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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
夜が来たりて
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79 パレード直前防壁雑談

とうとう『パレード』当日がやってきた。

昼まで体力を温存して腹ごしらえと準備をしっかりした後、ライラックの拠点はしっかりと戸締まりされた。

町にある建物は比較的頑丈でミノタウロスの体当たりぐらいでは全壊しないが、念のためサイが防護魔法をかけた。ドラゴンのブレスでもびくともしない宿が出来た気がする。


最前線で戦う前衛組であるサイとギルバートと別れ、ミッツはシェラと一緒にそのまま防壁上へ走る。

既にミチェリア内は厳戒態勢である。冒険者も騎士団も兵団もピリピリしている。商業ギルドは戦闘の邪魔にならない当日の昼まで何かと調整していた補給物資を補給班に託し、護衛の兵と共に馬車で近くの町へと移動していた。


前線防壁上で弓や魔法触媒の杖の最終確認を冒険者同士でしていると、冒険者ギルドで待機・指揮を取っているはずのクロルドが防壁上に登ってきた。


「あれ、クロルドさんや」

「本当だ。ギルドマスター、暇なんですか?」

「暇なわけないだろう、俺も補助と指揮で頑張る予定なのに」

「思ったんやけど、クロルドさん戦わへんの?元A級やねんろ?」

「あれ、言ってなかったか。俺も剣士…前衛職だったんだが足を大山蜘蛛(パイルスパイダー)に食いちぎられかけてな。切断まではいかなかったし、腕の良い治癒魔法の先生が近くにいたから無事にくっついて、生活に困りはしねえんだがとても戦うことは出来なくなっちまったんだ」

「ごめんなさい」

「いいんだよ、A級だったおかげで冒険者ギルドに拾って貰えたしな。俺はちょっと様子を見に来ただけだ。ほれ、見てみろ」


指を差されたので、ミッツは前線防壁から無法帯を見下ろした。

来てからすぐに武器の確認をしていたので気づいていなかったが、昨日より妙にすっきりしているように見える。


「さっき門前の無法帯の森を100メトー程切り拓いて貰ったんだ、少しは見えやすいだろう」

「ほんまや、ちょっと拓けた感じになっとる」


無法帯は木を切り倒しても2日程で元通りになるぐらい、自然の成長スピードが早い。数年前にリッチの集団と出くわした元神官の冒険者が上級光魔法である火炎大聖域(フレアサンクチュアリ)で周囲の森ごとリッチを吹き飛ばした時も、数日後には森が再形成されていたそうだ。


とは言えすぐに生えてくるわけでもないので、一時的に見晴らしをよくするならちょうど良いと切り開いたわけだ。


「これなら最前線の奴らも戦いやすそうだ」

「そうなんや。まあ俺も森に向かって射つより見やすそうやなぁ」

「そうだね、視界が悪いと僕らに不利だし」

「はは!まあ率先して最前線の奴らが倒すだろうし、後衛のお前らは無理せずに最前線の討ち漏らしを狙って弱体化させてやってくれ。あと異常とか、門を突破されそうなら黄色の火を打ち上げてくれよ」

「…分かりました」

「ま、ゴッド級もいるし大丈夫だろうがな。スライムは…まあキング級も最前線組に混ざってるし大丈夫だろう。たぶん。出来る限り魔物ミチェリアに入れないように頼む。出来たらスライム。あとは空の魔物がいたら気をつけてな。まあスライムは弓で倒すのなかなか難しいし、最前線の奴らが倒すだろうけどな。じゃあ頼んだぞ!」


クロルドが階段を降りていくのを確認すると、防壁上にため息が複数漏れた。


「うーん、まあそうなるよなぁ」

「なんだろうね、クロルドさん悪い人じゃないけど、無意識かな?」

「そりゃ冒険者は前衛が強いってイメージはあるだろうけどよぉ、俺らはサポート職じゃねえんだぞっての」

「かと言ってサポート職からは攻撃職と思われてるし」

「いや落ち着け、弓使いと魔法専門はちゃんと攻撃職だ」

「ほんとだー」

「弓ならかっこいいじゃないか、俺はメインが投石なんだよ。ナメられるナメられる」


冒険者の一人が自前の投石紐(スリング)を手持ち無沙汰に広げて見せる。伸縮性のある魔物の革で出来たスリングは使い込まれているがしっかりと手入れされているのがよく分かる。

ちょっと色が独特で毒々しいが。


「いや、なんで投石を攻撃手段に選んだんだよ。投石職がいないわけじゃないがかなり珍しいだろ。悪いとは言わないが普通は魔法専門とかにいくぞ。あとその色味は…」

「故郷の村に来た旅人がさ、村の畑を荒らしてた大猪を投石一撃で仕留めてて、子供心ながらにすげーかっこよかったんだよな。だからその旅人にスリングの作り方教えて貰って、仕留めた大猪の皮を鞣して二人で作ったんだ。

その旅人が村を発った後に、自分なりにアレンジしてデザインも変えたりしたんだ!良い色だろ?この絵は俺の村によく来ていた鳥を描いたんだよ」

「おお、それは良い思い出だな。投石に対する思いも強くなるってもんだ。うん。その、えっと、色彩も印象的だな、うん」

「ええやん投石、地味かもしれんけどかっこええで。俺の故郷、地球の昔の話やけどな。投石の攻撃力が恐れられたおかげで鎧の強度を上げる技術が発展したとか言われとるで。投石は侮られんよ」

「そ、そうだよな!ありがとう渡り人!あ、俺はB級のハイベス・サザンド!」

「自己紹介おおきに。でもその色とデザインは即座に変えた方がええと思う」

「え、どこらへんが!?ここのギルド職員にもギルドで見せたら素敵って喜ばれたんだけど!?」

「うーんナビリスちゃんかな」


きっと当時は旅人とハイベス少年が一生懸命作った、質素な革のスリングだったのだろう。多少粗い所がある、思い出のスリングだったに違いない。

成長したハイベス青年が独特な芸術に目覚めてスリングを毒々しい沼地蛙色に染め、部分的にショッキングピンクで描かれた鳥らしいイラストやショッキングイエローで描かれたよく分からないものが描かれていなければ、きっと美談で終わったはずだ。

どうやらネーミングセンスに定評の無いギルド職員(ナビリス)は色彩センスも無かったようだ。


ミッツは遠慮して言えないようなこともスパッと言う時は言うのだ。



「それはさておき、ここだけの話があるんやけど」

「ん?」

「弓矢とか投石とか魔法のみとかで、めっちゃ活躍したない?」

「え、出来るの?」

「たぶんやねんけどな、誰か試験第一号ならん?」

「私!私やりたい!もし活躍出来たらリーダーに自慢して笑顔でパーティ抜けてやる!」


防壁の上でこそこそと話し合いが行われたのは、その場の後衛組と防壁に停まっていた鳥のみが知る。

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