唯ヶ原家 前
「こ、ここが唯ヶ原くんの……悪童神のご実家ですか!!」
「あぁ」
キラキラと目を輝かせる坂町に、僕は答えた。
「な、なんというか……普通ですね」
「どんな家だと思ってたんだよ」
「◯牙みたいに家の外壁中に落書きでもされてるものかと」
「なワケねぇだろ」
あまりにもファンシーな想像に呆れながら、俺は鍵を使って家の扉を開ける。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
そうして、俺たちが家の中に入ると、
「じーーーーーーーん!!!」
奥からバタバタと足音が聞こえたかと思うと、目の前に一人の少女が現れた。そしてソイツは……。
「おかえりぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
俺に向かって一直線に飛び蹴りを放ってきた。
「うぉっ!? また強くなったなリン」
片手で蹴りを受け止めた俺は、その威力が確かに上がっているのを実感する。
「ゆ、唯ヶ原くん。その子はどなたですか?」
「あぁ、コイツは」
「初めましてだな知らない女! 俺の名前は凛! 唯ヶ原凛! 迅の妹だ!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
詩織の今日イチの叫び声が玄関に響き渡った。
「ゆ、唯ヶ原くんの……【悪童神】の妹!? と、とんでもないことですよソレはぁ!?」
「おぉ。なんか調子すごいなコイツ。迅、この女は誰だ?」
「坂町詩織。俺のクラスメイトだ」
「おぉそうか! よろしくな詩織!!」
「よ、よろしくお願いしましゅ……!」
緊張のあまり噛んだ坂町は恐る恐る凛と握手を交わす。
「あと俺のことは呼び捨てでいいぞ! 迅も俺も同じ唯ヶ原だからな!」
「うぇぇぇぇ!? そ、それはさすがに恐縮といいますかぁ……」
「気にするな! 俺が許す!」
「うぅ……」
次いで坂町は俺の方を見る。
「お前の好きなようにすればいいんじゃないか?」
「っ!? え、えぇと……じゃ、じゃあ凛ちゃんと、じ、迅くん……?」
「はーはっはっはっ! ちゃん付けとは面白いなぁ!」
「うわぁ! ごめんなさぁい! 失礼ですよね!?」
「よいよい! 大変愉快だ!!」
「俺もそれで大丈夫だ」
「そ、そうですか……?」
坂町は安堵したように胸を撫で下ろすと、なぜか頬を赤らめた。
「久しぶりだなぁリン!」
「元気してたか?」
「おぉ龍子に九十九、久しぶりだな! ふっふっふ! どうだったさっきの俺の蹴りは? もうお前たちよりも強くなってしまったやもしれぬぞ!?」
「「それはねぇ(ない)」」
「なにをぉ!? なら勝負だ!」
「望むところだぜぇ! まだまだ壁は高けぇことを教えてやんよ!」
「分からせるのも、強者の務め」
バタバタと目から火花を散らす三人。
相も変わらず血の気の多いヤツらだ。
そんな三人を無視して家に上がろうとした時、
「お前らぁ……?」
『っ!?』
俺を含めた全員に悪寒が走る。
「帰ってきて早々、なにしようとしてんだぁ?」
「レ、レッカ!? こ、これは違くて、そうだリンのヤツが挑発してきたんだ!」
「その通り!!」
「おぉい!? 卑怯だぞ逃げるな二人ぃ!? ち、違うのだママ上!! 俺はただ力比べをぉ……」
「問答無用だぁぁぁぁ!!」
『ぎゃあああああああ!!??』
リビングから現れた俺の母親、唯ヶ原烈華によって凛を含めた三人はいとも容易く粛清された。
◇
「美味しいか?」
『はい、美味しいれふ』
母さんの圧にあっさりと萎縮してしまった三人は、小動物のように出されたカレーを食べていた。
「詩織ちゃんも美味しい?」
「は、はい! とっても美味しいです! こんなカレー今まで食べたことありません!」
「はは、大袈裟ねぇ。まぁでも悪い気はしないわ」
母さんはそう言うと、ニカッと笑った。
「そうだ迅、こっちにはいつまでいるの?」
「2〜3日はくらいはいようと思ってる。じーちゃんの墓参りは明日行くよ」
「ふ〜ん。じゃあ詩織ちゃんも泊まってくわよね?」
「うえぇ!? そ、そんなご迷惑をおかけするワケには……」
「いーのよ。どうせ部屋余ってるし、気にしないで。なんなら迅の部屋で一緒に寝てもいいわよ?」
「おい!? いきなりなに言い出すんだババア!?」
「えぇ? だって時間の問題でしょ? こーいうのは早いほどいーのよ」
「……」
そこまで聞いて、俺はイヤな予感がした。
「おい母さん。俺と坂町、どういう関係だと思ってる?」
「え? 付き合ってるんてしょ?」
「付き合ってねぇよ!?」
「つ、つつつつ付き合ってましぇん!?」
母さんの言葉を、俺と坂町は即座に否定した。
「えぇぇ!? だって息子がわざわざ同じ学校の女の子連れてきのよ!? どう考えてもそーいう関係だと思うじゃない!!」
「たまたまこっちで会ったから連れてきただけだ!」
「そ、そうです!」
「え〜。でもわざわざ連れてきたってことは、なにか思う所あるんじゃないの〜迅」
「別にンなモンねぇよ。ただ坂町は不良が好きで湘南にも聖地巡礼で来てんだ。だから……」
「……ふ〜ん」
「な、なんだよ」
「別に〜。まぁ分かった分かった。今回はそーいうことにしといやる」
「ホントに分かってんのかよ……?」
俺は大きくため息を吐く。
「あーそうだ詩織ちゃん」
「は、はい!」
「迅、こんなだけど結構モテるしライバル多いから、ホンキなら頑張りな」
「え、えぇと……」
母さんに促されるように、坂町が横に目をやる。
そこには……。
「「……」」
激しく闘志を燃やしたような目で坂町を見る龍子と九十九の姿があった。
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