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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
夜が来たりて
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77 パレード前打ち合わせ会

夕方、ライラックから高ランク冒険者全員で冒険者ギルドへ向かった。既にほとんどの冒険者が集まっているようで、冒険者ギルド内は密状態である。

高ランク冒険者は冒険者たちに紛れ、サイとギルバートとミッツは無言で手招いているクロルドの元へと向かった。クロルドは目立つように酒場のカウンターの上に立っている。


実は一度冒険者ギルドに戻ってまた新しい情報(やっかいごと)を知らせていたミッツが、この時間までに情報は訂正されていないことをクロルドに伝えると、クロルドは頭を抱えた。抱えたが言うしかないので気を取り直す。


「えー、もう大体集まってんな?今分かってる情報整理すんぞ。後でもう一度拡声魔法で騎士団と兵団にも軽く伝えるが、まあまあ良い知らせと悪い知らせと悪い知らせと悪い知らせ、どれから聞きたい?」

「それほとんど悪い知らせしかねぇじゃねーか!」

「なんなんだよギルドマスター!ちょっとぐらいで俺たち冒険者は逃げねーぞ!」

「勿体振らないでさっさとお言いよ!あたしらも伊達に冒険者やってないよ!」


「えーじゃあまず良い知らせから。これは大体の奴が知ってるんだが、ゴッド級が二人になった。お前ら自己紹介」

「元からいるゴッド級のサイ」

「昼から増えたゴッド級のギルバートだ」

「はい、というわけで戦力はちょっと安心感が出た。これでドラゴンが3頭出ても多分大丈夫」


元々伝え聞いていたようで、冒険者たちは比較的落ち着いたように、良い意味でざわざわしている。


「次に悪い知らせ。これに関しては『パレード』予知の本人から知らせる。とりあえず自己紹介」

「えっと渡り人冒険者のミッツですわ。俺の魔法触媒で『パレード』の内容がちょっと分かっとるんです」

「で、昨日分かってて伏せてた情報。非常に言いにくいんだが…、スライムが割といる、らしい」

「は?」

「え?」

「はい?」

「次、昼に俺と一部関係者にのみ知らされていた新情報その1。ミッツ読み上げ」

「はーい」


ミッツがスマホをタップする。


【『ナイトパレード』に関する情報を更新しました。

昨日まで予測していた魔物の一部はスライム、ワイバーン、ミノタウロスでした。が、つい先程無法帯にてミノタウロスに変化がありました。ミノタウロスの巣で複数進化した可能性があります。そのためギガントミノタウロスが複数来る可能性があり、またプチミノタウロスも同時に誕生し、子育て中のミノタウロスが興奮しやすくなっています。気をつけてください】


「嫌なベビーラッシュやなぁ、んで新情報その2」


【『ナイトパレード』に関する情報を更新しました。

スライムがさっきから移動を開始しています。行き先はミチェリア、ある意味既に魔物はパレードを始めています。こちらも明日の夜までに準備を済ませましょう。ラッキーワードは後方支援です。今日も良き1日をお過ごしください】


「過ごせるか!!」

「もうスライム向かって来ているだと?!」

「ラッキーワードて何?」

「というかギガントミノタウロス!?キング・A級対象じゃねえか!」

「頼むから無法帯でそのまま子育てしておいてくれよ…!」


冒険者が騒ぐ中、緊急速報が鳴った時に近くにいたポーン級のドワーフ女子がはっとした。


「先輩、先にもう無法帯に行ってちょっと討伐するとか出来ないんすか?!」

「初めてのことが多過ぎて下手なこと出来ねーだろ。それが出来たらギルドマスターも既に動いてるさ」

「その通りだ!今朝から偵察に何人か斥候職を向かわせて、そいつらもさっき帰ってきた。走って3時間圏内をざっと見ていつもと変わらない普通の無法帯に見えたが、よく見ていると一定の魔物がもう移動しているようだったらしい。攻撃して偵察班が全滅してもいけないから手出しさせずに戻らせている」

