その陰キャ、アパートへ帰還する
第三章完ッ!
『任務完了、ってことでいいかな?』
「うん、ありがとね〜【冷笑】。痣呑ちゃんを回収してくれた【戯笑】にもお礼言っといて〜」
『了解だ。伝えておこう』
「助かる~」
『それで、君の望んだ通りの結果にはなったのかな?』
「うん。ましろんが【悪童神】の正体を知って、隼たん達に種を蒔けた。迅たんの周りに与えたかった影響を与えられたからぁ、大成功〜」
『それはよかった。それにしても、唯ヶ原迅か……あんなパッとしない男があの【悪童神】とはね。キミが【嬉笑】に秘密にする理由を理解したよ。アイツなら間違いなく、面白がって衝動的に動き、全てを台無しにしただろうから』
「はは〜、理解ってくれたようでなにより〜。それじゃ、あとはもうやることないから撤退よろ〜」
『あぁ。これで失礼しよう』
そうして【冷笑】の方から通話が切られる。
「あれ、亜亥なにしてんの? 真白とりりあ探してたよ」
と、そこに通り掛かったエミが彼女にそう問い掛けた。
「ん〜? いや、ちょっとお母さんと話してたんだ〜。心配だから声聞かせてって」
「へー、いいね。うらやまだわ。私の親はそーいうのないからさぁ」
「はは〜、そんなことないと思うよ〜。エミたんのパパもママも、エミたんのこと大事に思ってるよ〜」
「……ま、私のクソ親父はともかく、ママにはそう思ってくれてたら嬉しいけど」
ポツリと、エミは呟く。
「え〜なにその言い方〜? エミたんパパのこと嫌いなの〜?」
「嫌い、大嫌い。死ねばいいと思ってる。あんなの、父親じゃない」
「わ〜言うねぇ〜」
吐かれる毒素。
それが紛れも無い本心であると、亜亥は直感した。
「じゃあ大変だね〜、家に帰りたくないんじゃない?」
「いや、色々あって今はもう離れて暮らしてるから」
「あ〜」
手を合わせ、納得したように声を上げる亜亥。
「って、私なに話してんだろ。ごめん、こんな話して」
「ううん。気にしてないよ〜別に」
「……」
若干の気まずさを覚えたのか、エミは押し黙ったまま。
そんな彼女に近付き、亜亥の取った行動は。
「エミたん」
「んぇ? い、いきなりなに?」
口元に指を当て、無理やり口角を吊り上げられたエミは亜亥に戸惑いの目を向ける。
「え〜が〜お。笑ってればさ、なんとかなるよ」
「……」
そう言うエミの目もまた、本気そのもの。
彼女が本気でそう思っていると、エミは理解する。
「……はぁ、なんか亜亥を見てたら色々バカらしくなってきた」
「うぇ〜それど〜いう意味〜?」
「そのままの意味。ってか自販機にジュース買いに来たんだった私」
「あ、私も行く〜」
そうして、亜亥とエミは二人で自販機へと向かう。
「……ありがと、亜亥」
「ん~なにが~?」
「さっきの、私を励ましてくれて」
「あはは~大げさだよ~。私は人の笑ってる顔が好きだから、それを伝えただけ~」
「ふーん。そういえば、亜亥って基本笑ってるよね」
「うん。笑ってた方が人生楽しいからね~」
「はは、いい考え方」
「でしょ~。でも、それだけじゃないよ」
「うん?」
「笑ってるだけじゃ、楽しくない時もある。だから私は、なんでもやるんだ〜。楽しむために」
自身に言い聞かせるように、亜亥は言った。
「……」
そんな彼女の瞳を、エミは見る。その瞳は何処までも遠くを、なにかを見据えているような目だと、心の奥底で彼女は思った。
◇
二泊三日の『オリエンテーション合宿』。
一日目は肝試しをはじめトラブルが多かったが二日目以降は特に何事もなく過ぎていった。
そして三日目の昼下がり。
僕たちは帰りのバスに揺られながら、東京への帰路についていた。
一時はどうなるかと思ったが、穏便に済んで良かった。
改めて、僕は今回合宿の裏で起きた騒動が無事収束したことに安堵する。
