その陰キャ、聞きたくない話を聞く
バスに揺られて約二時間、東京から出た僕たちは目的地へと到着した。
「おぉ!! マジで大自然って感じだなぁ!」
「誠くんはしゃぎ過ぎ〜」
「あはは〜緑ばっかり〜!」
「東京と違い過ぎてウケる〜」
「ムシ多そうで萎える……」
バスを降りた僕のグループメンバーたちはそれぞれそんな感想を抱く。
「うぅ……」
「隼太、大丈夫か?」
「おぉぉ……、何とかぁ……うっぷ! 拙者少しトイレに行ってくるでござる」
「お、おぉ。頑張れ」
口を押さえたまま、隼太は近くにあったトイレへと歩いて行った。
そんな彼を横目に、僕はこれから登る山へと目をやる。
合宿一日目の最初のイベント、『山登り』。今日から泊まる合宿施設が山頂にあるため、そこまで歩いて登るらしい。
これでどう親睦が深まるのかよく分からんが、まぁ考えても仕方が無い。
それよりも……。
僕は辺りを見回し、落ち合う予定となっている坂町を探す。そしてすぐに彼女を見つけた。いやでも目を引くほどの存在感がある。
あちらも僕に気が付いたようで、軽く目配せするとトイレの方へと向かった。
坂町のような人物がそそくさと何処かへ行こうとすると目立つ。そのためトイレを経由して人目に付かない場所へ行く必要がある。
あとは僕がそんな彼女の後を不自然に思われない程度に付いていくというワケだ。
適度な距離感を保ち、周囲が注目していないことを確認しながら、僕は坂町の後を追おうと足を動かす。
その一歩目を踏み出した時、
ポン
肩を叩かれた。
振り返る。そこにはニッコリと笑う夢乃がいた。
「ウチを置いて坂町としゃれこもうなんて思ってないよね?」
「……思ってないですはい」
夢乃に見つからず坂町と会う僕の作戦は一瞬にして失敗に終わった。
◇
心地良い風が吹き、草木の香りが鼻腔をくすぐる。
トイレ近くの林を少し進んだ所に、静寂はあった。
人目に付かないこの場所は、密談を交わすには正に格好の場所。
まぁ……。
「え、っと……唯ヶ原君」
「はい」
「何で、夢乃さんがいるの?」
「僕にも分かりません」
夢乃がいる時点でもう密談じゃないんだけどな。
「んで、何の用なの坂町。唯ヶ原をこんな人気の無いトコに呼び出して」
「え、えぇと……」
圧の強い夢乃の問いに、坂町は言葉を詰まらせる。
すまん、坂町……。
申し訳ない気持ちで、僕は坂町を見る。
「ほら、やっぱり答えられない」
どうやら夢乃にとって、坂町が言葉を詰まらせるのは想定通りだったようだ。
そして全て合点がいったような顔で、夢乃は彼女を指差し、言った。
「坂町、アンタ……唯ヶ原のこと好きでしょ!?」
「……」
一体何を言っているんだ夢乃は……?
あまりにも荒唐無稽な発言に、思わず鼻で笑いたくなる衝動を抑える。
坂町が僕のことを好き? 何をどう考えたらそうなるんだ? 全く、そんなワケがないだろう……ほら坂町、さっさと否定してやれ。
そう思い、坂町の方を見るが、
「ほ、ほえ……?」
――ん?
予想とは異なる彼女の反応に、僕は目が点になった。
「な、なななななな何を言ってるんですかぁ!! そ、そそそそそそそんなワケ無いでしょうがぁ!!」
「ほらそれ!! その反応!! 絶対そうじゃん!! 好きじゃん唯ヶ原のことぉ!!」
顔を真っ赤にして否定する坂町に向かい、夢乃は言い放つ。
「ち、ちちちちち違いますよぉ!! わ、私が唯ヶ原君をぉ? 好きなワケぇ? ないじゃないですかぁ!!」
「目が泳いでるっての!! 全然説得力無い!! あーもう!! こんな奴の何処が良いのぉ!! ライバルはいないって安心してたのにぃ!!」
頭を抱える夢乃……うん、頭を抱えたいのは僕だ。
一体何なんだこの状況は!! 想定していた百億倍くらい意味の分からないことになっているぞ……!!
