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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
異文化の違い
88/172

88 面接だ!モフモフカフェ(追加採用)

カフェの内装見学の翌日の昼過ぎ、明光星が2つになってから商業ギルドの2階中会議室で『モフモフカフェ(仮称)経理担当面接』が行われていた。

ギルドマスターであるルバラと面接官としてタレゾ、そして企画者ミッツは、集まった希望者に面して座っていた。モモチは机の上で寛いでいる。


「あの、タレゾさん」

「はい?どうされました?」

「多ない?」

「これでも減らしましたよ?」


前から『新設店舗で経理を探している』とギルド内掲示板に貼り出していたらしいが、あまり希望者が出ずにいた。

そこで昨日詳しく、『新設される冒険者ギルド横モフモフカフェ (仮称)での経理を探している』と書き直すと希望者が70人を越えたらしい。

とりあえず会議室に入れるには多過ぎるのでルバラとタレゾでまず計算の抜き打ちテストを昨日の夕方にさせ、合格した32名を会議室に入れたようだ。


「ちなみにテストはこんな感じです」

「えー何々、『ピーターさんはカフェで一杯400ユーラの紅茶を2杯と300ユーラのパンを1つ注文し、更に持ち帰りとして同じパンを3つ購入しました。ピーターさんは会計にいくら払ったでしょうか?』……2000ユーラ?」

「おお、正解です。早い解答ですな」

「え、これテスト?俺が高校生やからレベル下げてるとかではなく?」

「コーコーセイ…?ミッツ様は学校が義務教育で計算なども習われたかもしれませんが、ここでは地域によっては字の読み書きしか(・・)出来ない者も多いんです。田舎過ぎると字の読み書きも出来ない者もいますが。つまり、計算をささっと出来る者は割と少ないのです」

「なるほどなぁ」


テストの結果が良い順に並んで貰い、動物好きかの質問に移行し、経営の経験などをゆるく聞いていくと3人に絞られた。

緊張気味のおとなしそうな若い女性、初老の穏やかな紳士、少しやんちゃそうな中性の顔立ちの少年が並んでいる。


「えっと、じゃあギルドの所属年数と名前と『契約者』かどうかを参考程度、あと差し支えなかったら年齢とかも。あとはアピールとかお願いしますわ」


「商業ギルド勤務5年、『非契約者』のアベイル・ネーネです。22歳です。レストランを経営していた両親が亡くなり閉店したので商業ギルドで飲食部門のレシピ編集として働いています。夢は洗い立てのふわふわの羊に囲まれて寝ることです」

「ほうほう、とりあえず報酬の1つに羊添い寝入れてもええかもなぁ」


「商業ギルド勤務17年、ベクター・マルフェレド、『獣使い』の57歳でございます。元々は没落した貴族邸で執事をしておりましたが、没落後はこちらの総務部門で働いております。まもなく定年ですのでそろそろ将来を考えておりました。貴族邸で飼われていた密林フクロウに非常に懐かれておりましたので動物の中でも鳥類が特に得意でございます」

「執事!…てことは短期間執事カフェとかも出来てまうんか…!?」


「カルカーニ・ジャネットです!勤務2年の『天遣い』で18歳です!俺は動物大好きなんですが家族が典型的な『天遣い』な上に動物アレルギーだったんで家出してきました!実家に戻る気は更々ないです!今は雑務を中心に総務部門にいます!無駄に実家で教育は受けたのでマナーと計算と行動力は自信ありです!」

