その陰キャ、コスプレイヤー候補を探す
迅たちが杏の護衛団として活動を初めて早一週間が経過。
予想通り、彼女の懸賞金に釣られ、腕利きの【賞金ハンター】である不良たちが彼女と接近すべく画策る。
ーーだが。
「おらよっと」
「ぐぱぁ!?」
「てい」
「おぉっふ!?」
「はっはぁ!!」
「ぼぉっふぉ!?」
それを、三人の者たちが阻む。
辻堂龍子、皇九十九、秋名走司……かつて『羅天煌』の番隊長を務めた圧倒的強者たちが、【賞金ハンター】たちに鉄槌を下した。
◇
「ぐぅ、あぁ……!!」
「いいかぁ、耳の穴かっぽじってよく聞け。二度とここら一帯に近づくな。もし次、てめぇを見たらその時は……分かってるよなぁ?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
彼女の脅しに屈した不良は、脱兎の如く逃げ出した。
「ったく、これで何人目だよ」
飽き飽きした様子で、龍子は溜息を吐く。
この一週間で、杏を危害を及ぼそうとする不良は五十人以上にも及ぶ。
だがそのいずれも、杏に近づくよりも前に、龍子たちは排除していた。
「こちら龍子。一人やったぜアニキ」
インカムを通して、龍子はそう報告する。
『よくやった。そろそろ持ち場交代だ。移動してくれ』
現在、龍子と九十九、走司は杏の居場所を中心とし、この周りのエリアを三分割して持ち場をローテンションしている。
「あいよ。はぁ〜、にしても雑魚しかこねぇから退屈だぜ。もっと骨のある奴いねぇかなぁ」
『対処しやすいのはいいことだ。それにそもそも、お前らより強いのなんざそういねぇよ』
「おぉ、たしかにそうだな! この前の木刀チビは中々だったが、それでもアタシの方が余裕で強かったし、やっぱ良い勝負すんならアイツらしかいねぇかぁ……」
そう言って龍子が思い浮かべるのはかつての同胞、九十九や走司、そして他の【悪童十傑】の面々だった。
「かぁー! なんか急に良い喧嘩したくなってきやがった! 誰でもいいから強えー奴来てくれぇ!」
『そんなこと祈るなバカ! じゃあ切るぞ』
そう言って、迅は通話を切った。
「……ったく」
その直後、彼は呆れるように息を吐く。
「あ、あの……大丈、夫?」
そんな彼に、心配そうな声で杏が声を掛ける。
「え、あぁもちろんです! なにも心配しないでください牧野さん! ささ、僕のことは気にせず原稿の方に集中してください!」
「う、うん」
迅の言葉にどこか釈然としない様子を見せながらも、杏は促されるように自分の作業へと戻った。
現在、杏は自宅から離れ、ホテルで生活をしている。
理由としては身を隠すためだったのだが、それはホテル生活二日目にして意味を無くした。
杏の滞在するホテルの情報が即座に露見たからである。
賞金ハンターにも怪音のような厄介な情報収集役がいると判断した迅は、そこから潜伏するのではなく、相手を迎え撃つ方針へと切り替えた。
だがホテル生活七日目、迅はある疑問を抱えている。
それにしても、妙だ。
牧野さんを狙う奴らが……減らない。
そう、通常これだけ返り討ちにされれば、その事実は足枷となり、杏を狙う者たちは日を経るごとに減少していくはずだ。
結果が敗北、失敗と分かっている勝負に挑む者などほとんどいない。特にその性質上、リスクとリターンをしっかりと見定める【賞金ハンター】ならばなおさらだ。
しかし現状、杏を狙い実行に移そうとする不良は後を絶たない。
予想と反したこの結果に、迅は違和感を感じていた。
返り討ちにされている事実が伝わっていないのか? いや、それはない。
そう思いながら、迅は闇サイトの掲示板を開く。そこには龍子たちに無様にやられた不良たちの写真や映像が出回っていた。
龍子たちには頭にGopro(一人称視点で撮影ができるカメラ)を付けている。そしてこれをオンラインで怪音に送り、龍子たちの正体が露見ないように編集・加工して掲示板に流している。
