43 寄り道は旅の醍醐味
誘拐犯に関しては穏便になんとかなった。
が、それよりも大きな問題がまだ残っていたことを皆忘れていなかった。
「こちら、ポメル・ダルダット侯爵次男です」
「おはようございます、皆さん。ご迷惑おかけしました…」
「いえダルダット様、悪いのは全面的にこいつらですので。私は商業ギルドミチェリア支部の職員でタレゾ・クルールと申します。この度は大変な事に…」
「ううん、この野営地にあの人たちが止まって良かったよ。ゴッド級冒険者さんと渡り人冒険者さんがいるなんて、すごく運が良かった。これも『星のお導き』というやつだね」
「はは、まさしく」
『星のお導き』とは地球でいうところの、幸運・運命である。
「流石にポメルくんも任せるのはタレゾに負担が強いし…あんたらはクエスト中だもんな」
「おう、流石にフェリルまで寄るのはちょっとな…」
「じゃあ俺らでポメルくん送るか。ナルキス村までの道からそう離れるわけでもないし」
「せやなぁ。めっちゃ急ぐわけでもないし、最初に保護したんは俺やし」
「ごめんね…行く所あるのに」
「全然構わへんで!ちょっとそのフェリルってとこ気になってたし!」
「気になるというか、お兄ちゃん昨日いっぱい質問してたよね?」
「……へへ」
昨日天幕で寝泊まりすることになったポメルに、ここぞとばかりに獣人のことや狼吼里フェリルのことを聞きまくっていた。おかげで大分勉強になったので、そこだけは誘拐犯に感謝しないこともない。
「確かここから普通に歩いてったら1日半くらいやっけ?」
「そう!サイお兄さんは行ったことあるんだよね?」
「ああ。一応ダルダット侯爵の依頼も受けたことがある」
「そうなの?なら安心だね!フェリルまでよろしくお願いします!」
目的地がナルキス村から狼吼里フェリルに変更された後、サイたちは商人馬車にぎゅうぎゅう詰めにされながらもこちらを罵倒してくる誘拐犯たちを見学した。
「くそが!お前ら全員覚えたからな!」「覚えてろよー!」「すぐ逃げだしてやるからな!」「ポメル!私が5年も世話してやったのを忘れたのかい?!私だけでも助けな!」
「おー何か言うとるで」
「ルージュバジリスク、ちょっと『威嚇』」
「シャッ!」
「「「すんません!」」」
ルージュバジリスクが『めっ!ダメだよ!』と強めに鳴くと大人しくなる。タレゾは微笑ましく眺めている。これが弱肉強食の縮図である、たぶん。
商業用の貨物馬車に40人を無理矢理詰め込み、ぎちぎちの馬車にルージュバジリスクが巻き付く。ある意味脱出は不可能である。
「ではお別れの挨拶代わりに誘拐犯諸君に一つ豆知識を授けよう」
「ぁあん?!」
「ルージュバジリスクは毒魔法『一瞥毒』を常時展開させることが出来る。知ってるよな?目を合わせただけで対象を麻痺させてゆっくり死に追いやるやつ」
「えっ」
「…ではルージュバジリスク、俺がミチェリアに戻るまでタレゾにお世話になるように」
「シャ!」
「タレゾ、悪いが俺たちがミチェリアに戻るまで世話を頼む。主食は果物など、1日にリンゴ10個分もあれば十分だ。肉はそこまで食べないが…5日に1度ぐらいはウサギ肉1匹分をやってくれ」
「分かりました。商業ギルドに恥じない品質を保障します。私の全責任を持って自宅でお世話し、鱗もピッカピカにしますので」
「いや別に俺のペットを預けるわけではないが…まあ仲良くな。あと指名手配の賞金手続きもしておいてくれると助かる」
「了解です。この場の冒険者全員の口座に振り込めるように手配します」
タレゾは笑顔で馬車の扉に鍵をかけ、手を振ってミチェリア方面へと馬車を向けた。その前後を冒険者の乗る小型馬車が並走するのを見届け、サイたちは今日の予定を話し合う。
「うーん…問題はどう移動するものか」
「あの馬車は?ダルダット家の馬車」
「あれは奴らが勝手に奪ってきた馬車だから、あの馬車がフェリルに入った瞬間俺たちが誘拐犯として出頭してきたと思われかねない」
「あー…」
「なのであの馬車は…ここに証拠品として、防御結界と隠蔽魔法で存在を薄くしてここに放置だ」
「うーん、徒歩はちょっと厳しいんちゃうか」
「だよな、じゃあ誰か簡易契約で呼ぶかな」
「あの…もし良かったらなんだけど…」
「ん?」
「…半日でいいから、歩いて行ってみたい!」
ミッツが狼吼里フェリルのことについて聞きまくっていた時、ポメルは反対に冒険者について質問を重ねていた。
どうやら冒険者にちょっと憧れたようだ。