その陰キャ、怒る
「っ!!」
はっ、間髪入れずに来やがったか!!
飛び上がり、腕を引く攻撃動作に移る迅に対し、強靭を感じる淳獏。
しかもダメージを受けた方の腕で再度攻撃……!! 普通あの威力の共振を食らったら腕を動かすなんざ不可能なはず……!! 流石に人間離れしてんなぁ!!
だが!! それじゃあ俺の思うツボだぜ!!
淳漠の思考する通り、このままでは数秒前の二の舞。
一度目に打ち込んだ【崩階の終曲】は、迅の攻撃威力が低かったことと肉体強度の高さが原因で、共振させてもダメージを与えることができなかった。
二度目は咄嗟と不安定な体勢だったため、攻撃を相殺し切れなかった。
三度目は上手く迅を策に嵌め、高い威力の攻撃を誘発。それによる共振は相当なダメージを彼の腕に与えた。
以上、三度の交わいにより、淳漠は迅の攻撃に慣れた。
今の彼は、例え不安定な態勢だろうが痺れや負傷を負っている腕でも、寸分の狂いなく正確に【崩階の終曲】を打ち込める……そう思えるだけ自負がある。
淳獏の狂気と自信に満ちた目と迅の瞳が交錯する。
迅の拳が、淳獏に降り掛かる。
いいぜ!! ならその腕、使えなくなるまで共振ぶち込んでやるよ!!
淳獏の掌底に、空気が集まる。
そして、彼は目を見開き、波を視認する。
攻撃は同じ……いやそれ以上の威力を打ち込もうとしてやがる……!! いいぜ、最高に好都合だ!!
「【崩階の終曲】!!」
叫び、淳獏は掌底を突き出す。その直後、迅の拳とぶつかり合った。
完ペキに入った!! これで……!!
自身の技の成功を確信する淳獏。
確かに、彼の打ち込みは完ぺきだった。
このままいけば迅の攻撃の衝撃が届く前に、淳獏が打ち込んだ波が迅の攻撃による波と共振し、迅の腕は更なるダメージを負う。
そう、このままいけば……。
――迅の攻撃は、終わらなかった。
「らぁっ!!」
ブンッッッッッッ!!!!
「な……!?」
淳獏の掌底に、迅の拳が接触した瞬間、迅は拳を……廻した。
彼の拳に、通常では有り得ない、凄まじい回転力が加わる。
周囲の空気を巻き取るその様はまるでドリル、まるでスクリュー。だが、威力はそれらの比ではない。
これが、迅の【普通のパンチ】の派生技。
【普通のパンチ:廻】。
コイツ、パンチに回転を掛けて、攻撃の波を乱しやがった……!! 加えてこの威力……マズい!! 俺の発動した波と、ズレた!!
慌てて手を引っ込めようとする淳獏だが、もう遅い。
「腕が逝くのは、てめぇだぜ」
バッゴォォォォォォォォォォォォン!!!!
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
凄まじい破裂音と共に、淳獏は吹き飛ばされる。
先程とは異なり着地もままならず、彼は地面に転がった。
「がぁ……!! く、そがぁ……!!」
マズい、早く態勢を……!?
そう考え立ち上がった直後、淳獏は異変に気付く。
目が、見えない……!! 何で……!?
満足に視界を確保できない状況に困惑する淳獏、だが即座に彼は原因を、目の違和感から理解する。
これは、血……!! そうかアイツ、拳を回転し腕に付着した血を飛び散らせ、それを俺の目に……!! ダメージを負った腕で攻撃してきたのはそのためか……!!
そして、わざわざこんなことをするってことは……!!
「【普通のパンチ】」
ドゴォォォォォォォォン!!!!
「がはぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
視界を塞ぎ、本命の攻撃を確実にぶち込む。それが迅の目的であることは明瞭だった。
突発的な衝撃が、彼を襲う。
直に、食らったぁ……!! コレは、ヤベェ……!!
辛うじて残る意識で、淳獏は自身の目元を拭う。
開けた視界。そこには、迅が見下ろしていた。
「目が見えなきゃ、力の流れ? は見えない……だろ?」
「て、めぇ……気付い、て……やがった、のか……」
「昔、似たようなのと戦ったことがあったからな。こっちの攻撃を、寸前で自ら乱す。てめぇにも効果テキメンみたいで良かったぜ」
「は……そ、う……かよ……」
どう、する……?
