その陽キャ、屈辱的な口封じをされる
「ってワケで、今回騒動を引き起こしたのは【道化衆】って奴らみたいだ」
俺は先ほど戦った田中淳獏から聞いた話を伝える。
「目的はこの周辺で走り回ってた走司を襲うこと。俺たちはそれに巻き込まれたってワケだ」
「迅さん、他の皆さんもごめんなさい……僕の、せいで……」
非常に申し訳なさそうに走司は俯く。
「別にアンタのせいじゃないでしょ」
「そ、そうです!! 秋名さんは悪くないです!!」
フォローする真白に同調する坂町。
それを横目に、俺は話を続ける。
「とりあえず、襲ってきた奴は俺が【悪童神】だと知らなかった。【道化衆】に戻ったら走司にやられたって言うよう脅しておいたから大丈夫だ」
「思ったけど脅すって、そんなんで効果あるの? アイツが約束を破ったら……」
そこで真白が口を挟む。
「ああいう奴は意外と聞き分けがいいから問題ない。それに、もし破ったら俺に地の果てまで追い詰めて潰されるってことを理解してるからな」
「ふぅん。そういうもんなんだ」
納得するように呟く真白。
次いで、走司が口を開く。
「こ、こっちは……本当に僕が倒したので、大丈夫だと、思います……」
「あぁ」
俺は頷いた。
これで【道化衆】は走司を襲うために放った刺客が全員走司本人によって返り討ちになったと思うはず。
あと残った問題は、
「コイツをどうするかだな」
「どうするもこうするも、連れて帰るしかないんじゃない?」
俺と真白は気絶状態の羽柴を見下ろしながら会話を重ねる。
走司に向け放たれた刺客は自らの足で戻るか、気絶しても【道化衆】が回収するであろうことから放置で構わない。
だが俺たちと同じくこの合宿に参加し、学年の中心人物である羽柴を放置、というワケにはいかない。
真白の言う通り、コイツは連れ帰らねば。
「ちなみに、走司はここまでどうやってコイツを運んできた?」
「う、運転しながら……片手で……持ちました……。シ、シートに乗せたら……その、汚いから」
「ま、お前ならそうするわな」
何故か失禁し、股間部が濡れている羽柴を見ながら、僕は呟く。
仕方ない。
そう思いながら、俺は羽柴をお姫様抱っこした。
「とりあえず、コイツを合宿所の近くまで運んでから叩き起こす。流石にこの気絶状態が教師の目に入ったら大事になるだろうからな」
「そうですね。起こしたあとは任せてください。適当に言い訳して丸め込んでみせます!」
「おう、頼んだ」
なんとも頼もしい坂町の返事。
それを聞いた直後、俺たちは行動を開始した。
◇
「優斗、優斗!!」
「う、うぅ……ん?」
外界からの呼び掛けに、優斗はゆっくりと目を開ける。
「し、詩織?」
目の前にいた美少女の名を、彼は呟いた。
そして直後、彼は局部に違和感を覚える。
「っ!?」
そして思い起こされる記憶。
起き上がりで朧気だった優斗の意識ははっきりと覚醒し、同時に動揺が走った。
「あ、あの男は!?」
酷く狼狽した様子で、勢いよく首を回し辺りを確認する優斗。
そんな彼に対し、詩織は言う。
「えーと、よく分からないんだけど私は目が覚めたらもういなかったよ」
「え……そう、なのか?」
「うん。だから私がなんとかここまで運んできたんだ」
「……」
優斗は固まる。
突きつけられた詩織の言葉が、到底本当だとは思えなかったからだ。
しかし、彼は信じるしかない。
何故ならば、現に自分たちは今無事なのだから。
あの異常者と出会い、生きているというなら、それしかあり得ない。優斗の脳はそう判断した。
自分の命が保証された今、彼は別のことで頭がいっぱいになる。
「そ、そうか」
優斗はゆっくりと……平然と立ち上がる。
「みっともない所を見せてしまったな詩織。ありがとう。助かったよ……所で」
「ん、なに?」
「……い、いやなんでもない」
詩織の奴、俺が漏らしたことに気付いているのか……?
平静を装いながら、彼が考えるのは漏らしたことが詩織に露見ているかどうかであった。
いや、気付いている可能性は低い。
何故なら今は夜、服が濡れているのは分からない。それに匂いも目立っていない。
このまま俺が漏らしていないよう振る舞えば……!!
考えながら、堂々と毅然とした態度を取る優斗。
「さぁ、もう合宿所の灯りが見えてる。このまま戻ろう」
優斗の言葉を皮切りに、二人は歩き出す。
「そうだ優斗。今日のこと、先生たちに言う?」
すると詩織が突然、そんなことを聞いた。
「うーん、そうだな。一応言っておこうか」
正直、このままワケの分からないままやられっぱなしなのはあまりにも不快。
故に彼は憂さ晴らしに今回のことを教師に報告。
その流れで優斗たちの地図が他の者たちとは違うことを把握させ、適当な生徒を地図を偽造した犯人へと仕立て上げ、ソイツを厳罰に処させる。
そうすれば少しは気が晴れるだろう。
優斗はそう思った。
ーーだが、
「分かった。それじゃあ先生たちにちゃんと全部説明しないとね。優斗が漏らしたことも含めて!」
「……」
……ん?
「ちょ、ちょっと待って、待てくれ詩織」
「どしたの?」
無垢な笑顔で放たれるあまりにも看過できぬ詩織の発言に、優斗は狼狽する。
「お、俺が漏らした……? は、はははなななななにを言ってるんだ!!」
「あはは、誤魔化さなくていいよ。あんな怖い人だもん。漏らしちゃうのはしょうがないよ!」
「!!??」
詩織がここでこの情報を優斗に提示したのは、勿論優斗が教師に今回のことを報告するつもりだったからだ。
今回のことは可能な限り穏便に済ませる、迅の方針に従い詩織は行動する。
詩織は知っていた。
学園のアイドル的な存在として自分が可愛く、清楚で、清純で、純粋無垢な正直者と周囲から認識されていることを。
無論、それは優斗とて例外ではない。
だから彼女は、それを利用した。
これは言うなれば、『悪意無き脅し』。
もし今回のことを報告すれば、漏らしたことを露見す。
優斗に対し、詩織はそう宣言しているのだ。
バキ、バキィ……!!
自分の好きな人が、自分の絶対に知られたくなかった秘密を知っている。
そしてそれが、その人によって広められようとしている。
優斗の心は、もう砕け散りそうになっていた。
だがそんな中でも、彼はリスク管理を無意識下で行う。
どうすればこの後の損傷を最小限に抑えられるか。
カーストトップにして、中心人物。それに対し圧倒的な矜持を持ち、カースト下位を侮蔑しゴミのように扱う男は、それを考え続けていた。
そうして、彼が出した結論は……。
「や、やっぱり……ほ、報告するのは、止めよう。い、言った所で……し、信じてくれる、ワケが無いし……そ、それに、こ、この行事をた、楽しんでいる他の生徒た、たちを、ふ、不安にさせる、のは……よ、良くない……から、なぁ」
タジタジになりながら、優斗は言葉を紡いだ。
それを見た詩織は、内心で迅の力になれたことを喜びながら、
「うん、分かった!」
純粋無垢な学園のアイドルの仮面を被り、そう言った。
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第三章次かその次で終わりです。




