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その陰キャ、ギャルを守る

 何、なになになに……!? 一体どうなってんの……!!


 夢乃真白はあまりにも混乱していた。

 無理も無い。

 唐突に自身を抱え、とてつもない速度で走り、二十数メートルの崖を飛び降りた迅。

 加え、彼と同様崖から飛び降りてきた謎の男。


 異次元で非現実的な情報の連続に、真白の脳は処理落ちしていた。


 そして真白がそんな状態になっている最中、迅は思考する。


 クソ……結局坂町の予想通りになっちまった。

 どうする? こうなった以上夢乃に僕の正体を隠すことはできない。

 なら、仕方ない。俺が取れる行動は……。


「夢乃さん」

「な、何!?」


 突然迅に声を掛けられ、真白は渋滞していた情報の海から現実に引き戻される。


「細かいことは、後で話します。だから……僕から離れないで下さい。アイツは、この場で倒します」

「な、何言ってんの!! そんなこと出来るワケ……っ!!」


 そこまで言って、真白は思い出す。

 迅が自分を抱え超速で走り、とんでもない高さを飛び降りたという事実を。


 それらの事実は、迅の発言に説得力を持たせるには十分だった。


 だが、まだ足りない。

 素人目で見ても、田中淳獏と名乗った男が脅威ヤバい強さであることは分かる。そんな男と戦うなど、下手をすれば迅が死んでしまう。

 好きな男が死におもむくことを、真白は許さない。


「ダメ!!」


 そう言って、真白は迅の前に出た。


「おーおー、威勢の良い嬢ちゃんだぁ。けどよぉ、無謀と勇気は違うぜ?」

「うるさい!! アンタみたいなどう見ても危険な奴と唯ヶ原を戦わせられるワケないでしょ!!」


 真白は吹き出しそうになる恐怖を必死で抑えながら、淳獏に食い下がる。


「……」


 そんな彼女の姿を見て、迅は思う。


 やっぱ、頑丈タフだなコイツ。


 真白がこうして自ら危険なことに首を突っ込んだのは今日が初めてではない。

 迅の【紅蓮十字軍スカーレット・クルセイダーズ】の体験入団に付いて来た時。

 迅が【紅蓮十字軍】の本格入団されそうになった際に、轟琥珀と贄川レイナの前に立ち、異を唱えた時。

 

 彼女は迅のために、不良たちの前に立った。

 

 その背中を、見据える迅。

 瞬間、彼の中に、何か暖かい感情が流れ込む。


 その感情が何なのか、それは彼自身にも分からない。

 ただ今は……。


「夢乃さん。下がって下さい」


 その感情に従い、彼女を守る。そうすべきだと、改めて迅は思った。


「ちょ、ちょっと唯ヶ原!」


 再び、自分よりも前に出た迅に慌てる真白。だが、


「大丈夫です。僕を、信じて下さい」

「っ……」


 彼のその言葉に、息を呑む。 


 ――あ、これ……見たこと、ある。


 そこで、彼女は感じた。

 約一か月前、メイド喫茶で自身が迅に助けられた時のことを。


 瞬間、真白の中であの時自分が恋に落ちた迅と、今目の前にいる迅の姿が、重なった。

 故に、彼女は理解する。今、自分がすべき行動は……。


「……分かった。信じるよ、唯ヶ原のこと」

「はい、ありがとうございます」


 意思疎通の完了。

 そのやりとりを、淳漠は耳をほじりながら退屈そうに眺める。


「おぉい。もういいかぁ? んじゃあ、行くぜぇ……!! 久々に、狩りの時間だ」


 そして彼は、地面を踏み締め……。


 ドンッ!!


 空気を置き去りにするように、一瞬にして、迅との距離を詰めた。

 

「頼むからぁ、一発で逝くんじゃねぇぞぉ!!」


 ズゴォォォォォォォォォン!!


 凄まじい衝撃に真白は思わず目を瞑り、腕で顔を覆った。

 

「ゆ、唯ヶ原!!」


 目を開く真白。当然気にするのは迅の安否。

 だが、それはあまりにも無用な杞憂である。


「夢乃さん、大丈夫ですか?」

「え、あ……うん。ゆ、唯ヶ原は……」

「問題無いです」

「う、うん。だよね」


 目の前の現実に、何てことない様子で返答を続ける迅に、真白は目をパチクリさせる。


 え、え、え……? 何、唯ヶ原……メチャクチャツヨクナイ?


