86 出来たよ!モフモフカフェ(建築済)
しばらく例のあのカフェ回です
ミチェリア半壊から半月、ある程度の復旧工事も終わり避難住民が徐々に帰ってきていた。中には避難先が気に入った者、家が全壊してしまいもう引っ越すことを決意した者もいるが、粗方の住民は戻ることになっている。
真っ先に商業ギルドが帰って物資の補給を行い、応援の騎士団と兵団、そして冒険者たちはだんだんと帰って行った。
スライムに襲われた分隊長カナンは『パレード』に対して散々文句を言っていたが、またうっかり後ろの部下の剣の柄が滑って意識を落としてから町を後にした。この騎士の件もしっかり報告書に記載してある。
今回、今までで一番被害が少なかったことから国からの報酬が通常よりも増えて冒険者たちに手渡された。
最大の功績者の一人としてミッツは、冒険者ギルドにカフェを併設することを希望し、国王からも許可を得ていた。元々ミチェリアの職員や住民、狼吼里フェリル領主ハウダの推薦もある計画であったのであっさりと叶えられた。
ファジュラから強制的に転移で飛んできたギルバートは『ミチェリアの被害によるかどうか不明な転移陣の動作不良』という架空の不慮の事故ですぐに帰れなくなるという、人為的な休暇をシャグラス王国で満喫していた。カフェの完成を見守り、利用するまで帰る気はない。
カフェの内容はもちろん、あれである。
「おー!こんな感じこんな感じ!」
「変わった作りなんだな」
「なんですか、あの棚」
「ちょっと可愛い感じなんですね!営業が楽しみです!」
「ナビリスちゃんの思うカフェとちゃうかもしれんけどごめんなぁ。シャドウキャットやっけ?黒猫の獣人さんなら候補にいはるねんけど」
「毛並みはふわふわですか!?さらつやですか!?」
「ミヌエットからベンガルまで」
「全然!大丈夫!です!やったー!」
ミッツとサイと商業ギルドマスターのルバラ、冒険者ギルドを代表してナビリスがほぼ完成した店舗内を見て回っている。
ギルバートはミッツに用事を頼まれているため、不在である。
このカフェには商業ギルドミチェリア支部も儲けの気配を察して、計画の段階で出資の手を組んでそのまま内装や契約内容はミッツに丸投げしていたので、その確認を今日初めて行うのだ。
王都にある本部からは「そちらの支部で口を出して手助け、もとい懐柔する方が良いのではないか」と再三復興中も言われたが、「『パレード』の功績者である渡り人の邪魔をするおつもりか?渡り人の世界の商売を垣間見るチャンスを潰すおつもりか?」とルバラが直々に返信すると、それ以降完成までに口出ししてくることはなくなった。
ナビリスが喜んでいるように、男性客も女性客も気軽に入れるシンプル且つ少しだけ可愛らしいカフェが出来ていた。贅沢に二階建てである。
逐一注文をつけるミッツのおかげで納得がいくカフェに仕上がっている。店舗全体は国王からの報酬と商業ギルドの出資で出来ており、内装の細々した所はミッツとギルバートのポケットマネーから出来ている。
ギルドの建物に横付けされるように併設されたカフェは、ギルド内からも外からも入れるように入り口を2つ作っていた。どちらからも気軽に入れる。
カフェは一階がガラス張りの中が見える仕様になっていて、どんな動物がいるか、どんな混み具合かを見ることが出来る。今は内装を隠すために幕が張られているが、開店すると中の様子が分かるようになっているらしい。
壁紙は薄い黄色を主として所々に孤児院の子供たちに描いて貰った花や動物の絵があり、華やかになっている。
壁にはルバラの指摘したようにいくつか簡単な棚がランダムにあり、中には丸い大きめの穴が空いているものもある。
客が座って飲食出来るテーブル席が10席、モフモフすることに集中するための寝そべり・クッションスペースが広めにある。
