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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
夜が来たりて
84/172

84 祈りの歌と白き浄化

タイトル詐欺ではない。たぶん。

ミッツの両脇に手を差し込んで飛んだギルバートはひとまずアンデッドドラゴンの近くまで来た。

アンデッドドラゴンは未だ市場でもがいて、少しでも針をどうにかしようとブレスを吐いている。

ミッツはこんな時でも写真撮影(鑑定)を忘れなかった。


「こわっ!あのブレスに触れると腐るんやて!」

「こわっ。そもそもアンデッドドラゴンなんて、ファジュラにある上級ダンジョンの最奥くらいしかお目にかからねぇぞ」

「わぁ。でもあの針腐らへんなー…あっ!贔屓にしとる肉屋のテントがぁ!」

「どのみち全復興するから大丈夫だろ。それよりこれからどうするんだ!何か策があるのか!?オレは浄化魔法なんて使えねーぞ!」

「たぶん!さっき色々あってな!とりあえずやれるだけやってみるんや!」


ミッツは学生鞄から音の魔導書とスライム対策の壺の予備を取り出し、魔導書の目当てのページを捲っていく。





ところで、ここに来るまでにミッツは冒険者パーティに浄化魔法についてを少し聞いていた。


「そういや聞きたいんやけど、浄化魔法て誰でも使えるんちゃうの?」

「え?そうねぇ、私はプチリッチなら数体浄化出来るわよ」

「プチリッチ?」

「えーと、ああちょうどいた、いや生まれたわよ!プチリッチ!」


路上で死んでいたゴブリンの上に、白くもやもやしたものが集まり、うぞうぞと蠢くと形作られていく。


「幽霊?」

「ユーレイ?ああゴーストのこと?ゴーストは人の魂が怨念や未練で魔物化したもののことよ。リッチはその魔物版ね」

「へー」

「とりあえず倒しちゃうわね!小さな鎮魂(リトルレクイエム)!」


プチリッチは2体がさぁっと消えていった。3体残っているが、このまま放っておいたら浄化されるであろう。


「おー、これが浄化魔法」

「『パレード』の後は人も亜人も魔物も死体で溢れるから、復興中によくリッチ系とゴースト系は発生するぞ。浄化魔法が使える冒険者や神官は必ず国中から駆り出されるんだ」

「へー。そういや浄化魔法ってどうやって覚えるん?独学?教会とかで指導でもされんの?」

「私は地元にある神像に毎日祈りを捧げていたら、ある日突然覚えたわよ。でも相性もあるみたいで、幼馴染は私より信仰深いんだけど未だに覚えられないって言ってたわ」

「へー」

「ああ、ちなみに私の地元にあったのは知恵の神メティオラ様よ」

「俺は孤児院出身だが、あそこは水の神ネイラード様だったな」


フェリルでも神々が遠くの島に実際に住んでいることを聞いていたミッツはふんふんと頷く。

神々の像は地域によって違うが、色んなところに点在しているらしい。


「あ、ちなみにプチリッチのプチは、生まれたての魔物や獣全般につくわよ」

「それはなんとなく分かっとった!プチスライムとか、あと俺のモモチもプチフェンリルやしな」

「そういえばフェンリルと契約していたのよね、いいなぁ。終わったら触らせてね」

「ミチェリア復興ついでに冒険者ギルドにモフモフカフェ増設して貰うから、そっちもよろしく」


魔法専門の女冒険者とミッツは握手をする。冒険者パーティの剣士は呆れながらも襲ってきたミノタウロスを切り裂いた。


「お前ら危機感持てよー」

「持ってるわよ。それこそ神に祈るくらいに」

「その祈るってどうやんの?心の中で神さんに報告とか感謝とかするん?」

「そんな感じね。私も良いことがあったから感謝をしていたら、急に何かが頭をよぎって、ああこれが浄化魔法なんだって突然理解したのよ」

「不思議なもんやなぁ」

