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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
異文化の違い
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91 提供だ!モフモフカフェ(飲食案)

「この厨房で作るもんは飲み物、お客さん用の食事、そして仕事中の獣人従業員用のおやつや」

「獣人従業員用?仕事中?」

「うん。とりあえず全員下の様子見て来てくれる?」


接客担当と厨房担当に一階を見に行って貰った。

動物に対してデレデレしながら撫で続けているお客さん役の様子を見て戻ってきた従業員にミッツは静かに告げる。


「あの状態で、『有料ではあるが動物におやつをあげられます』『もぐもぐする様子はとても可愛いですよ』『でも動物もおやつでお腹いっぱいになっちゃうとダメなので先着順なんですよね』って言われたら、どうや?」

「あげられるならあげますね、間違いなく、ええ」

「僕たちも後であれ体験して良いですか?」

「私もライオン撫でたい」

「僕も子熊抱っこしたい」

「私も羊に顔埋めていいですか?!夢なんです!」

「もちろん」


各々のやる気が上がったところで、厨房の大きなテーブルに学生鞄(ストレージバッグ)から試食用の食べ物と飲み物を出していく。

ひとまずライラックの厨房を借りて作ってみたものは以下の通りだ。


・獣人従業員用クッキー

・お客さん用クッキー(仮)

・渡り人のチョコレート(仮)

・季節のソルベ

・オレンジジュース

・リンゴジュース

・レモネードソーダ


「色々とお聞きしたいのですが?!」

「とりあえずチョコレートって何?」

「とりあえずソルベって何?」

「レモネードソーダとは何ですか?」


元商業ギルドのABC経理トリオと厨房担当が主にざわついている。接客担当組も聞いたことのないメニューにそわそわしている。


「えーとまずチョコ。チョコレートの略称な。これは俺がユラ大陸に来た時に持っとったお菓子袋がなんか魔道具になって、無限に出て来るようになった故郷のお菓子。ミチェリアの住民なら『パレード』の時に食べとるから分かるはずや」

「あ、僕それ知ってル!ここの冒険者ギルドで手続きあった時にギルドマスターから貰ッタ!すごい甘くて美味しい!」

「アヌーラさんは食べたんやな、それそれ。まあとりあえず全員に配るわ」


チョコを配り、ついでにクッキーも配る。

クッキーはお菓子袋の地球産ではなく、こちらでミッツが焼いてきたクッキーである。チョコはさすがに再現出来なかったがクッキーは普通に再現することが出来た。

なんでもかんでも渡り人の不思議魔道具に頼っていては地域に還元が出来ないので、なるべくこの土地のものを使おうとしているのだ。地産地消というやつである。ただしチョコは利用する。


「次、ソルベ…の前にレモネードソーダ。これはミチェリアの近くに見つけた炭酸泉で汲んだ、こう、しゅわしゅわする水。故郷ではソーダっていうんやけど、冷やしたソーダをレモンシロップと割ったもんや」

「しゅわしゅわ、ですか」

「レモンを使うのですね。レモンは体力回復の生薬…もしかしてお薬ですか?」

「へ?」


料理部門にいたアベイルは食料に少し詳しく知っていた。ここで初めて、大陸ではレモンは生薬として主流と知った。

この大陸のレモンは何故か年中どんな環境でも育つので、寒村だろうが亜熱帯地域だろうが寂れた廃村だろうが、色んな所で見かけることが出来る。

レモンさえあれば体力も多少回復出来るので、犯罪者が送られる鉱山にももちろん生えている。厳しい土地であればあるほど酸っぱいレモンが出来るので、体力の尽きた犯罪者に無理矢理食べさせるのに最適なのだ。


「そ、そうなん?!あっそういや、レモネードソーダで体力回復!とか笑いながら歌っとる冒険者が酒場におったけど、あれ比喩ちゃうの!?マジなん!?スッキリ爽快みたいな意味か思うてた!」

