74 あつまれ!戦う者たち
『ナイトパレード』予告日前日、スライム講習をミッツが受けてからライラックで二度寝をして再び起きた昼前に増援が続々とやってきた。
まず現れたのは国に縛られていない、フットワークの軽い冒険者たちである。
今回急いで来れたのは2つの町で集まった冒険者たちだ。
「ミチェリアのギルドマスターいるか?俺ら、辺境町スキュダムで集められてここに来たんだが」
「こっちは辺境町エルファダから来たぞ。本当に『ナイトパレード』なんだよな?平和そうに見えるのに変な感覚だな…」
「よく来てくれた、俺がミチェリアのギルドマスターのクロルドだ。明日の夜来るそうだから、今の内に英気を養っておいてくれ。冒険者の拠点は北側の庶民街に集中してるからそっちに行って休んでくれ。宵待星が出るぐらいに伝えることあるからまたここに来てくれや。
あと商業ギルドが今日と明日の食料を配っている。一人一袋受け取ってくれ。2つ受け取ろうなんて不正しやがったらミチェリアのマスコットがハグ(巻き付き)であばら骨折るから気を付けろ」
「あばら折るマスコットて何!?」
「商業ギルドのルージュバジリスク」
冒険者たちは商業ギルドへとりあえず向かって行った。
次に門をくぐったのは兵団。避難の受け入れ先にも出動しているので、少人数で来たようだ。
「失礼、辺境町スキュダムから来た。我々はミチェリアの兵団と合流すべきか?」
「どうも、ギルドマスターのクロルドだ。
とりあえずミチェリアの兵団は避難の関係で今かなり人数が絞られている…のは知ってるよな。なので兵団のことはムムリ兵長に任せてある。すまないが合流して指示を仰いでくれ。
あと商業ギルドが今日と明日の食料を配っている。一人一袋受け取ってくれ。2つ受け取ろうなんて不正しやがったらミチェリアのマスコットがハグ(巻き付き)であばら骨折るから気を付けろ」
「ハグであばら骨を…!?どこのミノタウロスを飼っているんだ?!
「ルージュバジリスクだ」
最後に騎士団がやってきた。王都へ帰還する途中だったらしい神経質そうな騎士が嫌そうに部下を連れてギルドへと入って来る。
「ふん、ここがミチェリアか。辺境に恥じない田舎さだな!おいそこの冒険者。ギルドマスターをさっさと呼んで来い。まったく、この私が何故『パレード』のために田舎へ寄らねばならんのだ。そもそも予知など本当に当たるかどうかも分からんのに陛下は何を…」
「俺がそのギルドマスターのクロルドだ。
あんたらが来ても来なくても、渡り人の予知だから『パレード』は来るだろう。騎士団のことは騎士団へ任せるから拘留屋敷へ行って指示を仰いでくれ。それが嫌ならさっさと王都に逃げることだな。
あと商業ギルドが今日と明日の食料を配っている。一人一袋受け取ってくれ。2つ受け取ろうなんて不正しやがったらミチェリアのマスコットがハグ(故意の締め付け)であばら骨粉砕するから気を付けろ」
「な、なんだ!?何を飼っているのだ!?」
「行けば分かる」
騎士が手下と共にギルドを出て行くのをサイがシードルを、ミッツがレモネードソーダを飲みながら眺めていた。
余談だがミチェリアから徒歩2時間ぐらいの少し離れた林の中で、採取クエスト中にミッツが炭酸水の湧き出る泉……炭酸泉を発見した。飲める上に地球の炭酸泉と違ってしっかりシュワシュワしていてほのかに甘味もある。完全に甘さ控えめソーダである。あと冷たい。
うきうきしながら学生鞄から空樽を取り出して汲み上げ、帰ってからフルーツシロップを作り、各種ソーダを作って商業ギルドへ持ち込み、また商業ギルドが潤ったのはつい最近の話である。
ぽろっと「お肌にもええんやで、炭酸泉」と呟いてしまったが、その場にいたギルド職員は男で、化粧品の広まる速度と女の美への執着をよく理解している人物だったため、黙ってゆっくりと頷いていた。
現在、『ミチェリア化粧品ブランド(仮)』立ち上げプロジェクトがとても進行している。書類は全て厳重に避難させられている。
「なんというテンプレな小物」
「いっそ清々しいな、騎士団隊長クラスでもないのにあそこまで威張れるとは」
「あ、隊長ちゃうの?」
「騎士の甲冑の微妙な違いで分かるんだが、あれは分隊長ぐらいだな。まあ見分けられなくても良い。どこにでもあんな奴いるんだなと思っとけ」
「小物はどこにでもいる、と」
騎士団と兵団のルーズリーフにメモを追加していると、騎士をさっさと追い出したクロルドが近付いてくる。
「おい、俺にもレモネードソーダ。疲れるなあ」
「お疲れ様」
「お疲れさん。ちょっとめんど…おもしろ………難儀なの来たなぁ」
「ああ、本当に…ミッツ。あいつがルージュバジリスクに無意味に甘噛みされることを祈っといてくれ」
「だからなんで俺に言うん。祈るけど。ついでに今日10回ぐらい足の小指ぶつけるよう祈っとこ」
「おう」
運ばれてきたレモネードソーダを一口飲み、クロルドはため息をついた。
「一通りの戦力は揃ったんだろ、状況は?」
「うん、よろしくねーな」
「だろうな…」
クロルドが机に広げた冒険者リストによると、ゴッド級が1人、キング・A級が2人、クイーン・B級が10人、ルーク・C級が14人、ビショップ・D級以下がいっぱい、ということらしい。あとは騎士団と兵団。
住民の犠牲が出ないとはいえ、あまり建物を壊す戦法を率先するわけにもいかないので戦力としてはやや弱い。いざとなったら壊すが。
「中規模だからなー。大規模ならゴッド級の強制召集を陛下に奏上してギルドの転移魔法を発動出来るんだが、中規模はな…」
「転移魔法って勝手に使われんの?」
「ああ、王命もしくはギルドマスター権限での強制使用で使える。ゴッド級が一人もいなかったら使ったんだが」
「一応ここに一人いるからなぁ」
「そうなんだよ、いや十分っちゃ十分なんだが…」
「俺も流石にドラゴン3頭以上とかだとちょっと手こずるぞ」
「だよな」
何度も言うように、初めてのことなので国王もどう対処すべきか考えているようだ。
これ以上は増えないかと思っていると、ギルド奥から職員が飛び出してきた。
「クロルドさん!大変です!」
「どうした!?『パレード』前夜祭でも始まったか!?」
「前夜祭あんの?」
「あってたまるか。どうしたんだ?」
「それが、あの、」
「よう、サイ。来てやったぜ」
ギルド職員の後ろからのっそりと、背の高い褐色肌の男が現れた。
どことなくアラビアンぽいイケメンやな…ホストやったら1日で1000万稼ぎそうやなー、と勝手に相場を決めていたミッツの横で、サイがちょっと驚いたように立ち上がった。
「……まさかお前が来るとは思ってなかったぞ、ギル」
「まあ暇だったんでな。それにゴッド級が全力出せるチャンス、オレが逃すとでも思ったか?」
そう言って笑う男の耳には、サイと同じデザインのピアスが金色に輝いていた。
お忘れかもしれないですが、サイのピアスはゴッド級を示すとても強い冒険者だよーという証です。