坂町、どうしちまったんだお前ぇ!!
僕は坂町を見る。
すると顔を真っ赤にした彼女は一瞬にして目を反らした。
……しかし、
「っ!!」
何かを思いついたのか。彼女はキリっと顔を上げ、夢乃を見た。そして、
「露、露見たなら仕方ありません。そ、そうです。私は唯ヶ原君のことが好きなんです! 彼を人気の無い所に呼んだのは告白するためだったんです!!」
「……」
自暴自棄気味に、彼女は言った。
終わったと、僕は思った。
だが直後、それが自暴自棄から発された言葉じゃないことに気付く。
「や、やっぱり……」
「な、なので! ここから離れてもらっていいですか!? こ、告白の邪魔……しないで下さい!」
っ!! そういうことか……!!
坂町が僕のことを好きで告白しようとしているということにすれば、気を遣って夢乃がこの場から離れる。坂町の発言は、それを考慮してのものだったのだ。
後の問題は、夢乃が素直にそれに従い、行動するかということだが……。
「……分かった」
僕の不安とは裏腹に、夢乃は素直だった。
「あ、ありがとうございます!」
「お礼なんていらない。機会は平等だし、告白は自由だもん」
夢乃の言い分に、僕は妙な潔さを感じる。
「言っとくけど、別に応援するワケじゃないからね!!」
そう言い残し、夢乃は集合場所へと戻って行った。
「……ふぅ。間一髪でしたねぇ……」
彼女の姿が完全に見えなくなった後、坂町は大きく息を吐いた。
「助かった。すごい演技だったな」
「え、演技?」
「ん? 夢乃を騙すために僕のことが好きなフリをしてくれたんだろ?」
「は、ははははは! そ、そうなんですよぉ!! こう見えて昔は有名子役だったので私! け、けけけ結構すごいんですよ!」
何故か動揺しながら笑う坂町に、僕は首を傾げた。
が、それよりも……。
「んで、わざわざ呼び出して何の用だ?」
「あ、はい! そうでした! 唯ヶ原君の耳に直接入れておいた方がいいと思いまして! これはまだ確定ではないんですが……」
「あぁ」
神妙な顔つきの坂町、余程重大な報告なのだろう。僕は固唾を呑んで次の言葉を待った。
「今回の合宿、不良絡みでまた何か起きるかもしれません」
「……は?」
あまりにも脈絡のない坂町の発言に、僕はポカンと口を開ける。
「ど、どういうことだよ? な、何を根拠にそんなこと……」
「今回の合宿、例年とは違う場所で行われるのは知ってますよね?」
「ん、あぁ」
何でも毎年利用している合宿施設が全焼し使えなくなったようで、今回は違う山の違う合宿施設を利用するというのは先生から聞いた。
「でもそれが不良と何の関係があるんだ?」
「実はこの山を走っている車に、夜な夜な単車がダウンヒルバトルを仕掛けているみたいです」
「……」
その話を聞き、僕は正気を疑った。
坂町をではない。単車でダウンヒルバトルをするソイツをだ。
ダウンヒルバトル。
坂道を下り、どちらが先に山を降りられるかを競う。
凄まじい速度で坂を下るため、少しの気の緩みが大事故に繋がり、下手をすれば死ぬ。
それを装甲面積が少ない単車で、しかも車と勝負をするなんて、酔狂にもほどがある。
命が惜しくないのだろうか。
……。
そこまで思考し、僕の背中に嫌な汗が流れた。
「噂によると、その単車でバトルを挑む人、とんでもなく強いらしくて、もう何十人も走り屋を倒してるとか……」
嫌な汗が更に流れた。
「唯ヶ原君……」
「言うなぁ!!」
咄嗟に、僕は耳を塞ぐ。
単車で走り屋の車に勝負を挑み、峠を攻める強靭な心臓に加え、相当な運転技術を持つ……その人物に対し、あまりにも心当たりがあった。
絶対アイツだ……!!
僕は思い出す。
かつて【羅天煌】の『捌番隊隊長』にして、
【悪童十傑】の一人……その名を。
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