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その陰キャ、美少女二人に挟まれる(優斗は怒りを発散したい)

「そういえば九十九。お前どうして秋葉原あそこにいたんだ?」


 三人分となった夕食を小さな机の上に乗せ、僕は問い掛ける。


「お兄ちゃんがボコした奴の写真を見て東京に来たけど、東京って広かった。だから見つけられなかった。ので、とりあえず適当にブラブラしてればその内見つけられると思った」

「お前……」


 あまりにも行き当たりばったりで野性的過ぎる……。


「はははは! バカだなてめぇ! あんなの写真に写ってた場所調べりゃいいだけじゃねぇかよ!」

「うるさい」


 至極正論をかます龍子に、九十九は半眼を向けた。


「まぁいい。九十九、とりあえずこの家……というか僕の周りで生活する上での規則ルールを説明するぞ」

規則ルール?」

「あぁ。先ず紹介しておかなければならないのはこの子、『小鳥遊くくる』ちゃんだ」

「んぅ?」


 くくるちゃんのタペストリーを見た九十九はキョトンと首を傾げる。


「この子は僕の『推し』。僕は今、この子を中心に生きている。僕にとっての最優先事項はこの子であり、この子を推す僕の生活に不都合が生じることは一切許さない。つまり……、僕の部屋に広がるくくるちゃんグッズを傷つけたり、くくるちゃんの配信視聴の邪魔をしたりするのはダメってことだ。分かったか?」

「……」


 あ、これ分かってない奴だ。

 そりゃそうか。コイツにいきなり『推し』だの何だの言って分かるわけないか……。


「とりあえず、龍子の真似をしてればいい」

「うん。分かった」


 酷く簡潔な僕の指示に、九十九は頷いた。


 よし、これでいいな。


 何とか指示を理解させることができた僕は、束の間の安堵と共に時計を見る。


 おっと、そろそろくくるちゃんの配信が始まってしまう。今日の配信内容は……APOXか。可愛くて歌も上手くてFPSも上手い……僕の推しはどこまで最強なんだ。


 推しの万能さに脳を震わせながら、僕はデスクトップPCの前に鎮座した。


 さぁ、今日も推しを精一杯応援しよう。



「んぅ……」


 小鳥のさえずりが優しく耳に響く。


 ふぅ、何とも清々しい朝だ。


 くくるちゃんがAPOXで無事マスターランクに到達し、配信を終了する所までを見届けた。

 彼女がマスターに到達し泣いた時、僕も感極まって涙を流してしまった。

 祝いのスパチャをもっと投げたかったが、上限額に達してしまったのが悔やまれる。


 これで後は……。


「んぅ……アニキィ……」

「……そー、ちょー……」


 コイツらが僕にしがみつきながら寝ていなければ完璧だったんだけどな。

 

 腕に伝わる確かな熱と煩わしさに、僕は溜息を吐く。

 龍子と九十九は僕の腕から腹部に掛けて、絡みつくように寝息を立てている。


「おーい、起きろお前らー」


 ブンブンブンブンブン。


「んぅぅぅぅ……!!」

「むにゃぁぁぁぁ……!!」


 腕に二人を巻き付けたまま起き上がった僕は、上下左右に腕を振るが、龍子と九十九は一切起きる気配が無い。

 というかこれで腕から離れないとか、流石【悪童十傑】というべきか。

 ……いや、「流石」じゃねぇわ。


 頭の中でそう自己完結させ、僕は一先ず龍子と九十九を体に巻き付けたままに洗面台へ行き、顔を洗い歯を磨く。そして冷蔵庫へと向かい冷凍してあった昨日の夕飯の残りを食べる。

 自炊を含め、こういったことをするようになったのは当然節約のためだ。僕はくくるちゃんを推すため、自分に対する出費はできるだけ抑えるように努めている。


「んぁ……?」

「むぅん……?」

「起きたかお前ら?」


 食事中、僕の両サイドでゆっくりと目を開けた二人。

 

「おぉアニキ。おはよ……ふあぁ……」

「おはよー、そーちょー」


 二人はそう言って僕から離れた。


「お前ら、僕は床に布団を敷いてあったはずなんだが、どうして僕に引っ付いて寝ているんだ?」

「うぇ? ンなの九十九コイツと同じトコで寝んのがやだからに決まってんだろアニキ」

「同じく、こんなのと一緒に寝たくない。それに私はまだお兄ちゃん成分が足りてない。だからもっと吸収しないと」


 二人の言い訳になっていない言い訳を聞き、僕は一言。


「仲良く寝ろ」


 そう告げた。



「はぁ……」


 昨日よりも重たい足取りで、僕は学校へと向かう。

 龍子と九十九には家でおとなしくしていろとだけ指示した。まぁ問題はないだろう。


 ……けど、やっぱり九十九まで家に入れたのは失敗だったかなぁ……。


 ガックリと、僕は項垂れる。


 つっても、アイツあのままじゃあもっと噂になってただろうし、アイツの親も龍子の親と一緒で心配とかしないだろうし……。


 そこまで考え、僕は頭を振った。


 ダメダメだ。もうすぐくくるちゃんのライブが控えてるんだぞ。こんな気持ちで応援するなんて不誠実も良い所だ。

 とりあえず、そこら辺はライブが終わってから考えよう。


 そう切り替え、顔を上げる。学校へと向かう足取りも、少しだがマシになった気がした。



『大惨事学園』、一年A組。

 そこに、内心穏やかじゃない……苛立ちを抱えた男がいた。


「……」


 男の名は羽柴優斗。

 学年カーストトップクラスの陽キャにして、先日迅との持久走対決で敗北した男だ。


 彼にはカーストのトップ、クラスの中心であることへの尊厳プライドがあり、明確にカースト下位の生徒を見下していた。

 そんな彼にとって、カースト下位の陰キャである迅に敗北したことは泥水をすするような思いだった。

 

 周囲にはいつもの毅然とした態度で誤魔化してはいるが、その内心ははらわたが煮えくり返っていたのである。


 持久走の対決から既に一か月が経過しようとしているが、未だ彼の負の感情は留まることを知らない。

 それどころか憎悪と怒りは、未だ彼の中で蓄積され続けている。


 くそ……!! あの勝負、偶然だとしてもあんなカースト底辺のゴミに負けるなんて、やはり自分を許せない……!! 潰したい、殺してやりたい……!! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 激しい負の感情が内部で爆発し続けている。優斗は、限界に達しようとしていた。


 ――発散。


 だから今の彼には、それが必要だった。


 だが迅本人に手を下すのは、持久走に負けた腹いせのようで恰好がつかない。

 よって、彼は思案した。丁度いい、手頃な人形サンドバック候補を。


 誰かいないか。誰か……。


 そう優斗が思った矢先、


「迅殿~!」

「……」


 あぁ、そうだ。忘れていた……いるじゃないか……!!


 彼は見つけた。丁度いい、手頃な奴を。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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