「くそっ!」

「何も知らなかったら相当な被害が出るからやばかったんすよね、そのことだけは事前に分かって本当に良かったっすね!」

「ああ、本当に…あとは俺たちがここにいなけりゃもっと良かったんだが…ああスライム…」

「あたし、まだスライムに会ったことないんすけどやっぱりやばいんすね」

「出来れば普段でも会いたくねーし、クエストじゃなけりゃ俺は逃げる」

「わしも逃げる」

「私も」


スライムに関してはランク・『契約者』に関係なく冒険者が顔をしかめてポーン級ドワーフにその怖さをこんこんと伝えている。


「ともかく、今のところ情報はそんな感じだ。次に近距離で戦う奴…剣とか拳とかで戦う奴な。そいつらはこのままここで打ち合わせだ。

遠距離攻撃の奴…弓矢とか魔法専門とかの奴な。そいつらは前線防壁の上で戦ったり民家の屋根で待機したりだろうから、町を見ながら自分のやりやすそうな所見つけておけ。

最後に回復職とか他の奴、あとビショップ・D級未満。商業ギルドに騎士団と兵団の衛生部隊と補給部隊が数人いるらしいから合流してくれ」


「あとこれ大事。喧嘩すんなよ。頼むから『非契約者』気に食わないとか『騎士団』気に食わないとかそんなつまらんことで喧嘩すんなよ?頼むからな?」

「……」

「喧嘩するなら終わってから!はい返事!」

「…はぁーい」

「よし、打ち合わせ終わったら解散な。今日は英気を養って、明日夕方には全力出せるようにして配置につけ。以上!」


喧嘩っぱやいのが特徴とも言える冒険者たちは渋々な返事をして散開していった。ここでサイとミッツも分かれることになる。

サイは主な武器が短剣であることとゴッド級であることにより前線組に行くことにした。ギルバートも拳で戦うらしいので前線組。

ミッツは弓矢クレインの使い手なのでもちろん遠距離組のいる集まりへと向かって行った。


「えっと遠距離組の皆さん?」

「やあ、ミッツくん。僕はシェラ・トレンチ。『悪魔憑き』のキング級で大弓使いだよ。ライラックで何度か会っているね」

「ああ、昨日シチューめっちゃ食べとった人」

「そんな覚え方されてるの?なんか恥ずかしいな…。あ、この集まりで僕が一番ランク高いみたいだからなんとなくまとめようかなと思ってるよ。異議ある人いる?」

「特に」

「特になし」

「良かった。ちょっとマイナー攻撃職同士宜しくね」

「「よろしくー」」


弓や魔法専門で戦うのは少しだけ人気がないようだ。

早速皆で移動を始め、まずは前線防壁へ向かうことにする。




前線防壁で普段から常駐している警備兵は挨拶をし、異常なしを知らせてくれた。

ミチェリア側の防壁側面には階段が備わっていて、有事には防壁の上へ登れるようになっている。遠距離組はぞろぞろと階段を登り、前線防壁からミチェリアと無法帯を眺めた。

前線防壁の上は割と広く、変なオブジェが飾られている。柵はないが防壁は幅5メトー程あるため少し気をつけていれば落ちることもなさそうだ。


前線防壁は無法帯に沿って大陸を横断するように作られている頑丈な長い壁である。壁上伝いに歩けば大陸を横断出来てしまうし他の辺境町に侵入出来てしまうが、そんなことをする者は今の所出ていない。

それでも何が起こるか分からないので、辺境町の防壁以外は上を歩けないように罠が仕掛けられているらしい。


「さて、僕たちはこの前線防壁もしくは高いところから遠距離攻撃、あと後方支援をする予定だよ」

「というかそれしか出来ねぇんですよ」

「『ナイトパレード』だし、辺りを照らすのは誰がするんです?」

「それはポーン級以下とE級以下の子たちが光魔法を辺りにばらまく予定みたい。なので味方に当たらないように僕たちは魔物を狙うことに集中。少しでも最前線組が楽になるように上から弱らせるよ」

「どうせ最前線の奴ら、殴る蹴る切るしかしないですもんね」

「こらこら、悪口はダメだよ。皆それぞれ得意分野は違うんだからね」

「シェラさんほんまに『悪魔憑き』なんですか…?」


悪魔と契約しているようにとても見えないキング級冒険者を筆頭に、自分のポジションを決めていく。防壁組か、町内屋根組かだ。

ミッツは防壁上から魔物を間引く方を選び、防壁組で交流を深めていた。


「あんたのパーティも遠距離職はナメられてんのか?」

「ええそうよ!この前なんて、リーダーが油断してオークに襲われそうなのを私が弓で目潰しして、リーダーが止めをさしたんだけどその後よ!その後、一言目が【君は良いよな、安全な所から攻撃出来て】!何が安全よ何が!近寄られたら私は終わりなのよ!?礼も無かったわ!」

「クズだ」

「クソ野郎じゃん」

「元彼だったんだけど、もう残ってた愛情も無くなったの。この『パレード』が終わったらパーティを抜けるつもりよ」

「フラグっぽいなぁ」


「なんで遠距離職と支援系はナメられるんだろうなぁ、キング級になってる冒険者だっているのによ。シェラさんとか」

「そうよね、『非契約者』で魔法専門の人とかもいるじゃない」

「剣で戦うだけが冒険者じゃねぇっての」

「そうそう、剣が良いんなら騎士団にでも行けよな」

「それに『天遣い』ゴッド級のキーラ様だって魔法専門じゃないか」

「なー」

「あーあ、今回の『パレード』で私たちが活躍出来たらなぁ」


ここぞとばかりに遠距離攻撃職の不満とあるある話をした後、明日の『ナイトパレード』おやつ時過ぎに完全武装をして防壁上に集まることを約束して解散した。


ライラックへ戻ったミッツは会話を振り返り、サイが帰ってくるまである作業に没頭していた。



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