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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
旅と弓と寄り道の犬
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52 復活祭

「これより、神狼王グランドフェンリル様の復活とこれからのフェリルをお守り下さる神狼王様のご加護を祝い……宴を始める!」

「「「おー!」」」


グランドフェンリルが石化から復活して数時間後。

侯爵家と近くの商店や民家から大量の机や露店天幕、料理などが次々と祭壇のある広場へ運び込まれ、瞬く間に宴の準備が完了した。ミッツも露店天幕の端に場所を借り、『これは異世界のお菓子です』『無料』と書いたルーズリーフをそっと貼り付けた籠にこんもりとチョコレートとクッキーを盛り付けた。

ちなみに今は4月の春なのでチョコレートは溶ける心配がほぼない。

この世界の犬猫はチョコレートが大丈夫だというのはポメルで証明されているので特に心配はない。今も新しい物好きの獣人たちがごっそり持って走っていった。


「やあサイ殿、ミッツ殿。楽しんでいるかね?」

「これはハウダ様。お仕事もお忙しい中の宴の準備お疲れ様です」

「何、今詰めなければ(ピスパ伯爵を)ならない仕事(吊し上げること)はちょうど片がついた所だ。そんなことよりこちらの方が余程重要だよ」


ハウダは機嫌良く侯爵家から持ってきたワインを呑んでいる。その横にはグランドフェンリルも座り、盃のような大きい器になみなみと注がれたワインを舐めている。


「これだの!長男が生まれた日の酒!」

「そう、こちらは美食都ゼクラードの銘酒フルールワイン!その100年物です!」

「ほうゼクラードか。500年前も確か美味い物が集まる国であったが、そうかこの国の領土となったか」

「ご存知でしたか。確かシャグラス王国が出来た時に統合されたとか…」

「ほう」


昔過ぎる話にハウダとグランドフェンリルが華咲かせる中、サイとミッツはフェリルの住民と冒険者たちに囲まれていた。


「あんたら!若様を救った冒険者なんだって?」

「若いのに大したもんだよ!ほれ儂の店で作っとる豚串持ってけ!」

「神狼王様まで復活させちまうとはなぁ!俺んとこのリンゴ酒呑んでけ!あ?未成年?ならリンゴジュースだ!」

「どっちがゴッド級だ?」

「確か髪色で見分けられるんだっけ?『獣使い』のゴッド級が銀で、『天遣い』のゴッド級が金、『悪魔憑き』のゴッド級が黒で、『非契約者』のS級が深緑!」

「じゃあ銀髪の兄ちゃんか!握手してくれよ!」

「もう一人が渡り人なんだって?さっきチョコレート?だっけ、あれ美味かった!あれ一つでクエストの疲れが取れそうだ!」

「俺も!クッキーも食ったけどあれもいいな!」

「何はともあれ、あんたらが来てくれたから若様は無事だったし神狼王様が復活されたんだ!本当にありがとう!」


だいたいがサイとミッツへの感謝と感想だが、全員が酒や食べ物を手にはしゃいでいる。

獣人が長い間守り神として奉ってきた準神が自分たちの生きている時に復活したことは本当に奇跡であるとし、その立役者であるサイたちもすごく感謝されている。

住民たちと会話が途切れたタイミングでサイとミッツは空いている椅子へ座り、目の前のお祭り状態を眺めて少しゆっくりすることにした。


「いやーこんなことなる思ってなかったわ」

「俺もまさかあの石像が本人…本狼?の封印された姿で、ミッツが解くと思ってもなかった」

「俺も。皆はしゃいではるなぁ。ハウダ様も冒険者と肩まで組んで…」

「噂通りこの里は貴族と平民の垣根が他より低いんだな。国王陛下の理想とする領地だ」

「そうなん?」

「ああ。今代の陛下は『貴族が民に寄り添う時代を作る』という目標を掲げている。まあ3割程しか上手くいっていないそうだが、この里は他と違い獣人中心の領地ということで余計に上手くいっているのかもしれない。獣人は結束が固い種族だからね」

「へーなんか予想通りやな。今も俺ら以外全員熱狂してはるし」

「まあ俺たちは人族だし、今回の関係者だが信仰しているわけでもないし、無理に盛り上がることもない。ここで控えめに楽しませて貰おう」


政治もふんわり関わる世間話をのんびりしていると、広場の中心でワッと歓声が上がる。

声の方を見ると、ハウダが魔法で祭壇を淡く照らした中をグランドフェンリルが駆け回っている。駆け回った後の足跡からは色とりどりの花が咲き乱れていく。しばらくすると散るようで、それも含めて幻想的な光景となっている。

花びらを纏いながら楽しそうに走るグランドフェンリルを見てまた泣く住民や冒険者も少なくはない。時々花を摘む子供たちもいる。


「おおー、花咲か爺さん…いや花咲か狼?」

「あれは植物魔法だな。流石準神、季節や土地に関係なく様々な花を咲かせているな。薬草まである」

「ああっタンポポとラベンダーが同時に?!」

「なっ!馬鹿な…あれはファジュラ国にしか生えない特級薬草?!散る前…いや他の冒険者が気付く前に採るぞ!これは花も草も根こそぎ採れ!」

「えっあっはい」


控えめに楽しむ発言は近くのゴミ箱に捨てたのか、サイはゴッド級に恥じないスピードで薬草の元へ走って行った。

ミッツも一応追いかけ、その様子を見て特級薬草に気付いた上位冒険者も慌てて後を追いかけた。


余談ではあるが特級薬草は遺跡の国ファジュラの更に一部のダンジョンの最下層にのみ生息する薬草で、あらゆる毒・不調に効く薬草である。

万能薬『エリクサー』の材料のひとつでもあり、見た目も白く透明な花とガラスのような草で美しい。普通の薬草や上級薬草と違い、この特級薬草だけは花も草採取しなければならない。

シャグラス王都で開かれるオークションに数年に一度の頻度で乾燥させた少量の特級薬草が出品されると、必ず商業ギルドと薬師ギルドとエリクサーが欲しい貴族との競い合いとなり、お値段は平民が30年は遊んで暮らせる金額になる代物だ。

それが目の前に生の状態でやや群生している。この事実はクイーン級・B級以上の冒険者であれば瞬時にやばいことだと分かり、何があっても採らねばならないものである。


呆気にとられながら足元に生えてきた特級薬草を1つ確保したミッツは置いてきぼりになっている下位冒険者たちと会釈しつつ、サイと上位冒険者たちが目の色を変えて採取するのを眺めるのであった。


この日の宴は来年から『復活祭』として、フェリルの一大行事になることとなる。

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