60 ユラ大陸的種族講座
「なるほど、レイゾーコとレイトーコ。それがあれば夏の食材もある程度保てるし食あたりも減る…いいな」
「主婦にとって食材が無駄にならないというのは大変嬉しいですね!ところでお名前はどういう意味でしょう?」
「えーと、冷やす箱?と凍らせる箱?みたいな感じ。まあ名前は全然変えてええと思うんで、とりあえず参考にしてもろたら。この村は氷室あるから大丈夫やと思うんやけど、まあ便利やし売れるかなぁ思うて」
「そうじゃな…!最近とんと考えが纏まらなかったし、ちと考えてみるか!この紙は貰ってもいいか?」
「どうぞどうぞ」
ルーズリーフに描きつつ知っている知識をなんとか絞り出し、説明を終えてからマロノは利点や必要経費、必要材料を考えて「いける」と感じた。ついでにルーズリーフも冒険者露店で売ってくれとも言った。
「ありがとな。後でウルスにも礼を言わんといけない」
「ウルスはあと4日は作業してるぞ。ミッツの武器を頼んでる」
「なんじゃ、なら俺が完成させてから礼でもいいか。お前らも完成するまではここにおるんじゃろ?渡り人の坊主、毎日少しでええから家に来て進捗確認してくれ。流石に完成はせんじゃろが、ある程度は理解深まると思う」
「はいよ。失礼にならん時間に来ますわ」
早速意欲が湧いたマロノも工房へとのしのし歩き、マーナに見送って貰った後は道行く村人に話しかけ、特に手伝いは無いということでのんびりと散策することにした。
「ハーフエルフの次はドワーフに会えたなぁ。ほんまに背ぇちっちゃいんやな」
「…そっか、ミッツは人間族しかいない世界から来たんだったな。つい忘れかけそうになる」
「馴染みかけとるってことかな?」
「そうだな。この機会に種族の説明を少し詳しくしておくか。この村は割と多種族の集まりだしちょうどいい」
「お願いします」
サイは村の真ん中にある井戸の近くのベンチへ座ると、ルーズリーフを出して準備万端のミッツへ種族の違いを説明し始めた。
今回は人間族を除いた、主となる種族を説明するようだ。
「まずはエルフ。ウルスはハーフエルフで耳が俺たち人間族より少し尖っているだろ?純エルフは更に耳が長い。ハイエルフはエルフと耳の長さは変わらない。迫害されていた時代は『耳長人』と呼ばれていたが今はエルフと呼ばれている。寿命がすこぶる長くて、エルフが平均寿命3000歳、ハイエルフは8000歳、ハーフエルフは1000歳程度らしい。皆、整った容姿をしているぞ」
「おお…」
「彼らはユラ大陸南西側にある精霊の国アルテミリアが生誕の地とされていて、基本的にはアルテミリアにいる。ウルスやS級冒険者ラロロイのように他国にいるのは、なかなか活動的なエルフか、その土地で生まれたエルフとかだな」
「ダークエルフとかおらんの?」
「…いや、聞いたことないな。チキュウの架空話にはいたのか?」
「おったおった。エルフは耳尖っとって美男美女ばっかで菜食主義やったりそうでもなかったりしてハーフのことを偉い嫌っててあと奴隷にされかけたりえっちな目にあったりする」
「後半これっぽっちも合ってないな!?いや迫害の時代なら合ってんのか…?まあいい、別に菜食主義ではないしハーフのことも嫌ってはない。まあ一族にもよるかな?」
「ふむふむ、あとは音楽好きで星魔法使いが多いんやっけ」
「そうだな」
「次にドワーフ。ドワーフも元々はこの国ではなく浪漫の国ファジュラが生誕の地らしい。こちらも長寿で、大体2000歳までは生きるとか。魔力はやや少ない傾向だが、魔力を体に巡らせて独自に身体強化する能力に長けているとか。なので鍛冶や力仕事を得意としている」
「ふむふむ」
「容姿は…さっき見たマロノ爺が模範解答だ。背が小さく筋肉質。男は髭の量が豊富な程強いとされているとか。女も背が小さく少し筋肉質だが、まあ、その、胸が大きい」
「重要やな」
「あと酒が大好き。正確には好きというのもあるが、飲むことで魔力の巡りを良くするらしい」
「アルコールの力で強くなるんか」
「獣人はもうフェリルで見たな、大体あんな感じだ。色んな動物を先祖に持つ。ネズミから牛、特殊なのはドラゴンもいる。ドラゴニュートというやつだ」
「ドラゴニュート…!竜人ってやつやな!見てみたいわぁ!」
「数は少ないんだが、キング級に一人いるからその内会えるといいな」
サイが村人の一人を示す。成人しているように見えるが明らかにミッツの腰までしか身長がない。ちょこちょこと歩いて軒先に干してある大きい布を頑張って回収して家へと運んでいる。
「あの種族は小人族。人間族を小さくしたような容姿の種族だが魔法の使い方が断然上手い。手先も器用だから裁縫職人などが多いな。だが俺たちに通じる言葉は話せず独特の言語を持ち、異種族と話す時は身振り手振りで会話を試みて来る。異種族言語スキルがあると聞き取れるらしいが、生憎俺もスキルは持っていない。逆に俺たちの言葉は通じるから安心してくれ」
「小人族、なるほど。そのうち刺繍関連で知り合いになれそうやな」
「お近づきの時にはお互いの得意な作品を交換したりするぞ。もし知り合ったら渡すといい」
「名刺交換かな?」
小人族の男性がこちらに気付くと、布を置いて笑顔で近付いて来た。
何かを言いながら右手をぶんぶん振ってニコニコしている。
【───?────!】
「な?聞き取れないけど挨拶はしている気がするだろ?」
「言葉の発音自体は分かるけど確かに意味分からん、でもなんとなくそんな気ぃするな…ん?」
小人族はポーチをごそごそ漁ると、布製の小物ケースをサイとミッツに差し出してきた。
これがお近づきの印らしい。
「ほう、可愛らしい。すまないが、俺は手芸はあまりしなくて。ミチェリアで買った木苺ジャムでもどうぞ」
「小物入れや!ほな俺からは…お手製刺繍ハンカチを」
【!??──**~──!*───!?】
ジャムをニコニコしながらポーチに入れ、ミッツの刺繍作品を受け取った男性はとても驚き、ハンカチを裏返したり至近距離で眺めたりしている。
やがて感謝の気持ちと思われる手振りを伝え、全速力で走って行った。
「…なんだったんだ?」
「さあ…?気に入ってくれたんかな?」