71 騎士と兵と緊急会議
ミチェリアの全住民が家の貴重品などをまとめたり食料を独自に買い求めたりしている頃、冒険者ギルドに各責任者・関係者が集められ、ギルドの酒場にて緊急会議が進められようとしていた。
領主にも連絡はしたが、領主一家はちょうど王都へ用があり不在ということで、『悪い、ミチェリアを頼む』と王都の冒険者ギルドを通してクロルドに全指導件が託されている。ある意味既に避難済みである。
冒険者たちはギルドから指示があるまで待機のため、各自拠点を作って武器の手入れや戦闘に必要なものを買いに行っている。
サイは冒険者代表のゴッド級として、ミッツは緊急速報を受信した当人として席に着いた。クロルドに無言で席に着くように指を差されたとも言う。
銀の甲冑を着込んだ初老だが筋肉質の男、勲章が複数付いた兵服を着ているすらりとした青年、シンプルだが上質なスーツを来た小太りの男がそれぞれ簡単に挨拶をする。
「とりあえずサイたちは初対面だな、あんたら軽く自己紹介してやってくれ。今回ばかりは無礼講で構わねーだろ」
「私は構わない。王国騎士団ミチェリア配属隊隊長のダグラス・ジョインである。先日まで副隊長ブラハーナに拘留屋敷を任せていたが先日ミチェリアに帰還した。宜しく頼む」
「俺が王国兵団ミチェリア支部の代表、兵長のムムリ・ライオル。よろしくねー」
「商業ギルドミチェリア支部ギルドマスターのルバラ・ナーブと申します。この度は物資の補給や避難住民への食料配布などを全面的にお手伝いする所存です。サイ様にミッツ様、お久しぶりです」
塩の件以来会えていなかったルバラが小さく手を振り、初対面となる騎士隊長ダグラスと兵長ムムリに挨拶をする。
「四頂点の一角、『獣使い』ゴッド級のサイ・セルディーゾ。今はミチェリアを中心にこのミッツとパーティ『世界の邂逅』を組んでいる」
「渡り人のミツル・マツシマです。ミッツて呼んで下さい。えっとビショップ級の『獣使い』ですわ、よろしゅう」
お互いが名乗った所で会議が進められていく。まずはムムリが疑問を問いかける。
「んで、君が予知魔法で『ナイトパレード』ってどういうこと?」
「予知魔法というか…これ聞いてや」
ミッツが緊急速報の読み上げ機能を押して三人に聞かせる。
なんとなく半信半疑だった三人も、ようやく納得したようだ。
「ここの冒険者ギルドから天気予報してんだろ?あれ、このすまほってのから予知してんだ」
「魔法か分からんけど、地球の技術がなんやこっちでも働いとるみたいで」
「…ふむ、理解した。そのすまほというのは」
「俺の魔法触媒。元々は…えーと異世界の通信機械みたいな」
「最近は何故か妙な鑑定魔法が使えるようになったぞ。狼吼里フェリルの準神グランドフェンリルの加護を受けたんだ、こいつ」
「へ、へー」
「ところで会議の前にダグラスさんとムムリさんに一つ聞きたいんやけど…あ、やっぱりええわ。緊急でもないし」
「いや、疑問があるなら答えよう」
「今は王都からの返答待ちだからね。渡り人なんでしょ?ちょっとでも分かること増えた方が良いよねー」
やや固い口調の隊長とややゆるい口調の兵長だが、どうやらこれが普段の口調らしい。
まだまだ知識のない渡り人は有り難く質問をぶつけることにした。
「えっと、俺のおった世界では昔…80年くらい前まで大きい戦争があってな。俺住んどる国は『もう戦争嫌やもう戦わん戦争せーへん安全第一いのちだいじに』って感じの宣言をしとるから軍とか兵とかはあんまおらんのよ。国を守る組織はあるけど。せやから俺、騎士とか兵とか、なんかかっこええなーぐらいにしか分かっとらんのよね」
「ああ、なるほど。騎士団と兵団の違いを教えて欲しいってことね」
