63 弓矢の完成
武器の説明回です。
ナルキス村滞在4日目と5日目は特に何事もなく、村人から声をかけられて薪割りの手伝いをしたり、近くの森にある泉に住み着いた魔物を討伐したり、刺繍作品を作ってはどこかからナジェロが買い取りに来たり、ゆったりとした時間を過ごした。
この2日間は弓の仕上げもあってか、ウルスが姿を見せることはなかった。
「おはようさん」
「おはよう。予定通りなら今日ぐらいにミッツの弓矢が出来るはずだが、とりあえずウルスの様子見に行くか」
「はーい」
母屋に見に行く。
居間でうつ伏せになって倒れているウルスを発見した。手にはミノが握られている。
「きゅ、救急車ぁーーー!衛生兵ーーー!!」
「キュウキュウシャ?衛生兵は主要な町にしか常駐してない…ってウルス、燃え尽きてるなぁ」
「あ、燃え尽きとるん?終わったんかな?」
「終わったよ!」
がばっと起き上がるウルス。隈が出来てるが元気そうだ。
「でもちょっとご飯食べさせてね!その後説明するから!」
「いや寝といてくれてええよ、俺らも食べて露店最終日やってくるし。朝食置いとくで」
「ありがと…ぐー」
すぐさまそのまま寝るウルス。
朝食として、ビーマ家ヤギ乳ヨーグルトとパンとリンゴジュースを置いて露店を開きに出た。
「えーおはようございます。今回の冒険者露店、今日で最後です」
「えー」
「ということは…ウルスが完成させたのか」
「もっとゆっくり作って良かったのに…!」
「まあ仕方ないわよねぇ」
恙無く露店を終わらせることが出来、「またいつでも村に来なよ!」と言葉も貰った。
ウルスの家へ戻るとちょうど食べ終わった所のようだった。
「あ、おかえり!あとで僕にもちょっと色々売ってくれない?」
「俺はええよ」
「俺も構わない。それより、完成したのか」
「もちろん!動作確認も終わってるよ!」
「………動作…?弓に動作って必要だっけ?弦の引き絞り具合とかか?」
工房から持ってきた弓は少し変わった形をしていた
ミッツの肘から手先ぐらいの長さがある、少し分厚いブーメランのような白い物を居間に敷いた布の上に置く。隣には小さな袋もある。
「まずミッツから『折り畳み式とか出来ない?』と聞かれて、これがまた苦労したんだよ。弓を折り畳む!弦を張ってなきゃいけない弓を!まあ折り畳んだけど。
はい、まずこれが弓ね。持ち手にあるこの部分を押すと…」
「うわ!ガショッてなった!三折りやったんが自動で組み上がるんか!」
「そう、組立ては勝手になるんだけど弦は自分で張らなきゃいけない。ここはどうしてもね…。でも片側に弦の端があるから、ここのホックを引っ張ってもう片側に引っ掛けると…」
「おお弓出来た!すごい!変形やん!」
ブーメランみたいな物の真ん中にあるスイッチを押すと、三折りになっていた折り畳み機構が解除され、1メトー程の白銀色の弓へと変形した。
弓の片側の先端が赤く塗られており、そこから覗くホックを引くと細い弓の弦が出て、もう片側にある引っ掛け部分にホックを掛けることで弦を簡単に張れるようにしたようだ。
「ほんまにベルガーセブン専用討伐武器みたいや」
「あ、セブンの武器なんだ」
「うん!ナインは刀やねん、残念やけど俺に刃物はあんまり向いとらん」
「カタナ?刃物なんだね」
「そうや、日本刀なんてないもんな。んーと、故郷の片刃剣やね」
「ふーん。でも確かにミッツ、包丁捌きはなかなかだが武器として使うとちょっと技量が足りないよな」
冒険者ギルド奥にある演習場では、新人冒険者が色んな武器を試せるコーナーがあり、弓を使うと決めたミッツも意気揚々と色んな武器を試していた。