たとえやられた相手が口を閉ざしていたとしても、他の【賞金ハンター】に情報が伝わらないワケがない。
思考する迅だが、答えは出ない。
……まぁいい。一番重要なのは牧野さんを守ること。今はそれに集中しろ。
そう思い直し、迅は護衛に意識を集中させた。
◇
ーー東京内、某所
「シャドウ様。また刺客がやられました」
「あーやっぱダメだったか。かぁー、やるなぁ向こうの奴ら」
部下である少女の報告に、シャドウと呼ばれた男は最新のゲーミングチェアの上で、身体を伸ばす。
「それにしても、いいのですか?」
「ん、なにが?」
「刺客を送り続けていることです。この少女に懸賞金が掛けられ八日が経ちましたが、既に他のハンターは個人・グループ問わずこの件から手を引いています。これ以上は人員の無駄です。我々【くっ殺インダストリー】も手を引くべきかと」
「はっはっは。分かってないなぁアキラ」
「え?」
「いつも言ってるだろう。目先の合理性ばかりに目を向けるなって」
「そ、それは……」
シャドウの言葉に、アキラは少しばかり目を伏せる。
「刺客を送り続けているのは布石。全ては本番のためのね。大丈夫、事は順調に運んでいるよ」
そう言って、ミスターシャドウは約七メートル離れた位置にある飲みかけのドクターペッパーを超能力でみ使ったかのように引き寄せると、中身を一気に飲み干した。
「……」
くっ、やはり私はまだシャドウ様のお考えを完全に汲み取れてはいない……!! なんという不甲斐なさ、もっと精進しなければ……シャドウ様の隣に立つに相応しい秘書であるために!!
そんな彼を見ながら、アキラは己自身を恥じていた。
◇
八月一日。
牧野さんの懸賞金が取り下げられるまで残り十二日。
僕の元に、隼太から電話が掛かってきた。
「どうした隼太?」
『迅殿、緊急事態でござる……!』
「緊急事態?」
い、一体なんだ……!?
深刻な声の隼太に、僕の心臓もドクンと跳ねる。
『じ、実は……コスプレで売り子をしてくださる方が全くつかまらないのでござるぅ!!』
「……」
なんだそんなことか、一瞬そう考えた僕だが、すぐにその思考を吐き捨てる。
牧野さんを護衛すること、そして彼女のコミケ参加
を最高のモノにすること。
この二つは同じくらい大事な命題だからである。
『知り合いを辿って、結構な人数のレイヤーさんとアポを取ったでござるが、全員既に別のサークルで売り子をする予定みたいで……すまないでござる、拙者の力不足で!!』
「謝ることじゃないだろ。隼太はよくやってるよ。それに、全部お前に任せきりにした僕にだって責任はある」
『迅殿、くっ……そんな言葉を掛けてくれるなんて、かたじけないでござる!』
「僕の方でも誰かいないか当たってみるよ。隼太は引き続きお前にしかできない仕事を頼む」
『承知したでござる!』
そこで、僕と隼太や通話が終わる。
「うーん。とは言ったものの、どうしたもんか」
正直、僕に当てはない。
一瞬龍子たちを……とも考えたがアイツらはコミケ当日も護衛の役目があるから無理だ。
となると……あ。
それは天啓。脳にふと降り立った閃き。
僕は即座に彼女に連絡を取ることにした。
「あ、もしもし?」
通話が繋がり、僕は先に声を発する。
『……なに?』
あれ、なんか不機嫌そうだな……。
スピーカーから聞こえてくる声音にそれを感じ取った僕。
とりあえずそこを突っ込むと面倒なことになる気がしたので、僕はさっさと本題に入ることにした。
「そ、その〜頼みがあるんですが……」
『敬語』
……。
彼女の指摘に、僕はなんとも言えない気持ちになりながら、言う。
「頼みがあるんだが、聞いてくれるか? 真白」
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