「そう。なんかごっちゃに考えとって、一緒の組織やないんかなとか」
「なるほど、まあ王国を守るという意味では一緒であるが」
「任務がちょっと違うんだよね」
まず騎士団のダグラスが説明をする。
「王国騎士団は主に『王国を内部から守る』戦闘組織だ。犯罪者や怪しげな集団を捕まえたり、王に歯向かう者の摘発に動く組織と考えてくれれば良い。もちろん、急ぎで通告する際は兵に言ってくれても構わないが、対応は我々騎士団が行う」
「なるほど」
ルーズリーフにざっくり書くと、今度は兵団のムムリが説明を始める。
「王国兵団はね、ざっくり言うと『王国民を守る』って感じだよ。主に警備ーとか警護ーとか。ほら、無法帯の門番とか町の門番って騎士じゃなくて警備兵でしょ?昔は傭兵とか呼ばれてたんだけどね」
「傭兵はなんとなく分かる。お金次第で雇われる兵とかならず者みたいなやつ?」
「そうそう。でも百年以上前に王国に雇われる形で、王国兵団になったんだってさ」
「んー、警察が騎士団で、警備員が兵団みたいなもんなんかな。おおきに」
これもまとめたところで、ギルド職員が奥から走ってきた。
手には走り書きをしたルーズリーフの切れ端を握りしめている。尚、ルーズリーフは渡り人の紙としてミチェリアへ帰ってきてから商業ギルドで売られている。
「王都より返答ありました!『渡り人の技術は国王も認めるもの。全面的に信頼し、ミチェリアを最前線として『ナイトパレード』の殲滅を行うよう。また、今回で発生する物資代や治療費、復旧費などは国で半額以上負担する予定。そして殲滅報酬もこちらで用意するので、全て滞りなく報告せよ』とのことです!」
「ありがとう、引き続きギルドの作業に戻ってくれ」
「はい!」
職員が立ち去ると、いよいよ緊急会議が始まった。
緊急会議と言っても、役割分担を大雑把に決めるだけなので実質はちょっとした打ち合わせである。なんにせよ事前に分かることが初めてなので、皆手探り状態なのだ。
「ではまず、避難と物資配布について。これは商業ギルドと一部の兵に任せたらいいのか?」
「我々商業ギルドはあくまで物資と食料の補給をお手伝いしますのでそうなりますな。自慢ではないですが全員戦えませんので!生活魔法しか使えませんし」
「そうだな、ルバラさんとこの武力は雇われ警備兵と、あとルージュバジリスクだもんな」
「ルージュバジリスクは騎士団でも世話になっているがな」
「そのルージュバジリスクは元々サイ様の仮契約だったとか」
「繋がりがあるもんだなぁ」
「よし、住民の避難に関しては兵団に、補給に関しては商業ギルドに任せる。次に避難場所と経路の安全の確保だが…」
「それは騎士団と兵団の共同で行おう。近隣への連絡も今している。そもそも緊急伝達魔法を見て既に編成してこちらへ向かっている可能性もある」
「そうだねー。騎士団には道中の安全確保をお願いして、兵団は…住民を何人かずつに分けて、その組に数人兵を張り付かせて、避難先まで護衛かな?」
「その辺はあんたらに任せるよ」
「で、メインの魔物討伐だが」
「俺ら兵団は魔物との戦闘経験はあるけど護衛のこともあるし、手練れだけを寄越すよ」
「我ら騎士団はあくまで人や亜人を守るような戦い方をする。魔物相手では些か不利となる。何人か魔物相手で戦える騎士をこちらも寄越して、すまないが全面的に避難住民に当たらせて貰う」
「それで良い。魔物討伐は冒険者が慣れてるからな、慣れた者が戦えばいいさ」
「俺たち冒険者は魔物をミチェリアから出さないことを第一に、そして生きて報酬を手に入れたら文句言う奴なんていないからな」
「せやなぁ」
「では各自、そのように動いてくれ。住民のこと、よろしく頼む」




