その陰キャ、一番くじを引きに行く
翌日、俺たちはじいちゃんの墓参りに来ていた。
「……」
目を瞑り、墓の前で手を合わせる。
俺の真似をするように、龍子たちも手を合わせていた。
「美味いメシがたくさん食べれますように」
「気持ちよく寝れる昼寝スポットを教えて」
明らかにじいちゃんを神様かSiriと勘違いしてる龍子と九十九がいるが気にしないことにしよう。
じいちゃん、久しぶりだな。元気してたか? こっちはボチボチだ。
不良は引退したはずなんだけど、相変わらずドタバタしてるよ。
じいちゃんは俺が小学6年生の時に死んだ。
俺はじいちゃんっ子だったから、じいちゃんが死んだ時はガラにも無くメチャクチャ泣いた。
『迅……お前は強ぇ。けど、もっと……強くなれ。友達を、置いてかねぇようになぁ……』
死ぬ直前、じいちゃんが俺に言ったことは今でもよく覚えてる。
けど高校生になった今でも、その意味はよく分かっていない。
……ま、空から見守っててくれ。
俺はゆっくりと目を開ける。
「うし、戻るか」
こうして墓参りは無事に終わった。
◇
「……にしても、なんか変わったか。湘南」
墓参りを終えた俺たちは、昼食のために人通りが多い商店街の方へ来た。
だが龍子の言うとおり、街には活気が無い……というより、なにかを恐れているように見える。
「そ、そうなんですか? 迅くん……じゃない【悪童神】の地元ですし、こんなものかと思ってたんですけ
「はは、分かってねぇなぁシオリ。アニキは一般人には結構慕われてたんだぜ?」
「え、そうなんですか!?」
「おうよ。一般人に手ぇ出そうとするカスは潰してたし、喧嘩の相手は強ぇ不良だけだったしよぉ」
「お兄ちゃん、一般人守ってた。今の湘南、なんか荒れてる」
そんな会話をしながら、適当なファミレスに入った俺たち。すると……。
「おいおいなに俺の服にこぼしてくれてんだぁ!?」
「そ、それは……今、足が引っ掛かってしまいまして……」
「あぁん!? おいおいまさか俺が転ばせたとでも言うんじゃねぇだろうなぁ?」
「ち、違います! 決してそんなことは……」
「ははは! おいてかコイツよく見たら結構可愛くね?」
「おぉそうだなぁ。なぁ、許してほしかったらちょっと俺たちと良いトコ行こっか?」
「お、お願いします。許してください……!」
ファミレスの女性店員が、3人の不良たちに性質の悪い絡まれ方をしていた。
「……」
さすがに見ていて気分のいいモノじゃない。
ーー少し動くか。
「んじゃあ行くかぁ! 言っとくけどお前に拒否権なんてねぇ……からぁ」
「おいどうしたお……前」
「なんだ!? 急になに……がぁ!?」
俺は一瞬で3人の不良に手刀を首筋に打ち気絶させ、元の場所に戻った。
一般人は俺のことを捕捉できていないので、不良たちが急にその場に倒れたように見える。
「え、え……?」
なにが起こったのか理解が追いついていない女性店員はその場をキョロキョロと見回していた。
「すみません。4人なんですけど、席空いてますか?」
「あ、はい! すぐに案内します! すみません、この人たち片付けといてくださーい!」
◇
「たしかに、だいぶ荒れてんな」
ソフトドリンクのコーラをストローで啜りながら、俺は呟く。
「はんっ。湘南で幅利かせようとするなんて、いい度胸してんじゃねぇか。アニキ、本丸ごとやっちまうか?」
「やめとけ。もう俺たちには関係ねぇよ。【羅天煌】は解散した。今は新しいヤツらの時代だ」
「へーい」
少しつまらなそうに龍子は唇を尖らせる。
「あ、ありました。これです!」
すると突然、詩織が俺たちにスマホの画面を見せてきた。
「さっきの人たち、背中に同じマークが入った服着てましたよね? このチームです」
「……【摩天楼】?」
「はい。最近湘南でできた新興チームで、ここ数ヶ月で勢力を伸ばしているみたいです。くっ、最近は迅くんたちとお近づきになれたことで湘南の不良情報を全然アップデートしていなかったので、まさかこんなことになっていたとは。不良オタクとして、一生の不覚です……!」
詩織は悔しそうに唇を噛む。
「ま、気にすることはねぇ。さっきも言ったとおり、俺たちには関係の無いことだ。この前のコミケでもう懲り懲りだ。残りの夏休み、平穏に過ごさせてもらうぜ」
などと言ってはみたがあまりにもフラグたったな、と俺は数時間後にこの発言を後悔した。
◇
「ふんふんふ〜ん♪」
軽やかな足取りで、俺は深夜の夜道を歩く。
「とぅっとぅっとぅ〜♪ たったったた〜♪」
軽やかな足取りはダンスへと昇華され、俺は進み続ける。
なぜこんなにもテンションが上がっているかといえば、理由はただ一つ。
あと数分で訪れる8月22日。
それはコンビニでハウンズ所属Vtuberの一番くじが開始される日なのだ。
これが狙うのはくくるちゃんの関連商品全てだが、その中でも特にほしいのはラストワン賞となっているくくるちゃんの特製フィギュアである。
そのためにはくじを枯らす勢いで引かなければならないが、当然その覚悟はできている。
くくるちゃんのためとあらば、俺の財布の紐はゆるっゆるだ。
「お、着いた着いた」
家から最寄りのコンビニに到着した俺。時間も24時ぴったりだ。
「すみませ〜ん! くくるちゃんの一番くじ引きたいで〜す!」
元気よく声を上げながら入店すると、
ドゴォォォォン!!
突如としてコンビニが爆発し、俺は吹き飛ばされた。
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