その陰キャ、不良チーム相手に無双する③
日刊現実恋愛一位、ありがとうこざいます。
――【終蘇悪怒】アジト屋上
龍子がモッチーとハッシーを下したほぼ同時刻。
鹿(迅)と【終蘇悪怒】の総長である石巻伽藍は対峙していた。
◇
「はははぁ……!! まさか蹴り上げられて屋上まで飛ばされるとはなぁ!! いい、やはりいいぞお前ぇ!!」
「笑ってんじゃねぇよ戦闘狂」
「おいおい、何を言ってる。お前もそうだろう?」
「あ?」
「素性を隠しているつもりか知らんが、お前からは匂うぞ。戦うことでしか自身の存在意義を見出すことのできない狂者の匂いが!!」
「……」
伽藍の発言が、僕の忌々しい記憶を刺激する。
【羅天煌】の総長であり、【悪童神】と恐れられ、全国の猛者たちと戦いを繰り広げていた日々を。
「ちっ、余計なモン思い出させやがって」
僕にとって、不良の頃のことは言わば封印したい過去。有り体に言ってしまえば黒歴史のようなものだ。
それを思い出させた伽藍に対し僕は、少しばかりの苛立ちを覚えた。
「はは、少しはやる気に、なったか?」
空気の変化を感じ取ったのか、伽藍はニヤリと口角を釣り上げる。
「……さっさと来いよ。んで、とっとと終わらせてやる」
「はは、急かすなよ。先ずは互いに名乗ろうぜ。それが不良が決闘する上での礼儀だろうがよぉ」
「僕は不良じゃない」
「はっはっはぁ!! なら俺だけ名乗るかぁ!!」
そう言って、伽藍は構える。
「【終蘇悪怒】総長、石巻伽藍!! 一身上の都合により、てめぇをぉ……潰す!!」
そして瞬きする程の暇もなく、伽藍が僕の眼前に現れる。
「くらえ!! 【愚直な拳の趙連撃】!!!!」
ズガガガガガガガガガガガ!!!!
そして拳のラッシュが僕に襲来した。
「【愚直な拳の趙連撃】は文字通り相手に俺の拳の連打を超速で食らわせる技!! 並の不良は一撃と保たず死ぬぅ!!」
ズガガガガガガガガガガガ!!!!
「解説どーも」
「ははははは!!! マジか!? 俺の技を食らってまだ立っているとはぁ!!」
「いや、そもそも食らってねぇよ」
「あ……?」
僕の言葉を契機に、伽藍は攻撃を中断した。
「おいおい、どういうこったよ……?」
傷一つついていない僕を確認した伽藍は問いかける。
「どうもこうも、全部防いだだけだ」
そう言って、僕は奴の攻撃を受け止めた右手を見せる。
「ふ、防いだ……? あの手数と威力の攻撃を……全部、片手で受け止めたって言うのか?」
「あぁ」
「……」
即答する僕に対し、何故か伽藍は押し黙る。
「はは……!! はは、ははは、はははははは!!」
そして数秒の沈黙の後、高らかに笑い出した。
情緒不安定な奴だな。
「本当に最高だなお前ぇ!! いい、いいぜぇ!! おまえになら、本気を出しても、良さそうだなぁ!!」
「本気?」
「あぁ……!! 聞いて驚け!! 今の攻撃は、俺の力のほんの10パーセントだ!!」
「……」
え、アレで10パー?
「おいおいどうしたぁ!? 絶望して声も出ねぇかぁ? 頼むからよぉ、あんま絶望してくれんなよぉ!!」
「お、おう……」
なんとも言えない気持ちになった僕は、辛うじて返答した。
「んじゃ、いくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!! 50パーセントォォォォ!!!」
ズドドドドドドドドドドドド!!!
伽藍が再び攻撃を開始する。
見たところ、さっきよりも攻撃の速度も威力も上昇している。
「……」
が、それだけだ。
僕にとっては何の問題もない。
同様に、僕は全ての攻撃を片手で受け止め、防ぐ。
「この感覚!! まだ防いでやがるなぁ!! ならよぉ……60パーセントォ!!」
ズバババババババババババババババ!!!
また伽藍の拳の速度と威力が上昇する。が、
「……」
依然、全く以って問題無い。
僕は全てを防ぎ切る。
「70……!! 80……!! 90パーセント!!」
上昇を続ける伽藍の技。
見ると、危機感か不安でも感じたのだろうか。彼から焦りの表情が窺えた。
しかし、まだ彼の目から歓喜の感情は消えない。
「ならぁ……!! MAX!! 100パーセントだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!!
