5 本当にあった大昔の話
「…あまりないかな」
「そっかー…」
「ア、私詳シく聞いタことあルよ」
「「えっ」」
諦めかけたミツルと初耳だったサイは同時にシルフを見る。
視線を向けられたシルフは特に気にせず話し始める。
「結構前にネ、専属契約結んデたエルフのおじいチゃんに聞いたノ」
「エルフおるん?!いやそれはええわ、ほんまに聞いたん?!」
「似たヨうな話とイうか…えート再現すルね!『記録変声魔法』発動」
「え?」
シルフがふわりと浮き身体をほんのり光らせると魔法が発動し、シルフの可愛らしい女の子の声から急に時代を感じさせるような老人の声へと変わった。
【シルフよ、これは儂がほんの300年ほど前に実際に見たのじゃがな、今は無きとある国が私利私欲のために前代未聞の召喚魔法に手を出したのじゃ】
「声渋っ!え、シルフちゃんこんな喋り方やっけ?!」
「これは上級風精霊が扱える『記録変声魔法』だよ。精霊が覚えている記憶の声を忠実に再現出来るんだ」
「何そのボイスレコーダー」
「ぼい…?とりあえず続きを聞こう。俺もこの話は初めて聞くと思うんだ」
【召喚魔法は見事成功した。国王が指定した広場に逃げられぬよう拘束されていた全平民の半分と王族に刃向かう貴族、召喚魔法を実際に発動した高名な魔法使い5名の命を犠牲にしてな…】
「最低だな」
「クソやん」
【召喚されたのは異世界にて普通に暮らしておった青年。青年が召喚された影響で特大魔法を使えるようになったと知ったその豚のような、いや豚に失礼じゃな、害虫以下の愚王は青年に近隣諸国を征服するよう言い放ちおった】
「…」
「急にエッジ効いとるなエルフのじいさん」
【青年は愚者を怪しみ、己は平民であった故にこれから修行をして更に力をつけると適当に言いくるめ、城下町で情報収集を行い犠牲者のことを知った。そしてブチ切れて城へ戻り奴を殴った!】
「おお!いいぞ青年!」
「エルフのじいさん、王すら言わんようなったなぁ」
【その後残った平民と貴族を率いて反乱を起こし、青年はまともな精神で反乱分子であったので囚われていた第二王子を国王に仕立て、側近として余生を過ごしたそうじゃ!これが『渡り人』と呼ばれるようになった異世界からの来訪者の由来じゃな!今日のお話はおしまいじゃ!さあシルフ早く寝なさい。明日は約束したジャイアントクオッカに乗りに行くんじゃからな!】
「…以上!」
「最後巻いたなぁ」
「待ってクオッカ?クオッカなのにジャイアントなの?この世界いるのクオッカ?」
「ジャイアントクオッカは数百年前に絶滅したとされるおとなしい生き物だよ。意志疎通が出来るし乗せてもくれる、顔も笑顔に見えるというので愛玩動物として捕獲されまくったそうだ。小さいクオッカならまだ生息してるよ」
「次の日、おジいちゃんとジャイアントクオカ乗りに行たよ!モフモフしてタ!」
「俺も知ってるクオッカやろなー、でもでかいの絶滅してもうたんか…」
「おおミツルの国にもいたのか?」
「いや俺の国にはおらんかったけど…せや脱線しとるやん!」
話が脱線したのをどうにか元に戻し、エルフの話を聞いたミツルはため息をついてサイたちに告げた。
「やっぱり俺、この世界の人やないです。俺はその青年みたいに誰かに呼ばれたんかどうかはまだ分からへんけど、絶対にそう言える。落ち着いてから色々見てたけど1つ確信出来るものをみっけた」
「ここには森しかないが…その確信とは?」
ミツルは空を見上げると徐に腕を上げた。
「俺がおった世界では、明るい時間に頭上にあるんは、太陽と呼ばれる星が1つや」
ミツルが指差した青空には、この世界の生物であれば見慣れた赤白い『明光星』が3つ連なっていた