その陰キャ、不良チーム相手に無双する②
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!! 行くぜモッチー」
「あぁ!!」
迅の言動に苛立ったのか、ハッシーとモッチーの二人は彼に向かおうとするが、
「っと」
「「……は?」」
一瞬にして伽藍の目の前に移動した迅に対し、目を点にした。
や、やっぱり早ぇ……!? さっきのは夢なんかじゃなかった……!! コイツ、マジで何なんだよ……!!
僕は間違いなくコイツよりも先に動き出そうとした。にもかかわらず、コイツは既に総長の目の前にいる……!! 一体何者なんだ、コイツは……!?
焦り、驚愕、不安。
それらがハッシーとモッチーの中を駆け巡り、頬に冷や汗が流れる。
「はは、速いな」
しかし、そんな二人とは裏腹に伽藍は期待と歓喜の表情を見せていた。
「あぁ? 別に驚くほどでもねぇだろこんくらい」
「いいや、その速さ……不良ランキング上位の奴らに匹敵する! はははは!! ますます気になってきたぞお前のことがぁ!!」
「うるせぇ」
ゴン!!
そんな伽藍に嫌気が差したのか、迅は彼の顎を蹴り上げる。
伽藍は鈍い音と共に天井を突き破り、上階へとブチ上げられた。
「「……」」
ポカーンと、ハッシーとモッチーは大口を開け唖然とする。
「んじゃ宇宙人、そっちは頼んだぞ」
「おう! 任せろアニキ!」
最早アニキと呼ぶなと訂正する気も失せていた迅は、そのまま跳躍し伽藍と同じ階へと向かった。
「よーし! んじゃやるかぁ三下共!」
久しぶりに迅に頼みごとをされたからか、龍子はいつも以上にテンションが上がり、張り切っている。
「お、おいモッチー……」
「な、何だよハッシー……」
「こ、コイツもよぉ……さっきバカみてぇに早く動いてたよなぁ? も、もしかしてコイツも鹿のマスク被った野郎と同じくらいバケモンなんじゃ……」
「っ!? だ、だからどうした!! それが僕たちが逃げ出す理由にはならないだろうが!!」
「あ、あぁ……!! そうだな!!」
「それに僕たちは【終蘇悪怒】の二番手と三番手!! 僕たちは強い!!」
「お、おぉそうだなぁ!!」
モッチーに持ち上げられ、調子を取り戻すハッシー。
「あー、良く分かんねぇけど話終わったか? ならやろうぜ!!」
キラキラと目を輝かせた龍子はボキボキと指を鳴らした。
「調子に乗るなよ……!! 行くぞハッシー!」
「おうよ!」
そうして先に仕掛けてたのは、モッチーとハッシーで。
彼らは狙いを龍子に定め、攻撃を繰り出した。
「っと!」
が、龍子はアクロバティックな動きでそれらを軽やかに回避する。
「はっ!? なんつー身のこなしだ……!?」
「ハッシー油断するな! コイツらが普通じゃないのは事実! 全力でいけ!」
「……あぁ、そうだなぁ!」
相手が強者だということを再認識するハッシー、次に放たれた彼の拳は1秒前のものよりも遥かに速度が上昇していた。
「食らいやがれ!! 俺の拳は【終蘇悪怒】トップクラスだ!!」
ハッシーの言う通り、彼の拳の威力は総長である伽藍堂の次に高い。
――しかし、
「ほーん。それでかよ?」
「っ!?」
龍子には、当然の如く通用しない。
【終蘇悪怒】のトップクラス、その程度では彼女を崩すことなどできるはずも無い。
「お、俺の全力を避けやがった……!! て、てめぇ一体何モンだ……!?」
モッチーは驚愕と焦りの顔を見せる。
「んあ? だから宇宙人っつってんだろうが!」
「誤魔化すんじゃねぇ!! てめぇみたいなのがいるかよぉ!!」
「いんだろうがここによぉ!!」
「っ!?」
龍子の声に怯んだモッチー。
刹那、彼は彼女の圧を垣間見る。
やべぇ、やべぇよアイツ……!! やっぱり強ぇ、強すぎる……!!