ボスッ。
「……」
ま、色々変化はあったけど……。
行きのバスと同じく、僕の隣に座った真白。
彼女は今、僕の肩を枕にして眠りこけている。
どかそうかとも思ったが、真白同様ほとんどが寝ているためそのままにした。
「んぅ……迅、ダメだってえ……」
「……」
どんな夢見てんだコイツは……。
「ったく」
微かに聞こえた真白の寝言に、僕は訝しげな目を向けたが、すぐに顔を正面に戻した。
それにしても……【道化衆】か。
走司があの山で峠を攻めてるって情報を仕入れてたみたいだし、油断ならねぇ奴らだな。
【常闇商会】ほどじゃないにしても、奴らの情報網の広さや情報収集能力の高さは注意を払っておいた方いいか。
「……」
と、そこまで考え僕は首を左右に振った。
バカか僕は。
そもそも関わらなきゃいいだけの話。一般人として平穏に生きてれば問題ないだろ。
そう思い直すが、どうにも自分の中で腑に落ちない。
『迅はさ。そういう星のもとに生まれてるんだよ』
直後、僕は思い出した。ある男との会話を。
『君がどれだけ争いを避けようと思っても、関わり合いを持ちたくないと思っても、周りが君を放ってはおかない。そして君自身も、無意識に災害を巻き起こす。君は必ず、台風の目になる』
……。
『だから、迅といると楽しいよ。毎日が、最高に』
「……」
ーーうるせぇよ。
脳に響く、聞き慣れた男の声を、一蹴する。
気分を変えるべく、バスの車窓から目まぐるしく流れる景色を見た。
僕は、ただのVオタだ。
◇
迅がバスに揺れている同時刻。
坂町詩織もまた、別のバスに揺られていた。
彼女が考えていたのは無論、今回の事件について。
【道化衆】……目的はあの山を走っていた秋名さんを襲撃すること。
唯ヶ原くんや私たちはそれに偶然巻き込まれただけ。
ーー偶然。
その言葉を、詩織は飲み込めていなかった。
偶然にしては、あまりにも都合が良すぎるような。
【道化衆】には、もっと別の目的があったんじゃ……。
たとえば、秋名さんを襲うってのは建前で、本当は唯ヶ原くんを狙ってたとしたら?
けどそれはつまり、【道化衆】が秋名さんの動向を把握しているのと同じように、【悪童神】が唯ヶ原くんだと知ってるってこと。
それなら秋名さんをカモフラージュにした理由は?
というか正体を知ってるならもっと色々やりようはあるような気が……。
それに唯ヶ原くんの話じゃ、襲って来た人は【道化衆】に頼まれて『秋名さん』を襲うように頼まれたみたいだしなぁ……。
やっぱり私の考え過ぎかな、と詩織は上を向く。
唯ヶ原くんみたいな強い人は巻き込まれる……そういう、運命。
詩織は目を閉じ、そう思い込むことにする。
だがそれでも、喉に骨が刺さったような違和感は消えなかったのだった。
◇
合宿所から学校へ到着し、そこから軽い先生たちの話を経て、各々が自分の家へと帰宅した。
勿論、僕も例外ではない。
「ふぅ……」
自分の住むアパートの部屋の前で、僕は軽く息を吐く。
ようやくいつもの生活だ。合宿中はくくるちゃんの配信をスマホの小さい画面でしか見れなかったからな。今日からまだPCのフルスクリーンでくくるちゃんの配信を目に焼き付けることができる。
が、それとはまったく別に懸念点があった。
理由は当然、留守番をさせていたバカ二人。
意を決し、僕はカギを穴に刺し扉を開けた。
そこで待っていたものは、
「おっかえりぃアニキィ!!」
「おかえりお兄ちゃん」
元舎弟からの熱い抱擁だった。
「待ってたぜぇ! アニキがいねぇとやっぱつまんなくてよぉ!」
「寂しかった」
「へいへい、悪かったな」
上半身にガシリと掴まる二人の頭を僕は撫でる。
――いや、待て。
そもそもコイツら居候だよな……?
