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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
夜が来たりて
85/172

85 戦った後はきちんと後片付けしましょう

突然だが、例えば子供が自宅に友達を招いてたくさん遊び、おもちゃをたくさん引っ張り出し、たくさんお話しもし、夕方になって友達が帰った後、一番最初にやるべきことは何だろうか。


そのまま夕食の手伝いだろうか。それともお父さんの帰りを待っていることだろうか。学校に行っている子供の場合は宿題だろうか。

いや違う。


まず、友達の分まで、部屋の惨状を自分で片付けることである。





「はいお疲れさんーどうぞー」

「何これ」

「スポドリ」

「すぽどり」


『ナイトパレード』の魔物討伐を終えた翌朝、全員で仮眠を取った後に町の中を一斉に後片付け、及び魔物の死体の後始末が行われていた。そんな中、ミッツは無事だった商業ギルドやライラックで台所を片っ端から借り、ある物を作っては配り歩いていた。

コップに入った少しだけ白く濁ったように見える液体を騎士たちは疑いの目で見ている。

尚、今日はもう既に冒険者と兵団にも同じ目をされている。クロルドとサイと一部の者には鑑定までされてしまった。


「えーと、水分補給飲料」

「それ、水じゃダメなのか?」

「なんか効率よく水分取れるねんて。詳しくは知らんけど」

「ふーん、まあ渡り人が言うのなら」


ちなみに渡り人鑑定(スマホカメラ)にはこう出た。


◆異世界水分栄養補給飲料◆

通称スポドリ。水、砂糖、塩、レモンを混ぜて作られた飲料水。効率良く水分を吸収し、また体に負担をかけずにすっきり飲める。体調不良による熱や夏の脱水症状にも効果的。おいしい。


「まあ害はないで」

「そうか…まあ飲むわ、ありがとう」

「お、なんだこれ。あっさりしてるな!あとちょっと甘い!」

「なんだろう、体が軽くなった気がする!」

「そら良かったわ!体が水分求めてたんやと思うで。休憩入れて程々に頑張ってなー」

「おー。ありがとうな!」


この時、ミッツはユラ大陸のレモンが回復薬や解毒薬の調合にも使われていることを知らなかった。

レモンも市場で買ったもの以外に誰か持っていないか聞いて回ったところ、「レモンを使うということは体に良いものをお作りになられるのですね!」「楽しみにしています!」と騎士や兵に言われ、物資にあったレモン数個を貰った。レモンを丸かじりするだけでも何故か体力と魔力を回復出来るらしい。ただしものすごく酸っぱいだけ。