淳漠は思考する。
ここからの逆転劇を。
だがそんな都合の良いモノは無い。
どうしたって、敗北ける。
それは避けられないと、彼は目の前の化け物を見て、はっきりとそう思わされた。
しかし、
はは、まだ……だ。
彼は即座に、その考えを一蹴する。
ただでは負けない……!! 道連れ、共倒れで、この喧嘩を締める……!!
その、ためには……奴に今以上の攻撃をして来るように誘い、カウンターで【崩階の終曲】を決めるしかねぇ……!!
狙う場所は、胴体……!! 拳に当てるのと違い、リスクも難易度も段違で高ぇ!! だが、もうそれしか無ぇ……!!
淳漠は覚悟を決める。
後は、ここからどやって今までより高い攻撃を誘発させるかだ……。
何か、何か無いか……!!
必死で思考を巡らせる淳漠。
彼はこれまでの記憶を遡り、勝利へのピースを探す。そして、彼は辿り着く。
それは、自分を脱獄させた者からの助言。
――これだ。
「……」
目を細め、迅に向けわざと挑発的な笑みを浮かべる淳獏。
次いで、彼は口を開く。
「なぁ……俺は、三年くらい『極少年院』に入ってたからよぉ、出てきて驚いたぜ。知らねぇ芸人がテレビでMCやってたり、ワケの分かんねぇ言葉が流行ってたりよぉ。そんな中でも……アレは傑作だったぜ」
淳獏は、言葉を続ける。
「Vtuber……だったか? はは、何だよアレ? アイドルに夢中る奴らも意味が分からなかったが、アレはそれ以上だな。何が良いんだ?」
挑発は止まらない。
そして、彼は極めつけに、言い放つ。
「あんなの、タダの絵だろ?」
――ブチ
それは、迅の中の地雷を、見事に踏み抜いた。
「【普通のパンチ】……!!」
来た……!!
到来する拳に、淳獏は目を見開きそれを捕捉する。
避ける、避ける、避ける避ける避ける……!!
避けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ズッパァァァァァァァァァンンン!!!!
……よし!!!!
辛うじて攻撃を回避し、迅の拳に空を切らせた淳獏は、勝利を確信する。
後はこのまま、懐へと潜り込み、迅の胴体へ【崩階の終曲】を放つだけ。
「……は?」
だが次の瞬間、そんな間抜けな声を、淳獏は上げた。
理由は単純。
回避したはずの迅の拳が、再び眼前に迫っていたからである。
何だ……? 何だ何だ何だ何だ何だ!!??
どうなってる……!!
たった今、俺は奴の右の拳を避けたはずだ!! なのに何故、また右の拳が俺の目の前にあるんだ……!?
刹那の刻、圧縮された時間の中で、淳獏の頭は理解不能のその事象に混乱する。
そして、彼は即座に理解する。
その至極当たり前で、本来であれば考えるまでも無い、仕組みに。
この戦いの中で、一撃ずつしか攻撃を食らわなかったことで、淳漠はその当たり前のことに、気付かなかった。
ーーパンチは、連続で打てる。
「【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】【普通のパンチ】」
淡々と、だが確かな怒りを込め、迅は拳の雨を降らす。
一発ですら大抵の不良を一撃KOしてしまう迅の右ストレートパンチ。それが連続で、凄まじい速度で放たれる。
「……ぁ」
淳獏は、迫り来る無数の拳を目にしながら、痛感する。
この男を、怒らせてはいけないと。
「【連続:普通のパンチ】」
「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
数秒にも満たない間に打ち込まれた、数百発のパンチ。
淳獏はそれを、一心に浴びた。
そして、迅の攻撃が終わる。
「ク、ソォが……」
白目を向きながら、淳獏は地面に膝を付き、地面の方へと倒れ伏した。
「どうやら勘違いしてるみてだからよぉ……てめぇに一つ、教えといてやる」
そんな彼を見下ろしながら、迅は言った。
「Vtuberはな……生きてんだよ」
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