その陰キャ、不良チームに体験入団する
あまりにも面倒な状況。
思わず思考を停止しそうな脳みそ。
落ち着け僕。こういう時は一歩一歩冷静に対処していけば問題ない。一番ダメなのは止まることだ。
歩みを止めないで〜、おっと……思わずくくるちゃんの1stシングル『くくる☆頑張る!』のフレーズが頭を過ってしまった。
すまないくくるちゃん。この状況を乗り切ったら、絶対鬼リピするから……!!
「と、轟さん。迷子なら、交番へ行ってはどうですか? もしくはスマホで調べるとか……」
冷静さを保ちながら、僕は考え得る限りの適切な行動を取る。
「警察の世話にはなりたくない。スマホは無い」
「……」
だが秒速で挫かれた出鼻に、ピクピクと口角を吊り上げるのが精いっぱいであった。
「け、警察の世話になりたくないって……どうしてですか?」
それでも何とか吐き出しそうになる気持ちを抑え、当然の疑問を口にする。
「ヤだから」
「……」
ダメだこの女。九十九と同じ匂いがする……。
気配を感じ取った僕はまともに話をすることを放棄。
だがこれは諦めるという意味ではない、話が通用しないのであれば、逆に利用してやるという意味だ。
「夢乃さん、どうしますか?」
「うぇ……? どうって何が……?」
「この人迷子っぽいんですけどスマホ無くて交番にも行きたくないみたいなんです。だから道案内をしようと思うんですが……」
正直、このまま夢乃と一緒にいるのはどこか気まずいものがあったし、どうすればいいのか全く糸口が見えなかったのも事実。
『三人』という状況と『道案内』という目的ができれば、それが多少和らぐと僕は考えた。
だが問題は、この提案に夢乃が不満を抱かないかということだ。
少しだけ緊張感を漂わせるが、次の瞬間それは杞憂に変わる。
「……分かった。いいわよ」
「ほ、本当ですか?」
「元々今日はアンタにお礼するのが目的だし、アンタがしたいことに従うわよ……勝手に勘違いしたのはウチだもん……」
「何か、本当にすみません……」
明らかに調子が降下している夢乃に、僕は思わず謝罪する。
しかしまぁ、恥ずかしいとか消えたいとか言っておきながらちゃんと付き合ってくれるんだな。
外見や雰囲気とは裏腹な彼女の優しさとも言える義理堅さに、僕は少し感心した。
◇
――一時間後
僕と夢乃は迷子少女である轟を交え、歩いていた。
目的地の場所は轟が持っていた紙に書かれていた住所が頼りだ。僕たちはその住所をスマホに入力、位置情報機能を駆使して目的地へと向かっている。
「そういえば、轟さんはどうして僕に声を掛けたんですか?」
目的地までもう少しという所で、僕はふと思った疑問を口にする。
「うーん。別に……何となく。お前がいい感じだった」
「そ、そうですか……」
抽象的過ぎる轟の説明に、僕は乾いた笑いを浮かべた。
「てかさ、ホントにこっちで合ってる唯ヶ原?」
「え? スマホの位置情報通りに移動してるので大丈夫だと思いますけど?」
僕は手に持っていたスマホに目をやる。間違いなく目的地への道順は適切だった。
「何か、雰囲気がすごい暗いっつーか。人少なくない?」
「……」
そこまで言われ、確かになと思う。
不良をしていた中学時代、こういった場所には腐るほど足を運んでいたからあまり気にしていなかったが夢乃は気になるのか。
……ん?
そこまで考え、ようやく僕に嫌な予感が走る。
が、時既に遅し。
「あ、ここだ」
スマホによる案内が終わり、僕たちの目の前には巨大な廃コンテナが広がっていた。
わぁ……まるで遊園地みたいだ!
などと現実逃避を図るが、
「そ、総代!!」
現れた初対面の女子がそう言ってこちらに駆け寄って来るのを見て、現実に帰る。
「どこに行ってたんですか!? 皆総代を探しに行きましたよ!! てか誰ですかソイツらぁ!?」
「ん、そうなの?」
総代と呼ばれた轟は、何てことない様子で答える。
「ね、ねぇ唯ヶ原。なんか……ヤバくない?」
「はい……」
このただならぬ雰囲気、そして『総代』と呼ばれた轟琥珀。
これらが指し示す結論は一つしかない。
今この場所は、不良の巣窟であるということだ。
くそっ!! もっと早く気付くべきだった。僕が気にならないってことは……こういう可能性が高いってことに……!!
圧倒的後悔。
だがこの場でくよくよしていても仕方のないこと。僕がしなくてはならないのは、一刻も早くこの場を離脱することだ。
「じゃ、じゃあ僕たちはこれで!」
そう言って、僕は夢乃と共にそそくさとその場を後にしようとするが、
「待って」
轟から見事に呼び止められてしまう。
「お前、良い。気に入った」
そう言い放つ轟、次の瞬間彼女はとんでもないことを言い放つ。
「私のチームに入れ」
「……へ?」
あまりにも常軌を逸した発言に、僕の目は点になった。
「ちょっ!? いきなり何を言ってるんですか総代!?」
轟のチームの下っ端であろう少女は声を荒げる。
「そんなナヨナヨした奴ウチらのチームじゃすぐに潰れますよ! てかそもそもソイツ野郎じゃないですか!! ウチはレディースチームですよ!?」
「うるさい」
「っ!?」
しかし、轟の無気力ながら圧の込められた声に一瞬にして萎縮、身体を硬直させてしまった。
「【紅蓮十字軍】は私のチーム。私が規則」
「は、はい……!!」
繰り返される轟と下っ端少女とのやり取り。
それを見て、コイツがどうしようもなく不良であることを……とうしようもなく分からせられた。
「総代!! ようやく来られましたか!!」
すると更に同じチームメンバーであろう少女が現れる。
見たところ下っ端ではない。恐らく二番手くらいの実力。
僕は的確に相手を分析る。
同時に、ここまで同行し強さの片鱗を一ミリたりとも見せることが無かった轟の異質さが際立った。
意図的に、完全に強さを隠匿いる僕とは違う。
轟は、自然体ながらも強さが不明瞭。
だが、僕は驚かない。不良としての経験上知っていたからだ。
轟のような奴が、たまにいることを。
……ていうかそもそも、コイツ見たことあるぞ。メイド喫茶にいた奴じゃねぇか。
「レイナ。コイツ、チームに入れる」
レイナと呼ばれた少女に向け、轟は僕を指差し言った。
「……」
そして彼女は、物色するように僕を一瞥する。
た、頼む!! お前二番手だろ!! なら何とか言ってくれ!!
などと淡い願いを抱く僕。
「分かりました」
だがその願いは一瞬にして崩落した。
ダメだ……!! このままだとなし崩し的に良く分かんねぇチームに入れられちまう!! それは絶対に避けねぇと……!!
「あ、あの轟さん!!」
「ん、何?」
轟がこちらに振り向く。
や、ヤベェ……!! 思わず口開いちまったがどうする……!? コイツらまとめて潰すか!? いやもう顔露見ちまってるし夢乃もいる……それは出来ねぇ!!
額から流れ出た汗が、頬を伝い、落ちる。
どうする、どうする……!!
脳が最高速で回転し、最適解を導こうと奮闘。
そうして僕の口から出た言葉は……。
「と、とりあえず体験入団ってことで……いい、ですかね……?」
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