実は冒険者ギルドで作られるようになっているレモネードソーダも、冒険者にとっては『体力回復する何かシュワシュワしたやつ』と思われている。


後にスポドリは労働者向けの微回復薬として薬師ギルドが販売することになった。


前線防壁にやって来たミッツはシェラに声をかけた。

前線防壁前はミチェリアよりも死体の処理も多く、サイとギルバートが森に放置したドラゴンもまだ未回収であった。

次々と無法帯に冒険者やギルド職員が入って来るが、皆安心したような顔で気軽にピクニックに行くかのような足取りである。


不思議なことに、『パレード』が起きた辺境町付近の無法帯は3日ほど魔物が現れなくなるという現象が古くから確認されている。

そのため、非戦闘職員の解体担当でものんびりとドラゴンの元へ歩いて行けるのだ。


「戻りましたー」

「あ、ミッツくん。もう配り終わったの?」

「おかげさんで!スライムの魔石回収手伝いますわ」

「ありがとう。なかなか数が多いし他の魔物の死体回収が優先度高いから」

「俺で良かったら拾いますわ」

「きゃわん!」

「モモチもやる気なんで」

「じゃあ任せようかな。これがスライムの魔石ね。別にスライムだけじゃなく、落ちている魔石なら全部拾ってくれて大丈夫だよ」


スライムの魔石は少し小さめの物であった。ミッツはふと思い至り、モモチに匂いを嗅がせてみる。

モモチがふんふんと魔石を嗅いだ後に地面をくんくん嗅ぐと、茂みに入ってぱくぱくと魔石を咥え、せっせとミッツの持っている袋へとぽいぽい入れていく。

ミッツも負けずに拾っていく。途中でラノベ主人公やアニメ主人公のやっていることをふと思い出して、回収した魔石を見てから魔力を辺りに広げるイメージをしてみた。

意外と出来るもので、狭い範囲だが魔石と同じ反応を見せる場所がなんとなく分かった。大量に密集しているのは手元の袋なので間違いはないだろう。


モモチがいる茂みとは別方向へ行き、魔石が落ちているのを確認すると満足そうに回収した。

これは冒険者の半数が自力で獲得するようになる索敵魔法で、以前ミッツが五目鹿を見つけた時にスマホで周辺を調べたあの方法の正式版である。

何気なく冒険者の階段をまた一歩登ったミッツは、ひたすらにモモチと魔石を拾っていくのだった。




一方、ゴッド級であるサイとギルバート、そして冒険者ギルドマスターのクロルド、騎士団隊長のダグラス、兵長ムムリはミチェリアの市場に難しい顔で佇んでいた。

正確にはアンデッドドラゴンの前で佇んでいる。


今まで、『パレード』ではアンデッドドラゴンが出現することはなかった。それに普通のドラゴンが、いくら魔物化していてもまるで囮になるかのように足止めとして最後まで抵抗することはない。例え肉体が腐ってもプライド高き生き物であるはずなのだ。


「では、無法帯で向かってきたドラゴンは2頭どちらも倒れながら必死で攻撃してきたんだな?」

「ああ。俺はともかくとして、悪魔と融合しているギルバートの魔力を見たら普通のドラゴンぐらいなら怖じ気づくだろ」

「自慢じゃねぇがそうだな。魔物化していて『パレード』で狂暴になっていても、オレに少しはビビるだろうよ」

「変なドラゴンだったとかそういうのはないのかな?」

「否定は出来ないが、そもそもアンデッドドラゴンが出て来ることがやばかったなとしか今のところ感想がない」

「そうだな。ミッツ殿の予知とサイ殿の滞在がなければ、ミチェリアは全滅、下手すれば……いいや下手どころではないな。確実に町5つは地図から消えていた」

「残念ながら兵長として俺もそう思う」

「ゴッド級だがそう思う」

「オレもだ、こんな状況じゃなけりゃアンデッドドラゴンを殴りたかったんだがな」

「それにしても…」


クロルドが町を見渡すと、破壊されたり壁が崩れているとはいえ普通の(・・・)ミチェリアを見てしみじみと感じることがあった。


「俺も冒険者として現役だった時、パーティに冒険者兼神官がいたから、『パレード』直後の町に行ったことがある。こんなに穏やかな『パレード』直後は初めて見た」

「ああ、俺もだ」

「心なしか空気が澄んでるようにすら感じるよねー」

「リッチもゴーストもいないとはな、流石渡り人の浄化魔法……浄化…?」

「オレも分からん、そもそも本人も浄化魔法になると思ってなかったみたいだし」

「俺なんてミッツと一緒に行動しているが初めて聞いたぞ」


「やはり渡り人というのはすごい存在なのだな」

「おそらく本人は普通に行動してるんでしょうがね」

「チキュウから来たのが一番多いんでしたっけ?英雄ユーヤに庭園の改革者クラウス氏とか」

「10人は確か記録されているはずだ」

「あとはピオライアーとワクセイべべロスからだったか」

「世界にも色々あるんですなぁ」

「ワクセイべべロスの御仁はまだご存命のはずだ」

「平均寿命が500歳でしたっけ、いやーエルフみたいですよねー」

「なんにせよ、この世界の尺度では測れないということだな」


5人はこの疑問点もまとめて、ミチェリアの『ナイトパレード』報告書に余すことなく書き記し、王都へと転送した。


こうして長いようで短かった『パレード』は死者20人未満怪我人100人以下という過去最高の功績を残し、終焉を向かえた。

『パレード』はこれでおわりです。

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