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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
旅と弓と寄り道の犬
55/172

55 ばいばいフェリル、こんにちはくまさん

「ではハウダ様。ハニーグリズリー繁殖期の対策、よろしくお願いします」

「うむ、渡り人の鑑定に疑う余地なし。しっかり住民に通知を出して巡回と警備を増やしておこう」

「我の方でも注意はしておくし、フェリルの周りに侵入感知の結界でも張っておこうかの」

「それは有難い。是非お願いします」


用事を終えたハウダが家族揃ってサイたちとグランドフェンリルの元へやってきた。

しっかりとハニーグリズリーの繁殖期(脅威)とミッツの鑑定スマホ魔法の覚醒を報告しておくのは忘れなかった。


「では俺たちはそろそろ目的地へ向かおうかと思います」

「なんや…えらい色々ありましたけどお世話になりました」


二人揃ってお辞儀とお礼をするとハウダたちは笑って首を振る。


「何を言うか。それはこちらの台詞だ、本当にありがとう。ポメルのことだけでなく、神狼王様の復活まで成してくれたことはフェリルの民が永遠に語り継ぐことだよ」

「そうだよ!お兄ちゃんすごいんだよ!」

「実感沸かへんけど、まあ喜んでくれて良かったわ」

「これからも困ったことがあればいつでも来てくれたまえ。もちろん、何もなくても来てくれたまえ。いつでも歓迎しよう」

「はい!またお世話になりに来ます」


「そのことなんだがの」

「ん?どうしました神狼王様」

「サイにミッツ。目的地へ向かった後はまっすぐ急ぎで帰るかの?」

「そうですね…。ナルキス村まではここから約1日、そこから一週間前後滞在してからミチェリアへ帰る予定です」

「ふむ、一週間か。すまんがナルキス村からまたここへ来てくれ」

「なんで?」

「うむ、今はまだ確証出来ぬから言えんのだが、まあその時に話したくての。ミチェリアに帰ってから来てくれても構わん」


どうやら今は理由を話せそうにないらしい。


「はあ。分かりました。ミチェリアには余裕をもった日にちを伝えてあるので大丈夫です、帰りにフェリルへ寄りますね」

「すまんの」

「思ったより早い来訪になりそうやなぁ」

「そうだな、だがとりあえず目的達成しに行くぞ」

「せやな、待っててや俺の弓矢!先代の後を継いでくれ…」


ミッツは腰につけていた弓矢収納ケースに仕舞っていた弓の欠片(・・・・)を撫で、寂しそうに呟いた。


魔法ばかり使っていて弓矢をあまり使っていないように見えるミッツではあるが、実は討伐クエストなどで地味に上手く弓矢を使えるようになっていた。動かない対象であれば必中させることが出来る。

生き物も魔力を持っているので、当然魔力や魔法を使って攻撃をしたり防御したりもする。中には魔法を無力化してくるものもいる。そういう時、魔法は役に立たなくなるので冒険者は武器を手に立ち向かうこととなる。


フェリルに来る前に会った『森のくまさん』ことハニーグリズリーがヒップアタック(物理攻撃)で攻撃してきた時も、サイは咄嗟にポメルを抱えつつ短剣を引き抜いて魔法で、ミッツは咄嗟に弓矢で反撃をしていた。

矢は1発だけハニーグリズリーの右目元をかすったが、一瞬で近付いたハニーグリズリーはミッツの手元にあった安物の弓を『ぺいっ』と爪ではたき落としてあっさり破壊した。その隙にサイが煙幕玉(武器屋の市販品)をぶつけて3人は全速力で逃げ出したのだ。

尚、ミッツは無傷であったがハニーグリズリーのことはちょっとだけ嫌いになった。


なので……───





「こんにちは森のくまさん!会いたくなかった!さよならお元気で!」

「逃げろ走れとりあえず逃げろ!駿足(スピーディー)!」

「前おらんかったのに!それ息子さんですか娘さんですか!?可愛らしいですねぇぇ!!」

「グルルァアアアッ!!」


フェリルの住民の皆とグランドフェンリルに見送られたサイとミッツは、右目の下に真新しい傷のあるハニーグリズリーと森で出会い、花咲く森の街道を走っていた。

そう、2日前に会ったあの雄ハニーグリズリーである。なんと子連れでの登場だ。


野生の獣というのは逃げる獲物は追いかけるものである。

故にハニーグリズリーも逃げ出した人間をとりあえず追いかけるのも当然だし、その人間が自分に怪我を負わせた相手だと理解しているのでもっと追いかける。

そしてどの種族でも父親とは、子供の前でかっこよく見せたい生き物である。そして獲物を愛する妻に見せたい生き物である。


そういうわけで今、鬼ごっこ(デッドレース)が始まっていた。


「今日諦め悪いな!」

「子供の前必死なんちゃうか!知らんけど!」

「ご母堂が出てくる前に何としても逃げきるぞ!」

「ご母堂来はったらどうなるん!?」

「やばい!」

「今もやばいんやけど?!」


着々と距離を詰めてきている。割と足が速いと言っても所詮人間、片方は1ヶ月前までただの学生だった人間なので少し速度は落ちてきている。

流石に子連れを仕留めるのは避けたいサイは誰を簡易契約で呼ぼうかを考えて走っていると、何かを閃いたミッツが突然スマホに叫んだ。


「もしもし!『後ろの地面を柔らかくして落とし穴のごとく足止めして』!」


するとミッツたちが走った後の地面が急に柔らかくなって陥没し、まるで沼に入ったかのようにハニーグリズリー親子は地面に埋まってしまった。

すかさずミッツは鞄を漁ると音楽の教科書…音の魔導書を出して慌ててページを捲った。


「あった!くらえ『なんかリラックス効果のあるクラシック音楽メドレー』!」


開いたページから優雅な音楽が流れ始め、荒ぶっていたハニーグリズリーは5秒後にはぼんやりし始めてしばらくすると穴の中ですやすやと丸まって寝た。

ミルクティー色のくまさんが親子揃って寝ているとまるでテディベアのようである。起きると牙を剥いて襲ってくるが。


「今の音楽は?」

「えーと、地球のクラシック…なんや優雅な音楽みたいなやつ。その中でもリラックスしそうな音楽を集めたやつ」

「よく分からないが、そうか」


チキュウ用語はとりあえず置いといて、ハニーグリズリー親子を浮かせたサイは街道から離れた所へ親子を寝かせ、適当にリンゴや生肉を傍に置いて去ることにした。


つまりダッシュして逃げた。

お好きなリラックス出来るクラシックをご想像ください

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