 彼女は、酷く混乱した。

 

「おいおいおいおいおい。真実マジかよぉ……」


 拳を放った淳獏は、驚嘆の表情を見せた。

 当然である。彼の攻撃は、迅の片手によって、いとも容易く防がれたのだから。


「【普通タダの】……」

「っ!!」


 空いているもう片方の手で、迅は淳獏にパンチをお見舞いしようとする。

 それを察した淳獏は、迅が攻撃の予備動作に入る前に後方へと跳躍、距離を取った。

『極少年院』の入所に至るまで、幾度の喧嘩の中で培われた生存本能がそうさせた。


 危機ヤベェな()()。マトモに食らったら終わりじゃねぇか。


 淳獏は理解する。

 目の前に立つ男、唯ヶ原迅がこれまで喧嘩してきた者たちの中で、最も強いと。


 そしてそこから込み上げる感情は、絶望ではない。


「はは……」


 彼は笑う。

 出会ったことの無い、己を昂らせることのできる男の出会いに、心を躍らせる。


 あぁ、石巻伽藍アイツと似たようなタイプか。


 それを見て、迅は淳獏の特性を理解する。


「はぁ、やっぱりいいなぁ外界シャバはよぉ……こんなに最高な出会いがあるんだからなぁ!!」


 空を見上げ、歓喜を示すように、淳獏は叫ぶ。


「出してくれたアイツらに感謝だぜ!!」


 そして、彼はそう言うと……構えた。

 手の平を見せるような形態フォームは、荒々しい淳獏の風体とは異なり、滑らかで美しい。


「小手調べは終わりだ。ここからが、俺の本域。精一杯、受け止めてくれ」

「御託は良い。さっさと来い」


 淳獏に一切動じる様子を見せず、迅はそう言い放つ。

 何の構えもせず、ただ二本の足で立つその様は、どこまでも堂々としていて、清々しさすらあった。


 ――淳獏の口角が、上がる。歯茎が見える。


「【崩階の終曲フィナーレ】」


 再び、距離を詰める淳漠。

 ーー彼の掌底に、悪魔が宿る。



 迅と真白が淳漠と邂逅を果たしたほぼ同時刻。

 別の地点では、


「ど、どうなってるでござるかぁ咢宮殿ぉ……」

「知らねぇより。この霧で道も分からねぇし……、まぁ適当に歩いてりゃあ着くだろ」

「そ、そんな適当なぁ……」


 優斗の策略によって本来とは違うルートを辿る隼太と誠二は、霧に塗れた茂みの中を歩き続けていた。


 用意周到な優斗は、迅たちと隼太たちのペアが遭遇することを防ぐため、あらかじめそれぞれのペアに経路が微妙に違う地図を渡している。

 

 そのため、それぞれのペアは互いに出会うこと無く見当違いな道を歩き続けるというのが優斗のシナリオだった。


 だが、迅たちのペア同様、ここにも起きた。


 ーー想定外が。


「ねぇ、ねぇ」

「あぁ? どうした柿崎」

「え? 拙者何も言ってないでござるよ?」

「は? だって今……」

「こっちだよ?」

『っ!?』 


 そのに、隼太と誠二はハッと振り向く。

 霧の中、そこに彼女はいた。


 不健康そうな見た目に、猫背。目の下のクマが特徴的な少女。


 そんな不気味な雰囲気を醸し出す少女に、隼太は固まってしまう。

 が、誠二は恐る恐る、問い掛けた。


「誰だ、てめぇ……?」

「私? 間宮痣呑まみやしの


 少女は、淡々と答える。

 

「……」


 何だ、コイツ……。


 そんな痣呑に対し、誠二が抱いた第一印象は『貧弱』。

 だが、即座に彼は嫌でも実感した。


 弱そうなのに……「コイツは危機ヤベェ」と、俺の本能が訴えてきやがる……!!


「うん、うんうん。一人は不良で、もう一人は優しそうで太ってる……いい、いい、良い」


 意味不明なことを呟く痣呑。

 だが次の瞬間、彼女は常軌を逸した発言をする。


「二人とも、私のイイ『お父さん』になるよ」


 

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