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その陰キャ、肝試しで嵌められる

「よ、よろしくでござる。咢宮殿」

「おう」


 迅と夢乃がペアになった一方、隼太のペアは誠二となった。

 となると、消去法で残りは……。


「やほー、よろしくねエミたん!」

「よろピクーエミリン」

「……何でアンタらなのよ。私誠くんとが良かったのに……」


 エミたんと呼ぶ亜亥と、エミリンと呼ぶりりあに、エミは心底嫌そうな顔をする。


「私はエミたんと一緒で嬉し~よ? 今日何か私らと距離取ってる感じだったし、ここで一気に詰めちゃうもんね~」

「観念しろー」

「ちょ!? もうくっつかないでよ……!」


 両方から抱き着いてくる亜亥とりりあを引き剥がそうとするエミだがソレは叶わず、不服そうな顔でソレを受け入れることしか出来なかった。


『……』


 その最中、真白と亜亥の視線が交錯する。


「(ガンバ!)」


 声を出さず、口パクで真白に伝える亜亥。

 だがそれを正確に読み取った真白は、内心で彼女に感謝を告げた。


 ありがと真白、りりあ。

 アンタらがくれたチャンス、絶対モノにしてみせる!


 そう意気込み、真白は迅に向き直った。

 

 迅と真白を恋仲にするために、キュープットの亜亥とりりあが行ったのは『肝試しの抽選くじの操作』である。

 事前に抽選くじである割り箸に細工をし、迅と真白が同じペアになるようにしたのだ。


「おい、どうなってるんだ蓮!!」


 そしてそのほぼ同時刻、羽柴優斗は迅たちの班のくじ抽選に関わっていた東野蓮に詰め寄る。


「何であのオタク共がペアになってないんだ!! おかしいだろ!!」


 言葉から分かる通り、優斗もまた抽選くじに細工を仕掛けるよう蓮に指示していた。

 肝試しの実行委員のメンバーの一人である彼ならば、それが可能だった。

 

「細工は間違い無くしたんだ!! そして唯ヶ原と柿崎がペアになるくじを奴らに引かせた!! だが……!!」


 混乱と困惑が混じる表情で、蓮は反論する。


「それはつまり、お前が何かミスをしたってことだろ!!」

「していない!! お前だって見ていだろう!!」

「っ……」


 蓮の言う通り、優斗は細工の施されたくじを事前に確認していた。

 そして、そのくじを引かせたのであれば、蓮に非は無い。

 だが現実として、迅と隼太はペアになっていない。


 何故こうなったのか、それは勿論亜亥たちの仕業である。

 蓮たちがくじに仕掛けを施した後、亜亥たちもまた仕掛けを施し、迅に真白と同じくじを引かせたのだ。

 

 仕掛けの上に更に施された仕掛けによって、優斗の意図しない結果になってしまったのである。


 こうなってしまった以上、仕方が無い。

 優斗は次の策を講じることを強いられた。


 どうする!! 奴らにまとめて仕掛けるつもりだったのに……!!

 このままでは亜亥たちを巻き込んでしまう……!!


 口に手を当て、考える優斗。

 そして彼の視線は、迅のペアとなった少女に向いた。


「……」


 次の瞬間、彼はある決断を下す。


 柿崎とペアになった咢宮は、今更憂慮する必要も無い。

 そして夢乃真白……考えてみれば、奴には前々から思う所があった。亜亥たちが仲良くしていて、ある程度カースト上位としてのもあるから……と放置していたが、俺に対する態度が悪かった。

 こうなった以上、唯ヶ原と一緒に制裁を受けてもらおう。

 

「計画、続行だ」

「待て、それじゃあ夢乃と咢宮は……」

「構わない。やれ」

「……分かった」


 一瞬目を伏せ、蓮は承諾する。

 