結果として、剣はそこそこ、弓が一番使え、ハンマーは持ち上げに失敗、斧は危うく足の指を落としそうになった。立ち会いとして傍にいたギルド職員のナビリスも悲鳴をあげていた。
「で、次に矢なんだけどね。これがまた大変だった」
「ごめんなさい」
「いや、僕も新境地を拓けた気がするよ。これはすごい。今度からこれもちょっと依頼人に提案してもいいかも」
「ほんま?やったー」
「お前ら、一体何作ったんだよ…」
「ふふん、これだ!」
ウルスがドヤ顔で弓の横に置いていた袋から、金色の三角形の小物を数個と手袋を取り出した。
手袋の甲部分にはポケットがついており、三角形の小物を入れることが出来そうだ。
「これがミッツが言っていた、魔力で形作る矢だよ」
「魔力で…?」
「まずはこのトライハンド、三角のこれね。これを手袋のポケットに入れる。そしてトライハンドに魔力を込めると魔力が実体化した矢が出来る。使用者の魔力の質によって色が変わる。僕は火の魔力が一番強いけど星の魔力もあるから、矢の色は赤くキラキラしてる」
ウルスが手袋をつけ、矢も無しに弓を構えた。
手袋に魔力を流すと、魔力の流れは手袋を通して鋭い直線となり、ちょうど矢の長さとなった。
「魔力で矢を作ったら矢の削減になるかもと言っていたからね。もちろん魔力切れの時のために普通の矢も大量に作ったからストレージバッグに入れといてくれ」
「はい!」
「とまあ、こんな感じかな。どう?」
「満足!」
ミッツは喜びつつガシャガシャと組み立てたり折り畳んだりしている。トライハンドに魔力を通して青色の矢を作り出してみたり、それは嬉しそうにしていた。
「じゃあ、これはもうミッツの物だから、名前を付けるなり何なりしてね」
「名前?俺が付けるん?」
「僕は別に巨匠だの名匠だのではなく、ちょっとだけ腕のたつ職人ってだけだからね。やっぱり使う者の思い入れのある名前があった方がいいかなって」
「名のある職人が作った物には銘があるけどな。ちなみに俺の短剣はある方から貰った銘付きの武器だ」
「へえ、なんて銘?」
「『アルデバラン』という銘にして名だよ」
「へー。ほな俺も付けよかなぁ」
組み立てた弓矢を見て悩むミッツ。
「うーん」
「その、ベルガーナインだったか。その中ではどんな名前だったんだ?というか名前あったのか?」
「あったで!『メテオアロー』て名前!商品化もされとって、『DXベルガーナインシリーズ メテオアロー』て名前の玩具。色んなアニメの武器や機体、あと登場人物を忠実に小型化に作るのが日本の誇る技術のひとつやねん」
「よく分からないがすごそうなのは伝わった。ではそのメテオアローにするのか?」
「待って、メテオアローは星魔法にあるから止めといた方がいいよ。純エルフに怒られる」
「そもそもメテオアローにするつもりないで。メテオアローはベルガーセブンだけの武器や、俺が取ったらあかん…!」
「お、おう」
「なので、見た目から名付ける」
片側が小さく赤に染まった白い弓と三角形で矢となる金色のトライハンドを見て、ミッツは名前を決めた。
「鶴。鶴っぽいな」
「ツル?」
「この世界て鶴おる?白い鳥で羽の先っちょとかが黒くて嘴は黄色、頭に丸い赤があるんやけど」
「いやー、僕は知らないな」
「俺も見たことはない。まだ見つかってないだけかもしれないが」
「ほな、この弓矢は『クレイン』で。ウルスさん悪いねんけど、この弓の真ん中に邪魔ならん程度に羽の模様彫ってくれん?」
「いいよ」
こうして、渡り人は異世界の鳥の名を持つ武器を手に入れた。