「ほんまや行動力めっちゃありそう」


「求めている経理はいましたか?」

「うーん、せやなぁ。ここにいる3人はギルドを辞めてもええって人らなん?」

「そうです。派遣の形ならともかく、副業は基本的にここでは認められませんから」

「きゃむきゃむ」

「モモチさんくすぐったいですー!」

「わふん」


とりあえずモモチと遊んで貰っている間に決めようと悩んでいる。

モモチは基本的に人見知りをしないタイプで、今も3人に遊ばれて素直にきゃんきゃん喜んでいた。アベイルに抱っこされてご機嫌であった。


「ルバラさん、この3人で誰が抜けても困らん?」

「強いて言えばベクターさんは大ベテランですので影響は少しありそうですが、引き継ぎは既に終えています。抜けたぐらいではこの支部は揺らぎませんよ」

「じゃあこの3人全員で」

「えっ?全員?」


ルバラとタレゾはびっくりしてミッツを見る。モモチと遊んでいる3人もまさか1人ではないことに驚いてか、ミッツを見た。


「経理に3人もいらないのでは?」

「んー?帳簿も二重確認とかしたら確実やん。あとアベイルさん」

「は、はい?」

「レストランやってたんやったら料理担当やってた?それとも接客?」

「どちらもやっていましたが…」

「ほなそういった方面でも欲しい人材やわ」

「ああ、なるほど。今でもギルド内で実際にレシピ通りに作ったりしているので、私は大丈夫です」


「ベクターさん、今でも執事みたいなことやってって言うたら出来そう?」

「現職には劣るでしょうが、ある程度のことは出来るかと」

「主人はこの方しか認めませぬ!みたいな心は?」

「いえ、今は特には…」

「ふむふむ、おおきに。あと今度モノクルかけて欲しい」


「カルカーニさんは接客とかしたことある?」

「ありますよ!ここに来るまで色んな町でお金稼いでましたから!掃除も接客もやってきたので特に嫌な職はないです!あ、犯罪以外で!」

「ノリはええ方?」

「ノリ?うーん、ノリで家出したようなものですので!」

「なるほどなるほど、おおきに」


頷くとミッツの意思は固まった。


「経理って言うてたけど他の業務もちょっとお願いするかもやねんけど、それでも許してくれる?」

「私は構いません」

「私もです」

「俺も!」

「よっしゃ、ならやっぱりこの3人に来て貰いたいですわ」

「ううむ、ミッツさんの考えはまだ分かりませんが…良いでしょう。ではアベイル、ベクターさん、カルカーニ。カフェでくれぐれも粗相の無きように」

「「「はい!」」」


ルバラが机の下から書類と水晶を取り出すと、商業ギルドとの雇用契約終了の締結を結ぼうとする。

地球では何やら難しい言葉がつらつらと並んだ書類にサインをしたりしなければならないが、ここは魔法のある世界。大抵の契約や約束は全部魔法で行われる。


「まだ3日は獣人従業員も来られへんけど、今それやってええん?引き継ぎとか荷物の片付けとかあるやん?」

「今からするのは、彼らの雇用契約期間を今日から2日後までとする、に変更することですので」

「ああ、なるほど。そんな2日後辞めますよーでええんや?」

「?大丈夫ですが…ミッツ様の国では違いましたか?」


ルバラが不思議そうに聞くと、ミッツはちょっとだけ遠い目をした。


「えーと俺も社会人ちゃうから詳しくないんやけど、確か辞めるか辞めさせる1ヶ月前にちゃんと言わんと法律違反?になるって姉ちゃんが言ってた気がするわ」

「ほう、そうなのですか」

「姉ちゃんはパワハラセクハラモラハラ残業代未払い有給ほぼなしボーナスなし1日13時間勤務週休1.5日、の環境で働いとった上に経営難だから1週間後に辞めてって言われたからめっちゃブチギレとったなぁ…」

「半分ほど単語が分かりませんでしたが相当苦労されたようですね、姉君は…」

「まあでも足切りされた最終出勤日のその足で労基行ったし……って姉ちゃんの話は関係ないわ。ごめんごめん気にせんといてね」


気を取り直したルバラが水晶での契約締結を行い、3人が水晶に触れると水晶の色が変わり、やがて元の透明な水晶に戻った。


「はい、これで3日後にはギルド職員ではなくなっておりますので。3日後の朝、こちらにまたおいで下さい。そこから先はカフェの方でどうぞよろしくお願いします。でも何か困ったことがありましたらいつでもご相談を」

「了解です。ほな3人さん、よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします」」」

「いや良かったわー。覚えやすそう、ABC経理トリオっと…」

「ミッツ様?」


ミッツはメモに名前を記載するとギルドを後にした。

何気に横文字の名前を覚えるのは大変なミッツである。

基本的にフィクションのこの小説ですが、姉ちゃんの体験だけノンフィクションです。残念なことに。

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