一方その頃(詩織と優斗、ヤバい奴に出会う)
「怖くないか? 詩織」
「うん、大丈夫だよ」
迅たちがヤバい奴らと邂逅する最中、優斗と詩織のペアは既定通りの道を辿り、肝試しを進んでいた。
「そんなに強がらなくても、怖くなったらいつでも俺を頼ってくれていいからな」
「あはは、大丈夫大丈夫。私こういうの平気だからさ」
優斗の言葉に、詩織はあっけらかんとした態度を取る。
詩織は優斗からの好意に気付いている。知っているからこそ、上手くあしらっている。
優斗は、そのことについてもどかしく思っていた。
「なぁ、詩織」
「ん、何?」
薄暗い夜道、静けさの中、チェックポイントへ向かい歩く二人。
そんな中、優斗は切り出した。
「そろそろ、いいんじゃないか? 俺たちの関係を進めても」
「……進めるって、私たちまだ会って二ヶ月くらいしか経ってないよ?」
「はは、あーそうか。詩織にとっては、そうだな」
「ん、どういう意味?」
意味深な優斗の発言を、詩織は追及する。
「詩織は覚えてないみたいだけど、実は俺とお前はずっと前に会ってるんだ」
「え、嘘」
「本当だよ。ほら、覚えてないか? 大物俳優や政財界の要人が集まった大規模なパーティー」
「あーうん。参加したのは覚えてるけど……」
正直、それ以上のことは覚えていない……というか、思い出したくない。それが詩織の率直な感想だった。
詩織の子供時代、すなわち子役として一世を風靡していた時代。
大人の言いなりになって、傀儡のように笑顔を振り撒き、演技をし、称賛を得て持て囃されていた日々。
それは同時に、息苦しさと窮屈さに押し潰されそうになっていた日々。
そんな彼女は、幼馴染の誠二を通して、『不良』という存在を知った。
大人に反発し、抵抗し、我道を貫き通そうとするその姿に、心を打たれた。
だから彼女は不良オタクになり、自分の意思で役者の道を降りた。
多少話が逸れたが、兎にも角にも、子役時代は彼女にとって忘却の彼方に置き去りにしたい記憶であり、思い出したくない記憶なのである。
「俺もそのパーティーに出席してたんだ。そこで、お前を見た」
そんな詩織の思いなど全く知る由も無く、優斗は話を続けた。
しみじみと、噛みしめるように優斗は言う。
「圧倒的な容姿と存在感。周りの人は、皆お前を見てたよ」
「あはは、そんな大袈裟な……」
「大袈裟なんかじゃないさ。かくいう俺も、その一人だったからな」
「……」
マズいな、と詩織は思う。
この雰囲気、このままでは間違いなく告白される。
これは自意識過剰や驕りでは無い。カーストトップに立つ彼女にとって、男子からの告白は日常茶飯事。
告白してくる男の気配、それを今彼女は感じていた。
そこで優斗は足を止め、彼女と向き合う。
「詩織、こうして同じ高校に通うことになって、近くでお前を見続けて、俺の気持ちはより強くなった」
「……」
「詩織、俺と……付き合ってくれ」
星空が夜を照らし、静寂が二人を包む。
加えて優斗は、自身の地図にも細工を施しており、本来の道とは微妙に異なる道を歩いている。
他のペアとかち合う心配は限りなくゼロだ。
シチュエーションとしては上等……だが、
あちゃー……。
当の詩織は、そんな告白に対し、手で顔を覆いたい衝動に駆られていた。
危ッ機いなぁ。前々からいつかくるだろうなとは思ってたけど……。
詩織はどうしたものかと思案する。
無論、彼女は優斗に対し一切の恋愛感情を持ち合わせていない。この告白は断る、それ以外の選択肢は無い。
だが、モノには順序や程度がある。
ここでピシャリと告白を断るという行為は、今後の人間関係に支障が出る。
ーー脱却
不良に倣い、自由に自分らしく生きようとする詩織は、未だ自身に制約を掛けていた。
周りのことなど顧みず、己の主義主張を押し通す。
だが現実として、詩織は『不良オタク』であることを隠し、周囲から学園のアイドルと持て囃されている。
そして今この瞬間も、周囲への影響を考慮している。
自分らしく生きる。
無意識下の制約を外し、過去の自分から脱却する。
詩織はまだ、それを完遂できていなかった。
「ん?」
その時である。
第三者の足音が、響く。
そして音が、詩織たちへ近づいて行く。
ーーくちゃくちゃ
足音の近付きと同時に、何やら奇妙な音も聞こえて来る。
「おいおい、誰だお前は?」
一人で姿を見せたその男に、優斗は何の躊躇いもなく問う。
だがそれは勇敢は怖いもの知らずというよりかは、たたたた愚かだった。
ちょ、ちょっと待って……。ま、まさかこの人……!?
近付いてきた男の姿を目視した詩織は、気付く。
その男の、異常さに。
「俺たちの学校の生徒か? 何で一人でいる?」
ちょっ!? なに強気でいってんのこの馬鹿!?
思わず内心で優斗を馬鹿呼ばわりする詩織。
「なぁ……薬は、いいぞぉ」
「は?」
ちっ、一体何なんだコイツは?
告白の邪魔をしやがって……ふざけるなよ……!
優斗の怒りが募る。
だが詩織がいる手前、乱暴な対応は取れない。
だから、彼は言葉で伝えることにした。
「道に迷ったならこのまま下って行けば明かりがある所に出られる。さっさと戻れ」
「優斗!!」
「っ!? ど、どうしたんだ詩織!!」
急に腕を掴みもと来た道を走り出そうとする詩織に、優斗は目を見開く。
「いいから逃げるよ!! じゃないと……」
横目で、後方を見る詩織。
瞬間、彼女は理解する。
……既に、手遅れであることを。
「え……?」
コンマ数秒後、詩織はそんな素っ頓狂な声を出した。
対し、優斗は自身の今の状況が、全く飲み込めず、声を出さずにいた。
まぁ、無理もない。
二人は今、地面から数十メートル離れた、上空にいるのだから。
「こんな風にぃ、飛べるからなぁぁぁぁ!! あははははははははぁ!!!」
詩織と優斗の服を掴み、跳躍した張本人。
曽我薬丸は、月夜に照らされながら、高らかに笑った。
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