水を必要とする動物のために、店の端には小さな池も完備されている。狼吼里フェリルにカピバラ獣人がいることは既にリサーチ済みなのだ。
「まず大前提として、動物に危害を加えへん、動物は獣人の先祖化した姿であり従業員である、その辺りをきちんと理解した上で接してくれる。この三点をお客さんは守ってくれなあかん。ついでに『悪魔憑き』『天遣い』は『獣使い』と獣を見下すことが多いから俺の許しがないと絶対入れたれへん」
「当たり前のことですが、悲しいことにまだ差別は少し残っていますからな。最後のは私怨では…いや、良いでしょう」
「そもそもお客さんやから好き勝手してええわけやあれへん。もし約束破るようなことがあったら閉店もやむを得へん。私怨やけど俺に認められたらええんやで?」
「それでいいと思うぞ」
「で、基本はワンドリンク制…えっと必ず飲み物1杯は頼んで貰いたいんや。クッキーとかを追加注文するんは自由。飲み物1杯で最低30分はカフェにおれる交代制にしたい」
「交代制ですか。時間を区切るのであれば混雑はある程度解消されますな」
「初日からしばらくは整理券配ってもええかもしれん。整理券に、時間帯と番号書いといて、その時間だけ楽しめるみたいな。あっ、カフェが落ち着いてきたら延長代貰って滞在して貰うのも考えとるで!」
「んで、更に有料で数種類のおやつを手から動物にあげられるサービスを作る。動物はみーんな獣人が先祖化しとるから安心!意識も多少持ちつつ甘えてくれてとても安全!日によってはおっきい虎にも触れるしおやつあげられる!虎系獣人とライオン系獣人の雇用は決まっとる!寮もある!」
「なるほど…!」
「うわ…あげたい…」
「ちなみに寮はどちらへ?」
「俺とサイとギルさんの泊まってるライラックって宿の隣!あそこの店、半壊してもたから閉めるんやて。で、新しい建物作って貰ったんや」
「どんな動物がおるのかはその日の獣人のシフト次第!でも常に3種類以上の動物が10匹はおる!これで今日はどんな子がおるんやろ!みたいなワクワク感も増し増し!来店回数もアップ!」
「おお!!」「ちょっと!毎日来なきゃならないじゃないですか!」
「更にどうしても人目が気になる男の人とか冒険者さんに!ここの二階!二階は完全個室を複数ご用意したプライベートフロア!個室は料金ちょっとお高めで完全予約制やけど、ドリンク飲み放題!最低1時間は指定した動物と個室でふれあい放題!いかついおっさんが猫ちゃんにまみれるも良し!普段ツンツンしとるクール美人も羊に顔埋め放題!」
「おおお!」
「うわわわ…!」
「個室最初の利用者はギルさんってもう予約入っとるから悪しからず。小さい犬と猫とウサギのご指名付きや」
「くっ!私まずは普通にカフェ行きたいんで大丈夫です!でもその内必ず予約しますよ…!猫ちゃんまみれ…!」
ナビリスが猫まみれを想像してうっとりしていると、ふと気付いた。
「で、その獣人の皆さんはいつからこちらに?」
「それはな、今ギルさんに迎えに行って貰っとるねん」
「あ、それでギルバートさんはいらっしゃらないんですね」
「護衛依頼って形にしよかな思ったんやけど、暇やし自分の利にもなるって行ってくれたんや。大人数連れて来るから3日ぐらいで帰って来るって」
「ところでオーナーはどなたになるのでしょう?ミッツさんですかな?」
「いや?俺ちゃうで。ギルド併設やし、クロルドさんがとりあえずやってくれるんよ」
「おやギルドマスターが?」
「その代わり経理とかは誰か探せって言われたけど」
「なるほど、それでこの前商業ギルドに来られた時に計算が強い者を、と。明日までに希望者を集めておきますので、明日昼過ぎに商業ギルドへお越し下さい」
その後も細々とカフェの内容を紹介し、ひとまずはお開きとなった。
あとは従業員の到着を待ち、説明と研修をするだけである。