「ハッシー!! 一旦体制を立て直せぇ!!」
「っ!?」
モッチーは叫びに呼応するように、我に返ったハッシーは跳躍し後方へと距離を取った。
ほー、アイツがパワーだとしたらこっちはスピードか。
俊敏な身のこなしで必死に龍子を攪乱しようと懸命に動き続けるモッチーを見て、龍子はそう分析した。
くっ!! なんて奴だ……!! 隙が全く無い!! 逆にどこを狙っても僕が返り討ちに遭うことが分かる……!!
「なーなー、仕掛けてこねぇならそろそろいいか?」
突如、龍子がそう漏らす。
「ぐぎゃあ……!?」
そうして彼女は、せわしなく動き回っていたモッチーの顔面を的確に、見向きもせずに掴んだ。
「ハハハハハ!! さてはお前バカだなぁ? 攻撃してこねぇとよぉ、アタシは倒せねぇぜ?」
「あ、あぁ……!?」
ミシミシミシミシミシ……!!
純粋無垢にバカなことを言いながら、龍子はモッチーの頭蓋を握る。
「がああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
脳にいきわたる凄まじい激痛に、彼は叫んだ。
「っと!」
ブン! と風を切る音を立て、龍子は彼をハッシーのいる方へと投げ飛ばす。
「っぐぅ!? だ、大丈夫かよモッチィ!!」
「ぐ、あぁ……ぁ」
ハッシーは心配そうにモッチーを揺する。彼は頭痛に苛まれる頭を抑えながら辛うじて返答する。
その様子は酷く惨めなものであった。
「うーん飽きた!! もういいや、さっさと終わらせるか!」
飽きた、二人にとって屈辱以外の何物でも無い言葉を口にした龍子。
彼女は腰の金属バットに手を掛ける。
「てめぇら光栄に思え! 冥土の土産によぉ、ちょっとだけ、見せてやるぜ!」
かつて【羅天煌】には壱から拾までの部隊があり、それぞれに隊長が存在した。
彼らは総長である唯ヶ原迅に認められた存在であり、不良たちは彼らを畏れ、崇め、讃えた。
【悪童十傑】
不良たちは、いつしか彼らをそう呼ぶようになった。
彼らには全員他の追随を許さぬ、たぐい稀なる能力と才能があった。
元『羅天煌参番隊隊長』にして【悪童十傑】が一人……辻堂龍子。
彼女もまた、その一人である。
「【金属バッ刀術:一式】」
バットを握り、そう呟いた彼女は、少しだけ腰を低くした。
刹那、空気が揺れる。
彼女の腰の鞘から、無骨な金属バットが抜かれた。
スガァァァァァァァァァン!!!
金属バットが、まるで居合のように抜刀された瞬間、衝撃が走る。
そしてそれは的確に、二人を襲った。
バゴオォォォオオォン!!
抵抗のできない圧力に二人は奥の壁へと叩きつけられたのだ。
「「……ぁ」」
叩きつけられた二人は声にならない声を上げる。
な、何だ今の……。奴が金属バットを引き抜いた瞬間、吹き飛ばされた、のか……?
今のは風圧……バットのを抜いた際に生じた風圧で……、それだけで……こんな……!!
全身に走る激しい鈍痛の中、ハッシーとモッチーはあまりの非現実的な出来事に驚愕する。
そしてその中で、二人は確信した。
目の前にいる宇宙人の被り物をした奴が、名のある不良であることを。
同じ不良として、文字通り肌で実感した。
そしてそれを最後に、二人の意識は途切れた。
宇宙人(龍子)対ハッシー&モッチー。
結果は文字通り、宇宙人(龍子)の圧勝だった。
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