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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
旅と弓と寄り道の犬
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58 ナルキス村の冒険者露店

「ふむふむ、これなら当初通り5日前後で多分作れる。早速作業に取りかかる、というか早く取りかかりたい作りたいやりたい」

「よろしくお願いします」

「じゃあその間、悪いが泊めてくれるか?」

「いいよ。いつも通り、僕の家の裏小屋を使ってくれ」

「ありがとう。ミッツ行くぞ、既にあいつは創作脳になってる」


走り書きしていた木板と発案まとめのルーズリーフをぶつぶつ呟きながら眺め、ウルスは工房へと入って扉を閉めきった。閉めきった中から「徹夜だー!」と聞こえ、おそらく5日間作業に集中するつもりだろう。エルフ族は一週間徹夜でも元気なのだ。


「じゃあ裏小屋に行って今日はもう休むか。明日から…いつもなら町から持ってきた品を売ったり村の手伝いをしているが、ミッツはどうする?」

「んー、サイにとりあえず着いてくわ。俺のお菓子とか調味料も売れたら売る」

「了解。とにかくもう暗いし寝床を作ろう。裏小屋は前この家を使っていた馬飼いが使っていたものがそのまま残っていてな、今日から5日は乾燥藁にシーツでベッドだからちょっと不便に…」

「藁!?藁にシーツ?!うわ、アルプスのあれやん!!テンション上がるわー!早よ準備しようや!!」

「えっ、はい」


おそらくアニメを見た日本人は必ず憧れるであろう、アルプスで少女なアニメに出てくる藁ベッドに大興奮したミッツは、サイを引っ張り裏小屋へと走った。

高文明で育ったミッツには辛いことかもしれないがこれもまた冒険者として慣れなければなるまい、と思って心をオーガにしていたサイは呆気に取られながらも藁ベッドの整え方を指示し、横に並べたベッドでスイスな少女の話を聞きながら眠りについた。


その夜、サイもミッツも大空をブランコしたり大きい犬と山で戯れたりする夢を見た。

ミッツの夢ではセントバーナード、サイの夢ではグランドフェンリルだったのは多分世界の違いだろう。





「おはよう」

「おはようさん」

「お前のせいでヤギミルクとチーズ乗せ黒パンが食べたくなってるんだがどうしてくれるんだ」

「ごめんて」


詳細に話し込んだせいで夢にまでアルプスの暮らしが出て来た二人はひとまず朝食としてパンと牛乳を食べ、村の中心地へとやってきた。

既に村人はちらほらと見え、サイを見て一人の子供が寄ってきた。


「サイ兄ちゃんだ!いつ来たの?」

「おうビーマ、昨日の夜来たんだ。またウルスに用があってな」

「今回は何日いるの?」

「5日だ。今回はこいつの弓を頼んでいてな」

「ども」

「知らない兄ちゃんだ!誰?冒険者?オレね、ビーマ!」

「ビーマくんな。俺はサイとパーティ組んどるビショップ級冒険者のミッツや。よろしゅうね」

「ミッツは渡り人、違う世界から来た人間なんだぞ」

「すげー!すげー強い兄ちゃんとすげーとこの兄ちゃんのコンビなんだな!」


ビーマは目をキラキラさせてすごいすごいと連呼し、ハッと気づいてサイに向き直った。


「そうだ!サイ兄ちゃん、うちのヤギが一昨日から乳めっちゃ出してんだ!でもチーズにしてもまだ余ってるから貰ってよ!」

「ミッツ、星のお導きだ。ビーマの父親はヤギの乳製品職人だった」

「なるほど納得、これが星のお導きか」

「??」


ちょうど飲みたかったしチーズも食べたかったと説明しながらビーマの家に行き、ついでにサイの即席露店を家の前に出させて貰うことにする。

村に来るといつも何かを売るサイは滞在中どこかで露店を開かせて貰うため、村人もあまり危機感を抱かずに許可を出すのだ。


「許可ありがとうございます」

「いえいえ!たまに来てくれて助かってるのよ~、村から町まで少し遠いからなかなか行けないし…旦那たちにも良い刺激になるのよ」

「それは良かったです。今回は渡り人の商品もあるんで楽しみにして下さいね」

「渡り人の…ということは異世界の!?まあまあ!きっと珍しいんでしょうね!隣の奥さんにも伝えないと!ビーマ、露店のお手伝いお願いね!あなたー、ちょっと私出てくるわ!」


ビーマの母親は近所の主婦友達に知らせるために走り去った。

ここでも主婦は強いらしく、呆気に取られていたビーマはおとなしく家の中からテーブルと椅子を引きずってきた。

敷布を敷いてテーブルと椅子を設置し、二人でストレージバッグから出した商品を並べていると、ぞろぞろと主婦や職人が集まってきていた。


「どうも皆さん。昨日からお邪魔してます」

「えっと初めまして、おはようさんです」

「こっち、パーティを組んでる冒険者のミッツです。もう聞いているかもしれませんが…」

「知ってるわよ!渡り人なんでしょ?聞いてからすぐ財布掴んだわよ」

「私も!生きてて買えるかどうか分からないもの!うちは夫まで来ちゃったわよ」

「生きてる間に渡り人に会えるなんて、俺だって彫刻刀ぐらい置くさ!なぁ?」

「おうよ、俺もヤスリ床に捨てて来ちまったぜ」

「なあサイ、あれほんまに人見知りなん?」

「いつもは出て来ないし、あの職人たちは人見知りレベルが低いぞ」


いつも以上に集まったことに若干引きつつもサイは着々と対応していく。


「今回、俺からはミチェリアの商業ギルドで仕入れてきた最新の工具セット、食材各種、布です」

「俺から出せるんは種類少ないけど数だけはあるで。地球産塩、地球産砂糖、地球産クッキー、地球産飴、地球産チョコレートですわ」

「どう考えてもミッツくんの方に目が行くんだけど、チョコレートって何かしら」

「お塩にお砂糖…!あんな高級そうなものが…!でも私、布も買わなきゃいけないのよね…」

「チキュウ…異世界産ってことは限定品よね…?限りがあるはずだわ…」

「あ、俺の持ち物って魔道具になっとるみたいで、無限に補充されるらしいんですわ。それに皆さんこの村から出ることも少ないって聞きましたんで、ミチェリアに買いに来て貰うんもなんか悪いし。今回はこの大陸のだいたい定価ぐらいで、5日間毎朝売らせて貰います」


その言葉に主婦たちは目を光らせ、今握っている財布を空にしてでもミッツの商品を買うことを決めた。

今回別に俺の品はいらないのかもしれないなぁ、とサイはぼんやり思った。

心をオーガにする


気の毒だと思いつつも、あえて襲いかかるオーガのような心をもって接すること

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