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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
旅と弓と寄り道の犬
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56 お邪魔しますよナルキス村

「さて、大街道に戻ってきて今度こそナルキス村へ行くぞ」

「いやー予想外やったなぁ。…え、もしかしてこういうこと、こっちやったらよくある?」

「度々起こってたまるか」

「せやろな」


ハニーグリズリーを置き去りにした後急いで街道を進み、大街道を歩きながら本来の道のりを行く二人。今はおやつ時のため、フェリルで貰ったドライフルーツを齧りながら進んでいる。

予定より2日ほどズレているが、万が一のことも含めて計画しているしクエストでもないので二人の足取りは極めて普通である。


「まあ貴族絡みは面倒なことが多いのは事実だな」

「もしかして今までも何か事件に巻き込まれでもした?」

「冒険者やってると1つや2つ、厄介なことに巻き込まれるぞ。今回の件で学べて良かったな」

「学ぶの早すぎん?もうちょい段階ってもんをや」

「何事も突然起こるからな」

「まあな」


今まで起きた厄介な貴族絡みについて少し聞いていると、サイが細い街道の一つを指した。

草原の真ん中を突き抜ける街道を進むこと、3時間。宵待星が出る夕方に、長閑な村へと着いた。木製の家が並ぶ風景はどこからどう見ても一般的な村である。

ミチェリアやフェリルと違って簡単な木の柵に守られた素朴な村であるが、ちゃんと門番はいる。サイとミッツが村へ近付くと門番らしき中年の男が声をかけた。


「よう冒険者かい?ここはナルキス村だ」

「なんだ、忘れられてるのか寂しいな。俺はサイ、こっちはミッツ。その通り冒険者で、この村のウルスに用があってミチェリアから来た」

「なんだ、サイかよ。そっちは連れか?一応魔石見せてくれな」

「はいよ」


身分証明の魔石をそれぞれ見た男はあっさりと村の中へ通した後、また門番として外を眺め始めた。


「さて、ナルキス村についてあまり話してなかったが、ざっくり言うと『物作りに特化した普通の村』だ」

「物作り?」

「俺の個人的な知り合いである弓矢職人ウルスを始め、かなり凄腕の職人とその家族が住んでいる。が、その評判が外で聞かれることはあまりない」

「そういやタレゾさんも知らん言うとったね」

「俺たちが商人だったらまず村に入れてくれない。何故かと言うと、良く言って『一点集中型の職人』、悪く言って『引きこもりの人見知り』がこの村に多いからだ。自分の作品を世に出すのは良いが万が一貴族がここに押し掛けてきたら、間違いなく職人の何割かは色んなショックで気絶する。なので注文する側は職人の名は出しても所在地は信頼する者にしか言わないんだ」

「なるほど」

「ウルスはまだマシな方だが、他の職人の一部は本当に人見知り激しくてな。周りを見てみろ」


ミッツがキョロキョロと見渡すと、歩いている人は少ないが家の中からこちらを伺っている気配がなんとなくする。

おそらくこの気配が職人たちで、歩いているのは普通の村人である。


「なんか警戒されとるね」

「こんなもんだよ、小さい村だから結束は固いしみんな人見知りだし。とりあえずウルスのとこ行くぞ」

「はーい」


少し歩いた村外れの家でサイは扉を叩いた。

しばらくすると扉が少し開いてぼそぼそと声が聞こえる。


「…合言葉…」

「『天の雫の群生』」

「…サイ、久しぶりだね。その子は?」

「あんたも興味あると思うぞ。害はない、俺が保証する」

「それならいいけど…」


扉が全開になり、中から男が現れる。

ひょろりとした灰髪の男の耳は少し尖って(・・・・・)いて、片眼鏡を掛け直しながら先程より大きい声で話しかけてきた。


「え、と、初めまして…。僕はナルキス村のウルス。ハーフエルフ、『非契約者』……あと弓矢職人…です」

「初めまして、ミツル・マツシマて言います。ミッツて呼んで下さい。『獣使い』のビショップ級冒険者で渡り人ですわ」

「渡り人ぉ?!!!」


人見知りとは思えないぐらい村に響く大声が出た。




「いや、びっくりした…渡り人とは」

「俺もあんたのでかい声初めて聞いてびっくりした」

「俺は初めてエルフぽい人に会えてびびったわ…おるのは知っとったけど面と向かっては初めて」


家に入れて貰えたサイとミッツは村で作られているお茶を啜りながら、改めてウルスと居間で向き合っていた。

家の中は落ち着いた感じで、居間からは工房も見える。作業台や床に弓の弦や木の削り節が散乱している。


「で、サイ。何の用?別に僕頼まれてないよね…?」

「ああ、今回は俺ではなくミッツの武器を発注しに来た」

「渡り人の…」

「ミッツでええですよ?」

「あ、うん、慣れたら…。弓矢の発注でいいんだね?」


ウルスはもしょもしょと呟くと、工房の奥に引っ込んで、すぐにまた戻ってきた。

手には木板と墨が握られている。ミッツは無限ルーズリーフを使うが、この世界の平民は皆こういった筆記具を使っている。


「僕はその辺の市や店に卸すような物ではなく、使う者に合わせた弓矢を作ることを信条にしてるんだ」

「オーダーメイドやな」

「おーだー…?まあいい。普段は初めての人はお断りしてて、信頼してる者からの紹介とかじゃないと受けないんだ」

「一見さんお断りってやつやな」

「あと…代金は出来上がってから貰う。でもその前にその人が出せる何か特別な物を貰うことにしてる。今貰っても大丈夫だけど……」

「俺が知り合って弓を頼んだ時は、余ってた天の雫を見せた」

「ああ、あの鑑定魔法ん時の…。サイって弓使うんや?」

「まあ一通り武器は使えるけど、その弓は知人に贈る用に頼んだんだ」


サイがお世話になったことのある老人に贈り、その弓で町に来たならず者を蹴散らした逸話を聞くと、ミッツは悩みながら鞄を漁る。


「うーん…クッキーとかチョコは割と色んなとこでぽんぽん出してしもてるし、塩は…主婦なら喜ぶやろけど、ルーズリーフもポケティも消耗品やし」

「全部初めて聞くんだけど」

「既出と言えば既出だが、ウルスにとっては初めての物だぞ?それで通用するとは思うが」

「でもなーうーん………あっ!音楽!」


ミッツは商業ギルドでの魔導書の件を思い出した。

確かエルフの笛はこの世界では一級品だった、と。


「ウルスさん、ハーフエルフってことは、半分エルフってことやんな?音楽好きなん?」

「う、うん、もちろん。エルフの血を持つ者は良い音を好むよ。僕も弓矢の音が好きで弓矢職人になったんだし。もちろん大衆的な陽気な音も好きだよ」

「ほなクラシックも滞在中に聞いて貰うとして、これはどうや?」


ミッツは音の魔導書を開くとお気に入りの曲を流し始めた。

ミッツがよく見ていて大好きなアニメの主題歌である。

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