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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
旅と弓と寄り道の犬
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64 ばいばいナルキス村、また来たよフェリル

「ほう、クレイン。坊主の故郷ニホンの鳥の名前か」

「日本語では鶴っていう綺麗な白い鳥やねんけどね、こっちにはおらんみたいやわ。クオッカはおるのに」

「ふむふむ折り畳みか、なかなか面白い機構じゃな。俺も魔道具で真似させて貰おう」


クレインに羽模様を彫って貰ったミッツはサイと共に荷物をまとめ、ウルスに礼をしっかりしてから家を後にした。

今頃はミッツの残したミートソースやお菓子をせっせと氷室に運んでいるだろう。


今はマロノの元へ、今回最後の進捗確認とクレインのお披露目をしに来ていた。


「おっとそうじゃ。レイゾーコもレイトーコも完成まではまだまだだが、魔文(まぶみ)の型は出来たと思う」

「まぶみ?」

「人造魔道具に刻む命令のようなものだ」

「あー、システムかな。『冷やせ』って命令を文字みたいにして刻んどるってこと?」

「物分かりがいいな、その通りだ」


魔道具には2種類あり、1つは遺跡やダンジョンから発掘される不思議なもの、そしてもう1つは大陸民によって作られたものである。

作るにはきちんとした師の元で学ぶことが大事であり、そこで学ぶ1つが魔文の刻み方らしい。素人でも作れはするが、ほとんど機能しない『玩具』みたいなものが出来る。

マロノが木の板に複雑に刻まれた魔文を見せてくれたが、何を刻んでいるかは分からなかった。サイも流石に本職の魔文は読めなかった。


「この魔文に魔力を通すと…どうだ?」

「あ、ひんやりする」

「本当だ、強めのそよ風って感じだ」

「うーむ、まだ強くせにゃならんのか。まあ難しい程職人は燃えるってもんじゃ!頑張るか!」

「これはこれで、クーラー…冷房にええな」

「レイボーてなんじゃ」


冷房の説明をして、この魔文はこの魔文で使えると分かりちょっと嬉しそうなマロノである。

夏場に活躍するということで、これからレイボーを優先的に完成させるということになった。


「ふむ、名前どうするか…ミッツ候補決めろ」

「えっ俺?えー…じゃあ冷たいから涼風(すずかぜ)の『すずか』で」

「おう、候補にしておこう。さてそろそろ出発だろ、見送ろう」


この夏、ミチェリアの商業ギルドに冷房改め『すずか』という商品が持ち込まれ、ミチェリアでの熱中症患者が大幅に減ることになる。数年後には王国全体に広がる一大事となって、開発者マロノが注目され国王から直々に王都へ召喚され称賛されたせいで倒れるのはまだ知らない。

なんだかんだ言ってマロノもまたこの村の住民なので人見知りではあるのだ。


マロノの家を出たサイとミッツはその辺りにいたビーマやナジェロ…ほぼ村人全員に見送られて、またフェリルを目指すことにした。






「で、また宵待星沈むぐらいにフェリルへ着く、と」

「俺は夜のフェリルにしか入られへんのか?」

「俺も実は夕方以降のフェリルしか入ったことないんだ」


ナルキス村を明光星が2つの頃に出発し、ただひたすら徒歩に徒歩を重ねてフェリルへと到着した。

今回はハニーグリズリーに遭遇していない。良かった。


フェリルの門番と朗らかに話をして身分証明をした後、門番から連絡を受けた執事シャーフが既にフェリルの入口で待っていた。


「一週間ぶりでございます。サイ様、ミッツ様。無事弓は手に入れられましたか?」

「シャーフさん!ちゃんと弓作って(もろ)たで!」

「お久しぶり…はちょっと違うな。あの後、フェリルに異常は?」

「特にございません。ハウダ様も神狼王様もお元気です」

「ハニーグリズリーは?」

「神狼王様の結界により、今のところ被害はありません」

「なら良かった。ところで、何故シャーフさんが?」

「もちろん決まっているではありませんか」


シャーフが手で背後を示すと、ダルダット家の馬車があった。


「今回もダルダット家でお泊まり下さい、とハウダ様からの申し付けでございますので」

「今回はダルダット家の用事でもないのにええんですか?」

「そうですよ、畏れ多い。今からでも宿を探して…」

「いえ、そのですね、宿は今空きがないかと…」

「は?」


シャーフから事情を聞こうとすると、前を通りかかった獣人の冒険者たちが雑談しながら歩いてきた。犬系獣人とネズミ系獣人のコンビのようだ。


「いやー宿ギリギリ空きあって良かったな!」

「ほんとに。安宿の倉庫だったが野宿よかマシだよなぁ」

「野宿の連中もいるし、きっと日頃の行いが良いんだな!」

「前に娼館で娼婦泣かせた奴の台詞とは思えないな」

「あっあれはエルザちゃんが俺の尻尾を勝手に触ろうとしてつい声荒げちまっただけで!ちゃんとお互い謝ったし!」

「はいはい。そのことも明日ちゃんと神狼王様に伝えるんだぞー」

「分かってるよ!それにしても…本当に復活されたんだな」

「ああ…、まさか生きてる間に『拝謁』出来るとは思ってなかった。近くにいて良かったな。ファジュラで活動してたらすぐ戻って来られなかっただろうし、王都だと微妙に距離があるし」

「ああ明日が待ち遠しい!飯買ったら早く宿帰って寝ようぜ!」


冒険者たちが飯屋に向かって早歩きするのを見送ったサイたちは、シャーフを見た。


「…とまあ、このようにですね。神狼王様が復活したこと、そして復活祭を行ったことが2日程で王都まで広がりまして」

「ど、どうやって?王都てここから近いん?」

「いや、歩くと1ヶ月以上かかる……鳥系獣人ですか?」

「惜しい、ドラゴニュートの方です。ライラム様という冒険者の…」

「わあ出た。ライラムか」


サイが納得したように頷く。


「知り合い?」

「ナルキス村で言っただろ。キング級にドラゴニュートがいるって。そいつだ」

「あー」

「近くにいたのか…。で、先祖化して王都まで飛んだと」

「左様です。おかげで近隣にいた獣人が次々にやって来まして…嬉しいやら忙しいやら。それで宿や食料店は繁盛しております」

「はは…、えーと、ではお世話になります」

「ええ、では馬車へどうぞ」


こうして再びダルダット家に一泊することとなった。

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