「幼馴染も毎日祈ってるし、小さなメティオラ様神像を自分で作って毎日磨きあげて1時間毎に話しかけて祀ってるんだけどねぇ」

「それ、そのメティオラ様にうざがられてるのでは?」

「やっぱり?でもそんなこと本人に言いにくいじゃない。まあ祈りに関してはこんなものかしらね」

「ふーん、色々あるんやなぁ。俺ならこうかな。南無阿弥陀仏!なんちゃって」


ミッツが軽く合掌しながら唱えた瞬間、ミノタウロスの上に発生していたプチリッチがすごく安らかな表情をしながら浄化されていった。


「……」

「………ん?」

「いや、え?浄化魔法?いやでもミッツくんこの大陸の神々信仰してた?!」

「俺さっきまで神さんの名前すら知らんかったで!」

「そうよね!じゃあなんで?!」

「でも信仰というのは心当たりがちょっとあるわ」

「え?」


「俺が所属する八天王寺高校は、宗教校やねん」





目当てのページを開いたミッツはアンデッドドラゴンを見据える。


「俺は正直信仰深くはないし、そもそも緩い授業やったけど!ちゃんと仏さんには手ぇ合わして拝んどったし写経も真面目にしとったぞ!やるだけやったる!ギルさん拡声魔法!」

「おうよ!」


ギルバートが拡声魔法をアンデッドドラゴンに向けて発動すると、ミッツが気合いを入れて叫ぶ。


「くらえ!異世界の世界三大宗教の1つ!の読経!『般若心経』!」


恐らく日本人の多くが唱えたり聞いたことのあるあのお経がアンデッドドラゴンに向けて大音量で流されていく。

ミッツも合掌しながら唱えているので、少しだけ効果が上がっている。

ただでさえ効いているのに効果が上がっているものだからか、アンデッドドラゴンは苦しそうに市場を壊しながら悶えている。


「ギュグヴゥううウウウ!ギィイぃイイいィィィ!!」

「おい効いてんぞ!なんだそれ!妙に耳に残る!」

「えっと何て言おう…異世界三大宗教の1つの更に色々複雑に派生した中で一番有名な、えーと、讃美歌?鎮魂歌?」

「讃美歌!?」


上空で話している間にもアンデッドドラゴンは依然として苦しんでいる。あと一押しといったところだ。

ミッツは壺を開け、中身を掴んだ。


「なんだそれ」

「塩」

「塩!?なんで!?」

「んーと、効くかなって。えいっ」


アンデッドドラゴンの頭に向かって、ミッツは塩を一掴みし片手で祈りを込めながら撒いた。

塩はサラサラとアンデッドドラゴンの皮膚に付くと、シュワシュワと泡立ち輝いている。


「ギャギャアァウウウアアアアア!!!アッギャッ!!ギッ……!」

「……」

「………」



「おいあれ」

「塩」

「劇物毒物ではなく?」

「まごうことなき、ギルさんも昨日食べた塩」

「なんで塩があんな効果出るんだよ!」

「俺のおったとこでは、祈りを込めた塩は『お清めの塩』ゆうて穢れ祓ったり徐霊に使われたり嫌な客来た後撒いたりするんやもん!慣習があるんや!」

「そ、そうなのか」


そうしている間にアンデッドドラゴンは一気に弱り、ミッツが般若心経と清めの塩を交互に浴びせることで最期を迎えた。散々浄化魔法 (らしきもの)をかけたので、リッチが発生することもなさそうだ。

尚、本来ならアンデッドドラゴンが死んだ瞬間に恨みや憎しみで生まれたプチリッチが急速進化し、グランドリッチになって冒険者たちが戦わなければならなくなっていたので、ミッツが試しにと行動して良かったのだ。唱えて塩を撒いていなければ冒険者にももっと死人が出ていた。


ミチェリアにいた魔物はアンデッドドラゴンが最後だったようで、確実に倒されたと分かった時点でミチェリアは歓声に包まれた。

あとは無法帯からまだ向かって来ている魔物を倒せば、『パレード』の終焉である。


歓声の中、融合を解いたギルバートとヴェザバルドはアンデッドドラゴンの前で、何とも言えない最期に思いを馳せていた。

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