順応され過ぎてすっかり忘れていた事実。僕は自分自身に呆れかえる。
「さぁさぁ来てくれアニキ! メシも作ったんだぜ!」
「ほとんど九十九が作った。自信作」
「ウソ吐くなてめぇ!! やったの試食だけだろうが!!」
「九十九の的確な指摘があって料理の味が整った。あの料理は九十九が作ったも当然」
「当然じゃねぇ!?」
ギャーギャーと言い合う二人。
なんというか、日常に帰って来た感じだ。
いや、だからこれを日常と認識したらダメなんだって僕。
目を覚まさせるよう、自分の頬を叩く。
とりあえず腹が減った。
コイツらのことはメシを食ってからまた考えよう。
そう思い立ち、僕は足を進める。
居室にあった机の上にはたくさんの料理が広がっていた。
どうやらかなり力を入れたらしい。
「ささ、食べてくれアニキ!」
「食べて」
キラキラとした目で僕を見る龍子と九十九。
それらを気にすることなく、料理を口に運んだ。
「……美味い」
なんというか、美味い。
それが率直でそうとしか形容しようのない感想だった。
見た目はいつも通り謎の物体X。感触もいつも通りバリバリボリュボリュと、通常の料理の咀嚼では鳴らない音がする。
だが味は、味は本当に美味かった。
これまでの龍子の料理は食えなくもない、そんなレベルだった。
それが今回は一流のシェフに作らせたのではないかと疑うレベル。
まぁ高級料理なんざ食べたことがないから実際の所分からないが、とにかくそれくらいのレベルだ。
九十九が試食をして指摘をしたと言っていたが、それがあまりにも功を奏していた。
「だろだろ!? アタシって良い嫁さんになるだろ!」
「なにをワケ分からないことを言ってる。バカ龍はせいぜい外飼いしてる犬がお似合い。お兄ちゃんのお嫁さんは九十九」
「あ~ん? てめぇやんのかゴラァ……?」
「望むところ。今日こそ決着つける」
バチバチと目の前で飛び交う視線の火花。
そんな彼女らに、僕はふとした疑問をぶつけた。
「なぁ。こんなにたくさんの料理の材料。渡した金で足りたのか?」
出された料理は相当な量だ。加えて食材も中々に高い物を使用していることが自炊による経験から分かる。
「あぁ、それならよぉ……」
ガサゴソと、龍子はアパートの契約書などの重要書類が入った棚から封筒を取り出した。
「ここにあった金使った! いやぁ前にアニキがここから金出してんの見て『何に使うんだ?』って聞いたら『いざって時に使う』って言ってたからよぉ! まさに今回が『いざ』って機会だろ?」
「もらったお金だけじゃ足りなかったから、助かった」
ブチッ。
脳内の血管が切れる音がした。
「アレ、アニキ……?」
「なんで、激怒てる……?」
空気の変化を感じたのだろう。
二人はジリジリと後ずさる。
「てめぇらよぉ……その金はへそくりなんだよ。『いざ』って時……くくるちゃんのグッズが買えない、なんつー不測の事態を避けるためのなぁ」
ボキボキ。
俺は手の骨を鳴らしながら、二人に近付いた。
「わ、悪かったアニキ!! そ、そんな金だったなんて知らなくて……!!」
「この金を使おうって言ったのはコイツ。やるならコイツだけを」
「てめぇなにアタシを売ろうとしてんだ!! てめぇも同罪だろうがぁ!!」
「言い訳は、いらねぇ」
『っ!!』
発する圧に、二人は身体を硬直させる。
「さぁ、覚悟はいいなぁ?」
怒気の籠った低い声で、そう問い掛ける。
『ごめんなさぁぁぁぁぁい!!』
アパート中に響き渡る二人の叫び声。
それに構わず、俺はオシオキを執行するのだった。
後日談。
あとで別の部屋の人たちに騒音の件で謝罪に行ったが、発された俺の圧によって全員気絶していたようで、龍子たちの叫び声は聞こえていなかったようだ。
◇
こうして、完全に幕を閉じた六月の『オリエンテーション合宿』。
季節は移り替わり、物語は夏の一幕へ突入する……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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遂に第三章が終わりました!
次は第四章です!いよいよくくるちゃんの関係者が登場します!
第四章開始の前に短編とかを投稿しますのでよろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです!
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汚上品な脳筋令嬢、姫になり理想の王子様と出会うため貴族学園で無自覚に最強(物理)の力を振るう~下級貴族だと他の貴族たちにバカにされるので姫の拳で分からせますわぁ!~