100パーセント、これがコイツの本気ってことか。
マシンガンのような拳の連打に、僕は目を細める。
「100%を防げたのは【破我連合】の総長だけぇ!! さぁどうするよぉ!?」
【破我連合】? そういや前に坂町が言ってたな。コイツがそこの元メンバーだったとかなんとか。
「ま、どうでもいいか」
そう呟き、僕は体を左右に揺らす。
先ほどとは異なり、攻撃を防ぐのでは無く、避けるために。
伽藍の拳が空を切る音だけがそこに響く。
「おぉ!?」
手で受け止められる感触が消えたからだろう。伽藍は面食らったような顔をする。
「あ、あり得ねぇ!! 俺の100パーセントを……避けてるだとぉ!? コイツは速すぎて総長でも避けず防御することしかできなかったんだぞ……っぉ!?」
突如として伽藍が素っ頓狂な声を上げる。
理由は単純で、僕が攻撃を回避しながら一歩前に出て、コイツの腹を指でつついたからだ。
「ごぉ……ほぉぅ……!? な、なんだぁ今のパンチ……ィ!? こ、こんな強ぇの、今までぇ……食らったことがぁ、無ぇ……!!」
攻撃を中断し、腹を抑えながら膝をついた伽藍はか細い声で呻いた。
かなり手加減したんだが、それでも強過ぎたか。
「や、やっぱりぃ!! 俺の、目に!! 狂いはなかった!! お前は、俺の人生をぉ!! 楽しませてくれるぅ!! まぁ、まだ、だぁ……!! まだ終わらねぇ……!! 俺をぉ……楽しませろぉぉぉぉぉ!!」
叫びながら、伽藍は勢いよく立ち上がり、拳を僕に向ける。
その様に、どうしようも無い不快感と怒りを覚えた。
「……楽しむだぁ? バカかてめぇ」
――僕は、拳を握る。
もう起き上がれないよう、トドメを刺すために。
「ケンカ……楽しくもなんとも無ぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
久々に放った【普通のパンチ】。
伽藍との勝負は、僕の勝利で幕を閉じた。
◇
夜風が吹き抜ける中、伽藍は大の字で倒れている。僕のパンチを受け、しばらく起き上がることはできないだろう。
「て、てめぇ……いっ、一体何モンだぁ……そ、その強さ……不良ランキング上位勢よりも……上ぇ……」
「細けぇことは気にすんな。とりあえず、チームの頭張ってるお前が負けたんだ。【終蘇悪怒】を解散しろ」
「そ、そんなこ……とぉ……!!」
ドカン!!
抵抗の意思を見せる伽藍。残念だがこの期に及んでそれは通らない。
僕は彼の顔近くの床を踏み抜いた。先程の【普通のパンチ】でヒビ割れだらけとなった屋上の床に、ヒビが増える。
「おいおい。不良界は弱肉強食。勝者の言うことは絶対、敗者に拒否権は無ぇ。不良なら、分かるよなぁ?」
僕は伽藍を見下ろしながら、彼をマスク越しに睨みつける。
「っ……!! は、はい……!! わ、分かりました……!! 総長の名の下に、【終蘇悪怒】を、解散します!!」
伽藍の表情からは歓喜の感情が消え、怯えと恐怖のみでソレは形成された。
「よーし、分かればいい」
これで【終蘇悪怒】が僕を捜索することは無くなったな。
目的の達成に、僕は安堵する。
「あ、あのぉ……」
「あ? 何だよ」
「ケンカ、以外で……何か……楽しいことって……なんですか……?」
「はぁ?」
「いや、あの……俺、今まで……強い奴とケンカすることしか、してこなかったから……それ以外のこと、良く分からなくて……」
「……」
伽藍から不意に放たれた言葉。
普通の人間ならば愚かと思うようなソレを、僕は愚かだと思うことができなかった。
分かってしまったからだ。
コイツの言葉が、気持ちが。
自分の中にあった圧倒的な『渇き』と『飢え』。
それらを血生臭い闘争で満たしていた僕は、気付けば伽藍と過去の自分を重ね合わせていた。
--だからだろう。
「とりあえず、自分の『推し』を見つけろ」
コイツに、手を差し伸べてしまったのは。
「え……『推し』ってぇ……な、何でしょうか……?」
「はぁ? 『推し』も知らねぇのかよ。ったく、日本の義務教育はどうなってんだ……」
義務教育をほとんど受けていない僕が日本の教育に疑問を呈しそうになったが、そんなことをしても仕方が無い。
「……スマホで【ハウンズ】って検索しろ。後は、お前次第だ」
そう言い残し、僕は屋上を去った。
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