 様々な思惑が入り乱れ、混じる肝試し。

 意図せずその渦中にいた迅だが、彼がそれを知ることは無かった。



 ペアが決まり十分後、すぐに肝試しがスタートした。クラスごとにそれぞれ違う入り口からスタートし、五分ごとにペアが森の中へと入っていく。

 出発する順番は僕たちの班の中だけで言うと『黛・来栖・沢渡ペア』、『隼太・咢宮ペア』、そして最後に僕と夢乃のペアだった。

 そして隼太たちのペアが出発して五分後、いよいよ僕たちの順番が来た。


「さぁ、それではどうぞぉ!」


 司会の男に従い、僕と夢乃は森の中へと足を踏み入れる。

 渡された懐中電灯で前を照らしながら、僕たちは前進した。


「ゆ、唯ヶ原……」

「はい?」


 すると、十数秒歩いた時点で、無言で隣を歩いていた夢乃が声を掛けてくる。


「ウ、ウチ実は……幽霊とか、怖くて……」

「へぇ、そうなんですか」


 意外だな。結構気が強い印象イメージがあるんだが。


「唯ヶ原は、怖くない?」

「えーと、まぁ……」


 正直、幽霊とか暗い場所とか、そういった類のモノに恐怖を感じたことは無い。

 くくるちゃんの配信のリアタイに間に合わない方がよっぽど恐怖だ。


「じゃ、じゃあちょっと……」

「へ?」


 僕は突発的な夢乃の行動に思わず声を出す。

 彼女は自身の腕を、僕の腕に絡ませてきた。


「あの、夢乃さん……?」

「こ、怖いから……。肝試し、終わるまで……こうさせて」

「えー……と、分かりました」


 まぁ、怖いんだったら仕方ない。

 幸いこの暗がりなら、他のペアと遭遇しても腕を組んでることが露見バレることは無いだろう。


 僕は夢乃がくっ付くことを承諾した。


「さてと、それじゃあ先に進みますか。地図を見るともうすぐ第一チェックポイントみたいですよ」

「うん」


 僕と夢乃は止まっていた足を再始動させた。



 ふふ、作戦通り!!


 一方、迅と腕を組むことに成功した真白は内心でほくそ笑んでいた。

 そう……真白は別に幽霊や暗所が怖いワケでは無い。


 全ては迅と物理的に密着し、可愛さを主張アピールするためのハッタリである。


 肝試し、女が男を落とすためにあるようなイベント!! ここで絶対、ウチのことを意識させてやる!!


 固い決意の基、真白は迅の横を歩く。


「えーと、次はこっちを左ですね」


 地図を見ながら、迅は左右に分かれた道の内、左を選択する。立てられた看板の矢印もそちらを指し示しているため、それには疑う余地は無い。

 二人は左へと、進んだ。


 ……そんな彼らの背中を、暗視ゴーグルを着用し、少し離れた所から見送る者が一人。

 肝試しの実行委員にして、道中の仕掛け人である東野蓮だ。


 彼は耳に装着したBluetoothイヤホンで、優斗と連絡を取る。


「こちら蓮。対象が正規ルートを外れた」

『了解だ。事後処理を頼む』

「了解」


 優斗の言葉に従い、蓮は看板を元の位置に……右の道を指し示す位置に戻した。


「そうだ。地図はどうする? 回収しないと他の地図と示してるルートが違うことが露見バレるぞ」


 ふと思い出したように言う蓮。だがそれに特に動揺すること無く、優斗は答える。


「問題ない。実行委員の適当な奴に擦りつける」

「はは、全く……敵わないな」

『それじゃあ切るぞ』

「あぁ」


 蓮との通話を切り、事が上手く運んでいることに、思わず優斗は笑みがこぼれる。


「はは……」


 いいぞ。これで奴らは森の中を彷徨うことになる……!! いい気味だ、はは……ははははははは!!


「優斗、何笑ってるの?」


 すると、そこに近くにいた詩織が不思議そうな表情で問い掛ける。

 優斗は顔を上げ、柔和な笑みを彼女に見せる。


「いや、詩織と二人きりで肝試しに参加できるのが嬉しいだけさ」

「うぇ、ちょっと冗談止めてよ……」

「はは、冗談じゃ無くて本気だよ」


 だからこそ、自分たちの班のくじにも細工をし、俺と詩織が同じペアになるように仕組んだんだからね。


 内心で、彼はそう呟いた。


「さ、そろそろ俺たちが出発する番だ」

「あぁそだね。それじゃあ行こっか」


 優斗と詩織はスタート地点へと足を運ぶ。

 

 詩織、俺の恋人に相応しいのは君だ。

 だからこそ、絶対に君を手に入れる。この肝試しは、その第一歩だ。


 真白が迅を落とそうとしているのと同様に、優斗も詩織を落とすべく、この肝試しを利用しようとしていた。


 ――だが、彼は知らない。

 これから森の中で待ち受ける圧倒的恐怖の前に、醜い痴態を晒すことを。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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