「酒場にこれあるンダ…ならそっちで飲むんじゃ?」

「一般人が冒険者ギルドの酒場でレモネードソーダだけ飲みたいって思うと思う?」

「ごめんなさい思わないデス」

「そういうこと。もちろん、ギルド酒場のとは違って、こっちのは季節のフルーツを使ったソーダを提供していきたいんや」


ミッツは学生鞄からレモンシロップとすももシロップを取り出す。


「最初はレモネードソーダで反応見て、次に季節のソーダってことですももソーダを提供する。要はレモネードソーダは様子見や」

「なるほど。初めての試みですもんね」

「冒険者には受け入れられたけどまだ分からないもんね」

「というか、『パレード』の時レモン大量に集め過ぎて調子乗ってレモンシロップいっぱい作ってしもたから…」

「「あー」」

「でもこれおいしいわね!このパチパチするの、癖になりそう」


初めての感覚に皆驚きながらも概ね受け入れて飲み干している。

おいしく飲んでいるものがまさか作り過ぎた故の在庫処分とは思ってなかったが、おいしければ問題はない。全員聞かなかったことにした。


「最後、ソルベ。こっち来てふと思ったんやけど、アイスとかシャーベットとか無いよなぁって」

「あいす」

「しゃーべっと」

「知らんってことはよく分かった。冷たいおやつってとこやな」


「話は変わるんやけど、パスティ兄妹は応募条件覚えとる?」

「もちろんです」

「調理職経験が2年以上の者」

「大量の料理を作り慣れている者」

「「そして氷魔法を使えて魔力も比較的多い者」」

「そう、このソルベには氷魔法がとても重要やねん」


ユラ大陸では、暑い夏をどう過ごすのか。

基本的には氷魔法で少し空気を冷やしたり、風を起こしたりしてどうにか過ごすらしい。

冷蔵庫の代わりになるようなものはなく、今ナルキス村で絶賛試作品がわんさか出来上がっている。

それよりも先に冷房魔道具『すずか』がほぼ出来上がって、しばらく後に商業ギルドへナルキス村のマロノが商品登録にやってくることをミッツはまだ知らなかった。

ただ、『すずか』は特別に先行してカフェに届く手筈になっている。


「これからの時期は暑いから、冷たくて甘いもんは絶対に売れる。いける。というか商業ギルドからレシピ売ってくれ言われとる」

「あれ?でも私ソルベのレシピなんて見てないですけど…」

「そらそうや。だってまだ売ってないもん」

「ええっ!じゃあまだ独占ってことですか!」


「当たり前や!こんな簡単で夏に最適なもん、すぐに売ってどないすんねん!まずここで反応見て、次にジェラート!そんでアイスクリーム!その三点を纏めてギルドにレシピ売却!以上や!」

「また分からないもの出て来た!」

「つーわけで、元商業ギルド組、レシピ持ち出したらあかんで?」

「それは当たり前です!」

「言われずとも守り通しますので」

「俺でも分かってます!」

「というわけで、作り方はこんな感じや」


厨房に果物、地球の砂糖、レモンを取り出す。今回はすももがまだ余っていたのですもものソルベを作る。確認したがすももは生薬扱いではなかった。


すももを半分に切り、水と砂糖を入れた鍋に入れる。中火という概念はないため、沸騰し過ぎない程度の温度を保ち5分かき混ぜながら待つ。水に果物の色がつけば火を消す。


鍋にレモンを少し絞って入れ、鍋の中身をひたすら撹拌する。ミキサーなどない。今度またナルキス村の職人に作って貰おうかと考えている。それはさておき水魔法の水流小渦(アクアエディ)をかけて、すももが潰れて液状になるまでなめらかにしていく。


液状になったものを本来なら冷凍庫で1時間凍らせるが、ないものは仕方ないので氷魔法でじわじわと凍らせる。今回は作り方を見て貰うだけなのでざくざく凍らせた。

ソルベは作りおきをして、厨房奥に作った氷室もどき部屋に置いておく予定だ。毎日作るなら1日置いたままでも問題はない。冷凍庫が完成次第、氷室は冷凍庫室となる。


一度大きくかき混ぜて空気を含ませ、もう一度ざくざく凍らせる。本来は1時間凍らせる。


ガラスの皿に盛り付けて完成。従業員から拍手が起きた。


「こんな感じのものを厨房で作りおき出来たら毎朝作っといて、その都度作らなあかんもんは注文が来たら作るってことで。作りおきは…せやな、ソルベとクッキーとチョコかな」

「「チョコはもう完成したものなのでは?」」

「ああ、ちょっと特別感出したいから形を変えるんや。今はそのための道具をとある職人に発注かけとるから、それが届いたらまた言うわ」

「「分かりました」」


「接客担当の3人と元商業ギルドの3人は、注文受けたら厨房行って受け取ってお客さんに届けに…ってこれは普通のカフェと一緒やね」

「そうですね、ウェイター経験もありますので大丈夫です」

「あたしも酒場で接客してたから」

「僕もダイジョブ」

「ほんなら、とりあえず一階で試食会しよ」


9人は二階へとぞろぞろ降りて行くと妙に静かであった。

カフェスペースを見てみると、お客さん役が皆で羊の群れで微睡んでおり、獣人たちも全員で先祖化して寝ているのを見て、納得の表情を浮かべた。

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