありが……とう?」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
感謝の追撃。
それは僕たちの涙腺にたしかな打撃を与え、涙はさらに流れ出た。
「なに泣いてんの二人共」
と、そこで聞こえてきた真白の声。
振り返るとそこには……。
「どう?」
「じゃ~ん!」
「似合ってるしょー?」
コスプレ衣装に身を包んだ真白、黛、来栖の姿があった。
そして、僕の目は釘付けになる。
当然だ。彼女たちのコスプレ衣装、それは僕の推しVtuberであるくくるちゃんが所属する【ハウンズ】に所属するVtuberたちが着ているモノと同じだったのだから。
黛は如月リリスちゃん。
来栖は僕の推しであるくくるちゃん。
そして真白は折原みるふぃちゃん。
三者三様のコスプレ衣装を纏い、彼女らは僕たちの前に立った。
「しゅ、しゅごい……み、みんな……画面から、飛び出した……みた、い」
と、そんな感想を漏らす牧野さん。
彼女もまた、僕と同様に真白たちに目が釘付けになっていた。
「がはぁっ……!?」
「隼太ぁっ!?」
そして、隼太は吐血した。
「だ、大丈夫か!?」
「は、はは……試着のときに見てはいましたが、やはり何度見ても、すさまじき破壊力……原作再現で、ござる……!!」
「隼太ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゆっくりと目を瞑った隼太を見て、僕は叫ぶ。
「誰か担架を!! 僕の友だちが死にそうなんです!! メェデェェェェェェェェ!!!!」
「なぁにバカやってんのよ。全然死にかけじゃないでしょ柿崎」
「あ、はい」
あっさりと隼太は起き上がった。
「んで、どう唯ヶ原」
「え?」
僕を苗字で呼んだ真白は、そう問い掛ける。
「ど、どう……とは?」
「可愛い?」
「……」
突然なにを聞くんだコイツ……。
とは思いつつも、僕は改めて真白にじっくりと目をやる。
端的に言えば……真白のコスプレはとてつもなく似合っており、クオリティもすさまじい。
普段からモデルをやってる真白のポテンシャルと隼太の熱意が込められた衣装の賜物だ。
加えて、その雰囲気までもみるふぃちゃんに似ている。
先ほど牧野さんが「画面から飛び出したみたい」と言っていたが、正に言い得て妙。
今の真白は、2.5次元と言った感じだ。
「か、可愛いと思いますよ」
なので、僕は率直な気持ちを告げる。
「……」
が、何故か真白は不満そうな様子だった。
「ちがう」
「え」
「そんな簡素なやつじゃなくて……もっと」
「もっと……?」
「こう」
「こう……?」
なにやら言い淀む真白だが、やがて決心をしたのか、次の言葉を口にした。
「気持ち悪い反応してよ!!」
「……」
うーん……?
真白の言葉の真意を探るべく、探検隊(僕一人)は思考の森の奥地へと向かった。
が、なんの成果も得られなかった。
なにを言ってるんだコイツは……!?
思考は回帰し、当初の疑問へと立ち戻る。
仕方が無い……僕は観念して聞き返すことにした。
「え、えーと……な、なにを言ってるんですか……?」
「だって、くくるって子の配信見てる時キモい声出したり笑ったりしてるじゃん! なんでウチにはそれができないの!?」
「えぇ!?」
衝撃の事実だ。僕はそんな声を出していたのか。
だが、それでなぜ同じ反応を求められるのか、理解できない。
「はぁ……まだまだ乙女心が分かってないわアンタ」
乙女心か、まぁたしかに僕には分からないな。
そうして思い浮かべるのは、これまで関わってきた龍子や九十九をはじめとした女不良たち。
頭のネジがぶっ飛んだ女としか会話をしてこなかった僕にとって、一般人の女との会話はまだまだ初心者もいい所。
真白に言われるのも無理もない。
……ていうかコイツ僕との関係のオープン加減だいぶ緩くなってきてないか? まぁ隼太も牧野さんもポカンとしてるからいいけど……。
「ちっ、まだまだ好感度が足りないみたいね」
その時、僕のように相当耳がよくないと聞こえないくらいの小声で、真白はボソリと呟いた。
「しゃーない。今日のところはさっきの返事で許したげる。ちょっとトイレ行ってくるわ」
「あ、私も行く〜」
「WCWCー」
「い、いってらっしゃいませ……」
どうやら、なんとかことなきは得たようだ。
僕は「ほっ」と息を吐く。
「い、いったいなんだったでござるか? 今の……」
「僕も分からん……」
そしてギャル三人の背中を見送りながら、僕と隼太はただただ困惑するばかりであった。
◇
「ん〜、迅たんの反応、別に悪い反応じゃなかったと思うけどな〜」
「そーそー。アレ、本気の本心で言ってたと思うぜー。なんで迅たんのキモい反応なんて求めんだよー?」
「ふっ、分かってないね二人とも」
女子トイレ内、素朴な亜亥とりりあの問いに、真白は「ちっちっちっ」と指を振る。
「迅が一番好きなのは?」
「え〜と〜?」
「くくるちゃんっしょ?」
「正解。つまり、迅は一番好きな子には気持ち悪い反応をするんだよ!」
「「……」」
「なのにアイツはいつも通りの態度で褒めただけ! せめてウチのこと舐め回すような目で見てほしかったのに……!」
「やは〜」
「あーね?」
熱烈に力説する真白。
そんな彼女に対し、亜亥とりりあは思う。
私の親友って、こんなにアホだったっけ?
◇
AM10:00
東京ビックサイト 一般参加者待機場
燦々と照りつける太陽。
その下で汗を流し、固唾を飲みながらも、浮き足立つ戦士たち。
彼らは待つ。ただひたすらに、その刻を。
ーーそして、
『お待たせしました! これよりコミックマーケット100、一日目を開催します!』
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
鳴り響く開始のアナウンス。
轟く戦士たちの雄叫び。
戦が、始まった。
設営完了、コミケ開始
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