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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
夜が来たりて
72/172

72 そうだ避難しよう

打ち合わせが終わり冒険者ギルドを出ようとする三人を見て、ミッツはあることを思いついて追いかけた。


「ルバラさん!」

「ミッツ様、どうされました?」

「今樽とか大きい袋ある?」

「どうされました?商人の嗜みとしていつでもストレージポーチと各種袋は持ち歩いておりますが」


ルバラはスーツの懐から革のポーチを出した。上質な砂漠大顎ワニ(デザートアリゲーター)革のシックな小型ポーチに見えるが、どうやらサイのストレージポーチやミッツの学生鞄と同じように、中は亜空間が広がっているらしい。


「めっちゃ入る?」

「まあそれなりに…先程の酒場の机が5つぐらいならば余裕で入りますが」

「それ以上入れたら?」

「溢れるだけですよ」

「ほな、持って構えといて」


ミッツは無限チョコ袋をざらざらと振り、ルバラのポーチをどんどん埋めていく。


「あの、これは」

「チョコ」

「それは存じてます。あの売り物にするには怖いけど美味しいあれですよね。何故今こんな大量に?」

「不安をちょっとでも柔らげるんやったら甘いもんかなって思って。避難する人らと関係者に配るんやったら、これは少ない?」

「…なるほど、本当に感謝します。少ないなんて滅相もない、お代は」

「いらへんいらへん。なんなら飴ちゃんも追加するで」

「いえ、これだけあれば住民にも戦闘員にも、3つずつは行き渡るでしょう。充分です、ありがとうございます!」

「商人さんらにも配ってや?ルバラさんもやで?」

「はは、もちろんですとも!ミッツさん、ビショップ級ということは『パレード』戦闘に参加されるのでしょう?」

「そうみたいやわ」

「そうですか…お互い、無事でお会いしましょう!」

「ん!約束しますわ!まあ俺弓使いやから遠距離担当で比較的安全なんやけど」


しっかり握手し、ルバラはポーチを懐へ戻すと商業ギルドへと戻って行った。

見送っているミッツの横を冒険者たちが次々に通り越して、避難住民に話しかけていく。たいていの住民は笑顔で首を縦に振っているが中には難しい顔をする者もいる。


「あれ、どないしたん?」

「あれは…拠点を作りに行ってるな」

「それって、俺らがライラックに部屋借りとるみたいに?」

「ああ。今の内に少しでもいい建物を使わせて貰って、そこを冒険者たちが使えるようにするんだ。戦闘が始まるまでに休める所があると便利だろ?まあどさくさに紛れて勝手に家を使う奴も出るだろうが、きちんとした家は鍵もしっかりかけるし大丈夫だろ。押し入る奴もいるだろうけど」

「それ、犯罪では?」

「ミッツ、この世界には事後承諾・緊急事態という便利な言葉があってな。あと自業自得・因果応報という言葉もあるぞ」

「地球にもあるわ、なるほど後で罰あるんやな」

「そういうこと。まあ俺たちみたいに宿をそのまま拠点にさせて貰うのを事前に申し出る奴らがほとんどだよ」

「ふーん」


ミッツはサイと冒険者ギルドへと戻った。軽くクロルドと話をするためだ。

こうして、緊急速報が鳴った初日は終わった。





「慌てず!慌てずにお並びください!」

「我々兵団が必ず避難先まで付き添いますので!」

「商業ギルドから携帯食料などは受け取っておりますかー?受け取っておられない方は挙手お願いします!」


翌日の昼過ぎ、ミチェリアの北門で何人かの兵と商業ギルド職員が声をあげていた。

昨日の内にいくつかの町に避難住民の受け入れをなんとかお願いし、避難準備を終えた住民から順にその町へと向かうこととなった。避難先にはあの狼吼里フェリルも含まれており、徒歩3日圏内なら手当たり次第連絡した末の結果となった。

住民20人ほどのグループを作り、そこへ兵が3人ほど付き添って町へ行くことで話が纏まったようだ。


移動と滞在期間は最低でも一週間としてあるが、『パレード』で町が壊れないなんてことは有り得ないので復旧も見込むと1ヶ月はかかっても不思議ではない。

急なことであるし馬車の数もないのでほぼ全員徒歩での移動であるが誰からも文句は出ず、命が確実に助かることを口々に感謝しながらミチェリアを出て行った。


「1日がかりで歩くなんて、わしパン屋だから体力が心配だわい。もっと早く分かれば良かったのに…」

「あなた、それは皆もですよ。ミッツ君のおかげでまたパン屋は続けられるんですから。それとも何です?私たちの可愛がってるミッツ君に文句でもあるんですか?」

「い、いやすまんかった。じゃあわしらも行くか」

「それに私たちはまだいい方ですよ、1日で済むのだから。お隣のカフェのご夫婦なんて2日歩いた町が避難先らしいですから」

「そ、そうか。わしらは恵まれとるんか」


移動への不安はあるものの、せいぜいこのぐらいの文句しかない。文句があってもミッツの味方である奥さんか周囲が黙殺する。この2ヶ月でミッツはすっかりミチェリアの主婦と手芸職人を味方につけていた。

避難先が分かれている基準は単純にその町まで無事に着けるかどうかである。老人やまだ小さい子のいる家族が一番近い町で、若者や体力に自信がある者がやや遠い町に振り分けられている。妊婦がいる家族にはミチェリアにある数少ない馬車と荷車を使わせ、避難先の町へ乗せていった。


こうして、緊急避難指示が出た翌日中に全ての住民がミチェリアを出立することが出来た。

現在ミチェリアに残っているのは、冒険者、冒険者ギルド職員、騎士団、避難住民に付き添わなかった兵、そして商業ギルド職員である。

明日は他所からの冒険者、兵団、騎士団がミチェリアへ集結する。


明後日の夜、いよいよ『ナイトパレード』がやってくる。


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