54 神狼王のお任せ祝福
「ほう、ダルダットの礼はそういう結果となったか」
「これが一番収まりええかなって」
「俺もカフェを開くことによって悔しそうにする『天遣い』たちを早く見たいので」
「相変わらず見下しておるのか。我が戦っていた時と変わらんの」
朝食の席でダルダット家へのお願いが決まり、一応グランドフェンリルへのお願いも考えてはいた二人は明光星が2つになる頃に祭壇へとやってきた。ハウダは用事を済ませたらグランドフェンリルの元へ向かってくれることになっている。
昨日の昼よりいつの間にかしっかりとして広い造りになった祠…立派な小屋の中で、いつの間にか数倍に膨れ上がったお供え物を吟味していたグランドフェンリルはこちらを見るとしっぽをぶんぶん振りながら出迎えた。
「で、我には任せると?」
「俺は『神狼王の贔屓』貰てるから、特に思い付かんというか」
「俺も特に困ってるかと言われたら…」
「ふむ…」
「ならばサイよ。お主の因果と縁が少し歪なのは理解しておるか?」
「…は」
「ならば少しでも因果が弱まり良縁となるよう、『古狼の忠誠』という加護を授けよう。我の臣下であった狼共が、お主の因果に触れた時に少し手助けをするであろう」
「神狼王様のご加護、有り難くお受けします」
グランドフェンリルの左足でサイの額を軽く叩くと、グランドフェンリルとサイの体が淡く光った。
「そしてミッツ。お主、魔法を使う触媒、それは何じゃ?」
「これはスマートフォン。いつもスマホって略して呼んどる、地球の通信機みたいな?魔道具になったぽい」
「ふむ…本来の力は全て使えてなさそうだの」
「え、分かるん?!せやねん、カメラも使われんしネットも繋がらんし!ネットはしゃーないけどや!」
「よく分からんが、少しだけ強化してやろう」
「え、アップデートてことかな?」
念のため電源を落としたスマホを預かったグランドフェンリルは器用に前足でスマホを挟み、じっと見つめるとスマホが淡く光った。
スマホを返されたミッツは早速電源をつけると、いつも魔法を仲介する電話マークの横に新しく表示が増えていた。
「あっ!カメラのアイコン!ちょっとサイと神狼王様並んで!はいチーズ!」
「チーズ?あの乳の?」
「何故チーズ?」
スマホからカシャリと軽い音が聞こえると、ミッツが嬉しそうにサイたちに見せてきた。
画面にはまるでその空間を切り取ったかのような画があった。
「こ、これは!空間魔法か何かか?!」
「いや魔法ちゃうし。これは…えっと…撮影する、もしくは撮るって工程でな。こういう風に写された画のことを写真言うねん。撮る機械のことをカメラ言うねんけど、スマホにはそのカメラ機能が入っとるんよ」
「…分からんが、見た場面を忠実に再現させられるということか」
「それにしても…我は先程こんな間抜け面をしておったのか」
急にスマホを向けられたグランドフェンリルは呆気に取られたように口を半開きにして写されていた。サイは何ともいえない顔である。背景には祠と森が写っている。
自分の顔をてしてし触ろうとスマホに手を置いたグランドフェンリルは、ふと画面が変わったことに気づいた。
「のう、ミッツよ。何か出て来たぞ」
「え、何々?」
◆グランドフェンリル◆
狼型神獣であるフェンリルの古代種。力を磨けば準神にもなり得る狼で、実際にシャグラス王国で準神として崇めている地域もある。
性格は温厚で忠実。主人を決めると生涯をかけて忠誠を誓うが、驕りや堕落を感じるとひとたび牙を剥くので注意せよ。
「こ、これは?」
「……鑑定魔法…だな」
「まさしく鑑定魔法だの。文章で出るとは珍しい」
「あっ言語切り替え機能もあるわ。ぽちっとな」
「なっ!読めなくなった!なんだこの文字は我も知らん!」
「日本語やなぁ、プライバシー対策かな?」
「いやそれより、鑑定魔法?!前も言ったけど特殊な修行が必要な鑑定魔法だぞ?!それがこんな簡単に…!?」
「俺に言われても…スマホがすごいんやし…あ!サイはどう表示されとるんやろ?」
色々と画面をタップして出て来た情報は次のような結果となった。
◆サイ・セルディーゾ◆
人間族。冒険者。
以下プライバシー保護の為非表示となります。
◆フェリルの祠◆
狼吼里フェリルの中央に建てられた祠。救世主である神狼王が奉られている。最近建て替えられて広くなった模様。
◆フェリルの森◆
狼吼里フェリルの周囲にある森。豊かな植物と様々な動物・魔物が生息している。
※現在、ハニーグリズリーが繁殖期のため注意すること
「なんかハニーグリズリーが繁殖期やねんて」
「えっ」
「ほう、あの熊か。なかなか恐ろしいことをはっきり言ってくるの。我でも繁殖期と子育ての雌には寄りたくない」
「待って俺らここ来るまでに遭遇したんやけど、あの森のくまさんまさか」
「あれは襲い方がまだ普通だった、大丈夫。たぶん雄だったんだろう。ともかくハニーグリズリーの件はこれから来るハウダ様に伝えよう。それより…これはやはり鑑定魔法で間違いなさそうですか?」
「そうだの」
「そういや特殊な修行て何なん?」
「え、……冒険者ギルドでの筆記試験に合格した後、ギルドにある鑑定魔法取得室に鑑定のプロが指定した品々を自分で揃え、一週間籠りきりで飲まず食わず、寝る間も惜しみ、ひたすらその品々を観察したり触ったり舐めたりしまくることだよ」
「うわ…」
「耐えきれず行動を中断すると何故かしばらく鑑定魔法を獲得出来なくなる。ちなみに指定される物も割と手に入れるのが面倒だし、人によって指定物が変わる」
「うわぁ……えっ、ほなサイも…」
「おう、したぞ。俺の時はアルテミリア国にある星の神殿内で俗世嫌いのエルフ達が大事に育てている『天の雫』という稀少な花が一番面倒だったが、何か?エルフととても揉めたが最後は和解したぞ。それが、何か?」
「いや、なんでも…」
こうしてミッツは1分でちょっと変わった鑑定スマホ魔法(カメラ機能)を手に入れた。